オイラー・マクローリンの和公式

オイラー・マクローリンの和公式を紹介します。見た目はゴツいですが高校数学の範囲で理解できます。そして理解できたら楽しい定理です。

オイラー・マクローリンの和公式(Euler–Maclaurin formula)

任意の正の整数 m,nm,n に対して,

x=1nf(x)0nf(x)dx=12{f(n)f(0)}+k=1mb2k(2k)!{f(2k1)(n)f(2k1)(0)}1(2m)!0nB2m(xx)f(2m)(x)dx\displaystyle\sum_{x=1}^nf(x)-\int_0^nf(x)dx\\ =\dfrac{1}{2}\{f(n)-f(0)\}\\\:\:+\displaystyle\sum_{k=1}^m \dfrac{b_{2k}}{(2k)!}\{f^{(2k-1)}(n)-f^{(2k-1)}(0)\}\\ \:\:-\dfrac{1}{(2m)!}\displaystyle\int_0^nB_{2m}(x-\lfloor x\rfloor)f^{(2m)}(x)dx

ただし,f(x)f(x)0xn0\leq x \leq n において C2mC^{2m} 級である関数。

記号や用語の意味も含めてわかりやすく解説します。

オイラー・マクローリンの和公式の意味

  • 公式の左辺に現れる関数の値の和 x=1nf(x)\displaystyle\sum_{x=1}^nf(x)定積分 0nf(x)dx\displaystyle\int_0^nf(x)dx は近そうです(曲線の下側の面積を長方形の和で近似するイメージ)。オイラー・マクローリンの和公式の左辺のイメージ
  • その近似誤差を明示的な式で表すのが,オイラー・マクローリンの和公式です。
  • 右辺の1行目を移項すると,左辺は
    {f(0)2+x=1n1f(x)+f(n)2}0nf(x)dx\left\{\dfrac{f(0)}{2}+\displaystyle\sum_{x=1}^{n-1}f(x)+\dfrac{f(n)}{2}\right\}-\displaystyle\int_0^nf(x)dx
    となります。左右対称できれいですね。
  • 右辺の各項の分母には階乗,分子には高階微分があり,テイラー展開となんとなく似ています。mm は「どこまで展開するか」を表す正の整数で,自由に決められます。
  • b2kb_{2k} は定数(ベルヌーイ数),B2m(x)B_{2m}(x) は多項式(ベルヌーイ多項式)です。詳細は後述します。xxx-\lfloor x\rfloorxx の小数部分を表します。→ガウス記号の定義と3つの性質
  • C2mC^{2m} 級とは,2m2m 回微分できて 2m2m 階導関数が連続という意味です。→C1級関数,Cn級関数などの意味と具体例

具体例

オイラー・マクローリンの和公式

x=1nf(x)0nf(x)dx=12{f(n)f(0)}+k=1mb2k(2k)!{f(2k1)(n)f(2k1)(0)}1(2m)!0nB2m(xx)f(2m)(x)dx\displaystyle\sum_{x=1}^nf(x)-\int_0^nf(x)dx\\ =\dfrac{1}{2}\{f(n)-f(0)\}\\\:\:+\displaystyle\sum_{k=1}^m \dfrac{b_{2k}}{(2k)!}\{f^{(2k-1)}(n)-f^{(2k-1)}(0)\}\\ \:\:-\dfrac{1}{(2m)!}\displaystyle\int_0^nB_{2m}(x-\lfloor x\rfloor)f^{(2m)}(x)dx

を使って,高校数学で習う x=1nx2=16n(n+1)(2n+1)\displaystyle\sum_{x=1}^n x^2=\dfrac{1}{6}n(n+1)(2n+1) という式を導いてみます。

f(x)=x2f(x)=x^2m=2m=2 としてみると,

  • 左辺は x=1nx2n33\displaystyle\sum_{x=1}^nx^2-\dfrac{n^3}{3}
  • 右辺の1行目は 12n2\dfrac{1}{2}n^2
  • 右辺の2行目は,後述のように b2=16b_2=\dfrac{1}{6} であることと,3階微分が 00 であることから,b22!(2n)=16n\dfrac{b_2}{2!}(2n)=\dfrac{1}{6}n
  • 右辺の3行目は,f(x)f(x) の4階微分が 00 になるので 00

よって,x=1nx2=n33+n22+n6=16n(n+1)(2n+1)\displaystyle\sum_{x=1}^nx^2=\dfrac{n^3}{3}+\dfrac{n^2}{2}+\dfrac{n}{6}= \dfrac{1}{6}n(n+1)(2n+1)

同様に f(x)=xkf(x)=x^k とすることで,kk 乗和の公式が導出できます。

ベルヌーイ数とベルヌーイ多項式

公式に現れるベルヌーイ数 bnb_n とベルヌーイ多項式 Bn(x)B_n(x) の定義を紹介します。いくつか同値な定義がありますが,そのうちの1つです。

ベルヌーイ数 bnb_n は,二項係数を含む漸化式で定義されます:

ベルヌーイ数の定義

b0=1,bn=1n+1k=0n1n+1Ckbkb_0=1,b_n=-\dfrac{1}{n+1}\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}{}_{n+1}\mathrm{C}_kb_{k}

具体的に計算すると,b0=1,b1=12,b2=16b_0=1,b_1=-\dfrac{1}{2},b_2=\dfrac{1}{6} となります。

ベルヌーイ多項式 Bn(x)B_n(x) は,ベルヌーイ数と二項係数を使って定義される nn 次多項式です:

ベルヌーイ多項式の定義

Bn(x)=k=0nnCkbnkxkB_n(x)=\displaystyle\sum_{k=0}^n{}_n\mathrm{C}_kb_{n-k}x^k

具体的に計算すると,B0(x)=1,B1(x)=x12,B2(x)=x2x+16B_0(x)=1,B_1(x)=x-\dfrac{1}{2},B_2(x)=x^2-x+\dfrac{1}{6} となります。

ベルヌーイ数とベルヌーイ多項式について,以下の性質が成り立ちます。

ベルヌーイ数とベルヌーイ多項式の性質
  1. kk33 以上の奇数なら bk=0b_k=0
  2. Bn(0)=bnB_n(0)=b_n
  3. n1n\neq 1 なら Bn(1)=bnB_n(1)=b_n
  4. ddxBn(x)=nBn1(x)\dfrac{d}{dx}B_{n}(x)=nB_{n-1}(x)

2~4は定義にもとづいて簡単な計算をするだけで確認できます。1の証明はベルヌーイ数とゼータ関数も参照してください。

証明の概要

オイラー・マクローリンの和公式の証明の肝は「部分積分」です。

証明の概要
  • 冒頭の定理よりも少しだけ強い以下の式を証明する: x=1nf(x)0nf(x)dx=12{f(n)f(0)}+k=2Mbkk!{f(k1)(n)f(k1)(0)}1M!0nBM(xx)f(M)(x)dx\displaystyle\sum_{x=1}^nf(x)-\int_0^nf(x)dx\\ =\dfrac{1}{2}\{f(n)-f(0)\}\\\:\:+\displaystyle\sum_{k=2}^M \dfrac{b_{k}}{k!}\{f^{(k-1)}(n)-f^{(k-1)}(0)\}\\ \:\:-\dfrac{1}{M!}\displaystyle\int_0^nB_{M}(x-\lfloor x\rfloor)f^{(M)}(x)dx
    (ただし MM は任意の正の整数)
    実際,この式で M=2mM=2m とすれば(33 以上の奇数 kk に対して bk=0b_k=0 という性質1を使うと)冒頭の式になる。

  • n=1n=1 の場合は,MM に関する帰納法で証明できる。

    • n=1,M=1n=1,M=1 の場合は,b1=12b_1=\dfrac{1}{2}B1(x)=x12B_1(x)=x-\dfrac{1}{2} を使って簡単な計算で確認できる。
    • MM+1M\to M+1 の証明は,部分積分からわかる 01BM(x)f(M)(x)dx=bM+1M+1{f(M)(1)f(M)(0)}1M+101BM+1(x)f(M+1)(x)dx\displaystyle\int_0^1B_{M}(x)f^{(M)}(x)dx\\ =\dfrac{b_{M+1}}{M+1}\{f^{(M)}(1)-f^{(M)}(0)\}\\\:\:-\dfrac{1}{M+1}\displaystyle\int_0^1B_{M+1}(x)f^{(M+1)}(x)dx
      という式を使う。ただし,上記の変形の途中でベルヌーイ数の性質2~4を使った。
  • 一般の nn に対しては,n=1n=1 の場合の結果とそれを 1,2,,n11,2,\cdots,n-1 だけ平行移動した式(合計 nn 個)を足し合わせることで証明できる。

参考文献:ベルヌーイ数が展開する数学の分野(PDF)
(ベルヌーイ数に関するさまざまな話題がわかりやすく書かれており,おすすめです)

ベルヌーイ数の性質3と4の証明は良い計算練習になります。