台形公式を用いた積分の近似とその誤差

台形公式を使うことで定積分の近似値を求めることができる。

台形公式の考え方,応用例(東大の入試問題),テイラー展開を用いた誤差の評価について解説。

台形近似の考え方

台形近似の考え方

S=abf(x)dxS=\displaystyle\int_a^bf(x)dx を求める問題を考えます。

定積分の値を台形の面積(の和)で近似してみましょう。数値積分(計算が難しい定積分の値を近似的に求める)が主なモチベーションです。入試では,不等式評価の話題で登場することがあります。

東大の問題

一般論に入る前に,台形近似の考え方を使う入試問題の例として,2007年東大理系第6問の一部分を解説します。

問題

(1)の一部: 0<x<a0 <x <a を満たす実数 x,ax,a に対して

axa+xdtt<x(1a+x+1ax)\displaystyle\int_{a-x}^{a+x}\dfrac{dt}{t} <x\left(\dfrac{1}{a+x}+\dfrac{1}{a-x}\right) を示せ。

(2)の一部: log2<0.71\log 2 <0.71 を示せ。

解答

(1)y=1ty=\dfrac{1}{t} は下に凸なので,左辺は台形の面積で上からおさえられる。

台形の面積は x(1a+x+1ax)x\left(\dfrac{1}{a+x}+\dfrac{1}{a-x}\right) となり右辺と一致する。

(2)左辺の積分を計算することにより loga+xax<x(1a+x+1ax)\log \dfrac{a+x}{a-x} <x\left(\dfrac{1}{a+x}+\dfrac{1}{a-x}\right) を得る。

ここで,a+xax=2\dfrac{a+x}{a-x}=2 とすると a=3xa=3x となるが,このとき得られる不等式は log2<0.75\log 2 <0.75 となり精度が足りない。そこで 台形二つの和で定積分の値を近似することにする。

台形近似

(1)と同様な考え方で loga+xax<x2(1a+x+2a+1ax)\log \dfrac{a+x}{a-x} <\dfrac{x}{2}\left(\dfrac{1}{a+x}+\dfrac{2}{a}+\dfrac{1}{a-x}\right) を得る。再び a=3xa=3x としてみると,右辺は 17240.708333\dfrac{17}{24}\fallingdotseq 0.708333\cdots となり所望の精度が得られた。

この問題は受験レベルとしてはかなりの難問ですが 近似の精度を上げるには台形の数を増やせばよいという考え方を知っていれば簡単です。

台形公式

台形公式を一般的に書き下してみます。

区間 [a,b][a,b]NN 等分すると,一つの区間の幅は h=baNh=\dfrac{b-a}{N} です。

左から kk 個目の台形の面積は h2{f(a+(k1)h)+f(a+kh)}\dfrac{h}{2}\{f(a+(k-1)h)+f(a+kh)\}

となるので,

Sh2k=1N{f(a+(k1)h)+f(a+kh)}S\fallingdotseq \dfrac{h}{2}\displaystyle\sum_{k=1}^N\{f(a+(k-1)h)+f(a+kh)\}

となります。

近似誤差

最後に台形公式による近似計算の誤差を評価してみます。

近似誤差の評価

まず,一番左端の台形部分の誤差 ee について考える:

e=aa+hf(x)dxh2{f(a)+f(a+h)}=0hf(a+t)dth2{f(a)+f(a+h)}e=\left|\displaystyle\int_a^{a+h}f(x)dx-\dfrac{h}{2}\{f(a)+f(a+h)\}\right|\\ =\left|\displaystyle\int_0^{h}f(a+t)dt-\dfrac{h}{2}\{f(a)+f(a+h)\}\right|

ここで,テイラー展開を使う(hh が十分小さい場合を考え,h3h^3 以下の項を無視する)と,

e0h{f(a)+tf(a)+t22f(a)}dth2{2f(a)+hf(a)+h22f(a)}=h3f(a)12e\fallingdotseq\\ \left|\displaystyle\int_0^{h}\{f(a)+tf'(a)+\dfrac{t^2}{2}f''(a)\}dt-\dfrac{h}{2}\{2f(a)+hf'(a)+\dfrac{h^2}{2}f''(a)\}\right|\\ =\dfrac{h^3|f''(a)|}{12}

h,h2h,h^2 の項は消える)。

つまり,hh が十分小さいとき,台形一つあたりの誤差は h3h^3 に比例する。一方,台形の数は 1h\dfrac{1}{h} に比例するので,全体の誤差としては h2h^2 に比例(N2N^2 に反比例)することになる。

台形 100100 個で近似したけど精度が足りないなあと思った時には台形 10001000 個に増やすことで誤差を 1100\dfrac{1}{100} 倍にすることができるのです。

東大は良い問題出しますねえ。

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