第6問
ω1=a+bi,ω2=c+di を複素数とする( a,b,c,d は実数,i は虚数単位).
このとき
「全ての実数 x,y に対して
m(x2+y2)≦∣xω1+yω2∣2≦M(x2+y2)
が成り立つような実数 m,M」 を考え,そのような m の最大値を m0,M の最小値を M0 とする.(m0,M0 が必ず存在することは認めてよい.)
(1) c=1,d=0 つまり ω2=1 のとき,m0 と M0 を a,b を用いて表せ.
(2) m0 と M0 を a,b,c,d を用いて表せ.
(3) m0>0 となるための条件を a,b,c,d を用いて表せ.
複素数を題材とした「関数の最大最小」についての問題です.
まずは問題を観察します.ω1=a+bi,ω2=c+di を代入すると
∣xω1+yω2∣2=∣x(a+bi)+y(c+di)∣2=(ax+cy)2+(bx+dy)2=(a2+b2)x2+2(ac+bd)xy+(c2+d2)y2
となります.問題文の m,M は,この2次式が x2+y2 と比べて何倍の大きさになりうるか,という値を表していると考えられます.そこで条件式
m(x2+y2)≦∣xω1+yω2∣2≦M(x2+y2)
を x2+y2 で割って
m≦x2+y2∣xω1+yω2∣2≦M
と書き換えてやれば,x,y の関数
x2+y2∣xω1+yω2∣2
の最小値,最大値がそれぞれ m0,M0 になることがわかります.
あとはこの計算をいかにうまく進めるか,という話になります.
第6問(1)
c=1,d=0 より
∣xω1+yω2∣2=(ax+y)2+b2x2
となる. (x,y)=(0,0) のとき不等式
m(x2+y2)≦(ax+y)2+b2x2≦M(x2+y2)
は任意の実数 m,M で成り立つから,m,M についての条件は 「(x,y)=(0,0) を満たす任意の実数 x,y に対して不等式
m≦x2+y2(ax+y)2+b2x2≦M
を満たす」と言い換えられる.よって m0,M0 は関数
g(x,y)=x2+y2(ax+y)2+b2x2
の (x,y)=(0,0) における最小値,最大値である.
a=0 とそれ以外で場合分けして考える.
(A) a=0 のとき
g(x,y)=x2+y2y2+b2x2 となる.b2 と 1 の大小関係によって不等式
1=x2+y2x2+y2≦x2+y2y2+b2x2≦x2+y2b2(x2+y2)=b2 または b2=x2+y2b2(x2+y2)≦x2+y2y2+b2x2≦x2+y2x2+y2=1
が成り立ち,しかも等号を成り立たせる (x,y) は存在する(x=1,y=0 など)から,
m0=min{b2,1}
M0=max{b2,1}
である.
(B) a=0 のとき
x=0 のときは g(0,y)=1 だから,x=0 のときを考える.
g(x,y) の分子分母を x2 で割って z=y/x とおくと
g(x,y)=1+z2(a+z)2+b2=1+z2+12az+a2+b2−1
となり,(x,y) が x=0 を動くとき z は実数全体を動く.よって
f(z)=z2+12az+a2+b2−1
の最大最小を考えればよい.
f′(z)=−2⋅(z2+1)2az2+(a2+b2−1)z−a
で,f′(z)=0 となるのは z が
α=2a−(a2+b2−1)−(a2+b2−1)2+4a2
β=2a−(a2+b2−1)+(a2+b2−1)2+4a2
のとき.limz→±∞f(z)=0 と合わせると,f(z) の増減表は
a>0 のとき α<β だから
zf′(z)f(z)−∞0−↘α0f(α)+↗β0f(β)−↘∞0
a<0 のとき β<α だから
zf′(z)f(z)−∞0+↗β0f(β)−↘α0f(α)+↗∞0
となる.
分数関数の極値を求める2つのテクニックを f(z) に適用し,解と係数の関係による αβ=−1 を使うことで
f(α)=2α2a=a⋅(−β)=2(a2+b2−1)−(a2+b2−1)2+4a2<0
f(β)=2(a2+b2−1)+(a2+b2−1)2+4a2>1
となる.よって x=0 での g(x,y) の最小値は 1+f(α)<1,最大値は 1+f(β)>2 である.x=0 では g(0,y)=1 だったから,
g(x,y) の最小値は
1+f(α)=2(a2+b2+1)−(a2+b2−1)2+4a2
g(x,y) の最大値は
1+f(β)=2(a2+b2+1)+(a2+b2−1)2+4a2
となる.この式は a=0 でも正しい.
以上より
m0=2(a2+b2+1)−(a2+b2−1)2+4a2
M0=2(a2+b2+1)+(a2+b2−1)2+4a2
である.
(1)のように
g(x,y)=x2+y2(ax+y)2+b2x2
のような分子分母が x,y の同じ次数の多項式であるような分数関数の最大最小を考えるときに有効なのが,z=y/x とおいて z の1変数関数に変形するという手法です.これは典型手法なので練習しておきましょう.
途中の f(α) などの計算はいちいち代入していると難しいため,分数関数の極値を求める2つのテクニックと解と係数の関係を組み合わせることで処理しています.
さらに最後の部分では x=0 と x=0 の場合分けの結果を統合したあと,a=0 の結果を統合しています.a=0 の結果が同じ式で表せることに注意しましょう.
(2) のために結果を ω1,ω2 を使って表しておきます.
(1) の結果
m0=2(a2+b2+1)−(a2+b2−1)2+4a2=2∣ω1∣2+1−(∣ω1∣2−1)2+4(ℜω1)2
M0=2(a2+b2+1)+(a2+b2−1)2+4a2=2∣ω1∣2+1+(∣ω1∣2−1)2+4(ℜω1)2
ただし ℜω1 は ω1 の実部.
次に (2) です.(1) の解答を真似してもいいですが,計算が煩雑になりそうです.そこで (1) の結果をうまく使って計算することを考えましょう.
m(x2+y2)≦∣xω1+yω2∣2≦M(x2+y2)
を ∣ω2∣2 で割ると
∣ω2∣2m(x2+y2)≦∣∣ω2ω1x+y∣∣2≦∣ω2∣2M(x2+y2)
となるので,(1) の結果が使えそうです.
第6問(2)
-
ω2=0 のとき
∣xω1+yω2∣2=∣ω1∣2x2
だから,(1) の a=0 の場合と同様の議論により m0=0,M0=∣ω1∣2 となる.
-
ω2=0 のとき
τ=ω2ω1=c2+d2ac+bd+c2+d2−ad+bci とおくと,不等式は
∣ω2∣2m(x2+y2)≦∣τx+y∣2≦∣ω2∣2M(x2+y2)
と変形できる.よって (1) の結果を使うことで,
∣ω2∣2m0=2∣τ∣2+1−(∣τ∣2−1)2+4(ℜτ)2
∣ω2∣2M0=2∣τ∣2+1+(∣τ∣2−1)2+4(ℜτ)2
となる.すると
m0=∣ω2∣2⋅2∣τ∣2+1−(∣τ∣2−1)2+4(ℜτ)2=2∣ω2∣2⋅(∣ω2∣2∣ω1∣2+1)−∣ω2∣4⋅(∣ω2∣2∣ω1∣2−1)2+∣ω2∣4⋅4(ℜτ)2=2(∣ω1∣2+∣ω2∣2)−(∣ω1∣2−∣ω2∣2)2+∣ω2∣4⋅4(ℜτ)2
となり,ℜτ=c2+d2ac+bd と ∣ω2∣4=(c2+d2)2
を使って整理すると
m0=2(∣ω1∣2+∣ω2∣2)−(∣ω1∣2−∣ω2∣2)2+4(ac+bd)2=2(a2+b2+c2+d2)−((a2+b2)−(c2+d2))2+4(ac+bd)2
となる.同様に
M0=2(a2+b2+c2+d2)+((a2+b2)−(c2+d2))2+4(ac+bd)2
である.
これは ω2=0 でも正しい.
(1) の結果を使うという方針が立っても,複素数の計算に慣れていないと正答するのが難しかったかもしれません.また慣れていても計算の見通しを立てるのは簡単ではないですが,「答えは a,b,c,d について2次の式になるはずだ」「ω2=1 のときは (1) と同じ式になるはずだ」といった感覚があればミスを減らせます.
さて,最後の (3) は (2) まで解けた人にとってはボーナス問題だったかもしれません.また (1),(2) が解けていなくても,
- ∣xω1+yω2∣2≧0 だから m0 は 0 以上
- m0 が 0 になるのは 「(x,y)=(0,0) 以外の x,y で∣xω1+yω2∣2=0
となるものがあるとき」で,この条件は複素数 ω1,ω2 を平面ベクトルと見て「ω1,ω2 が1次独立でない」と言い換えられる
という観察ができれば,(3) だけで解くことができます.
第6問(3):(2) の結果を使う方法
(2) より,m0>0 は (∣ω1∣2+∣ω2∣2)2>(∣ω1∣2−∣ω2∣2)2+4(ac+bd)2
と同値である.
(∣ω1∣2+∣ω2∣2)2−(∣ω1∣2−∣ω2∣2)2−4(ac+bd)2=4∣ω1∣2∣ω2∣2−4(ac+bd)2=4{(a2+b2)(c2+d2)−(ac+bd)2}
だから,さらに(a2+b2)(c2+d2)>(ac+bd)2と同値である.一方コーシーシュワルツの不等式より(a2+b2)(c2+d2)≧(ac+bd)2であり,等号成立条件はベクトル
(ab) と (cd) が平行になること,つまり ad−bc=0 である.
つまり,
- 常に m0≧0 であり,
- m0=0 は ad−bc=0 と同値
だから,m0>0 となるのは ad−bc=0 のときである.
第6問:別解
まず ∣xω1+yω2∣2≧0 だから,
m(x2+y2)≦∣xω1+yω2∣2
となる m の最小値 m0 は必ず 0 以上である.そして m0 が 0 になるのは 「(x,y)=(0,0) 以外の x,y で∣xω1+yω2∣2=0
となるものがあるとき」である.複素数 ω1,ω2 を平面ベクトル ω1,ω2 と見ると,これは
xω1+yω2=0
となる (x,y)=(0,0) が存在する,つまり「ω1,ω2 が1次独立でない」と言い換えられる.これは ad−bc=0 と同値である.
以上より,m0>0 となるのは ad−bc=0 のときである.