シェルピンスキー・マズルキーウィチのパラドックス
平面内の部分集合 で,以下の条件を満たすようなものが存在する。
条件「 の分割 が存在して, を平行移動すると と一致し, を回転すると と一致する」
パラドックスのすごさ
パラドックスのすごさ
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平行移動も回転も合同変換(任意の2点間の距離を変えない)です。つまり集合 は,自分自身と「合同な」もの2つに分割できるというわけです。分身の術です。結果が直感に反するのでパラドックスと呼ばれていますが「定理」です。
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シェルピンスキー・マズルキーウィチ(Sierpinski-Mazurkiewicz)のパラドックスという名前がすごい(印象的)です。
集合 の構成
集合 の構成
座標平面において原点 に対して以下の2つの操作を繰り返して得られる点の集合を とします。
操作1. 座標を
操作2.原点中心に ラジアン反時計回りに回転
(ただし,1回目の操作で操作2を行っても意味が無いので1回目の操作は操作1とする)
例えば, は「操作1,操作1」で得られるので の要素です。また, は「操作1,操作2」で得られるので の要素です。 は無限集合です。
複素数平面で考える
複素数平面で考える
複素数平面で考えると,操作1は を加えることに対応し,操作2は をかけることに対応するので, の要素は係数が 以上の整数である多項式 を用いて と表せます。
さきほどの例について, は という複素数に対応し, は という複素数に対応しています。他にも例えば に対応する点も の要素です。
逆に「係数が 以上の整数である多項式 を用いて と表せる複素数に対応する点」が の要素であることも分かります。
また, の1つの要素に2つ以上の多項式が対応することはありません。つまり,操作1と操作2を適当な順番で組み合わせて点 が実現できたとき,他の順番では点 は実現できません。
2通りの方法で点 が実現できたと仮定すると,相異なる整数係数多項式 が存在して,
これは が超越数であることに矛盾。
超越数については超越数の意味といくつかの例を参照して下さい。 が超越数であることの証明は簡単ではありません(リンデマンの定理というものを使えばできます)。
の分割 の構成と定理の証明
の分割 の構成と定理の証明
の要素のうち「最後の操作が操作1」であるようなものの集合を 「最後の操作が操作2」であるようなものの集合を とします。
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が確かに の分割になっていること:
の各要素について,操作の順番は一通り。よって最後の操作によって場合分けすることができ,分割が定まる。 -
を平行移動すると と一致すること:
の点に操作1の逆( 座標を)をすると の点になる。これは と の間の1対1対応を定める。 -
を回転すると と一致すること:
の点に操作2の逆(原点中心に ラジアン時計回りに回転)すると の点になる。これは と の間の1対1対応を定める。
複素数平面で考えると,
→最後に →対応する多項式 の定数項が でないもの
→最後に →対応する多項式 の定数項が であるもの
となります。
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が確かに の分割になっていること:
の各要素について,対応する多項式の定数項が でないなら に属し, なら に属す。同時に両方に属すことはない。 -
を平行移動すると と一致すること:
定数項が でない(係数が 以上の整数である)多項式全体 について,各々から を引くと (係数が 以上の整数である)多項式全体 になる。 -
を回転すると と一致すること:
定数項が である(係数が 以上の整数である)多項式全体 について,各々に をかけると (係数が 以上の整数である)多項式全体 になる。
似たようなパラドックスにバナッハタルスキーのパラドックスというものがありますが,こちらの説明には選択公理が必要です。