断熱変化におけるポアソンの式の導出

理想気体の断熱変化において pVγ=pV^{\gamma}=(一定)

ただし,γ\gamma は比熱比と呼ばれる量であり,

単原子分子理想気体では 53\dfrac{5}{3}

ポアソンの式の導出および比熱比の値について解説します。

状態方程式の微分

以下,PP は圧力,VV は体積,nn は気体のモル数,RR は気体定数,TT は絶対温度とします。

ポアソンの式の導出(前半)

気体が (P,V,T)(P,V,T) の状態から少し変化して (P+ΔP,V+ΔV,T+ΔT)(P+\Delta P,V+\Delta V,T+\Delta T) の状態になったとする。

変化の前後でそれぞれ理想気体の状態方程式を使うと,

PV=nRTPV=nRT

(P+ΔP)(V+ΔV)=nR(T+ΔT)(P+\Delta P)(V+\Delta V)=nR(T+\Delta T)

二つ目の式を展開して一つ目の式を使うと,

PΔV+VΔP+ΔPΔV=nRΔTP\Delta V+V\Delta P+\Delta P\Delta V=nR\Delta T

ここで,変化は微小であるため ΔPΔV\Delta P\Delta V という微小量の二乗の項を無視すると以下の関係式を得る:

PΔV+VΔP=nRΔTP\Delta V+V\Delta P=nR\Delta T

この関係式は断熱変化でなくても理想気体なら常に成り立ちます。

余談

一般に(全微分可能な関数 ff について)z=f(x,y)z=f(x,y) の微小変化は,xx の微小変化 dxdxyy の微小変化 dydy を使って,

dz=fxdx+fydydz=\dfrac{\partial f}{\partial x}dx+\dfrac{\partial f}{\partial y}dy

と書けます(全微分)。

今回の場合,T=PVnRT=\dfrac{PV}{nR} であり,TTP,VP,V の関数と見ると,

dT=TPdP+TVdV=VnRdP+PnRdVdT=\dfrac{\partial T}{\partial P}dP+\dfrac{\partial T}{\partial V}dV\\ =\dfrac{V}{nR}dP+\dfrac{P}{nR}dV

となり,上の結果が得られます。

断熱変化であることを使う

以下,CVC_V は定積モル比熱,CPC_P は定圧モル比熱とします。

ポアソンの式の導出(後半)

熱力学第一法則:

Q=ΔU+WQ=\Delta U+W

において,断熱変化より Q=0Q=0 であること,内部エネルギーの増分 ΔU\Delta UnCvΔTnC_v\Delta T と等しいこと,気体がした仕事 WWPΔVP\Delta V と等しいことから,

0=nCvΔT+PΔV0=nC_v\Delta T+P\Delta V

この式とさきほど得た式から ΔT\Delta T を消去すると,

0=CVR(PΔV+VΔP)+PΔV0=\dfrac{C_V}{R}(P\Delta V+V\Delta P)+P\Delta V

整理すると,

(CV+R)PΔV+CVVΔP=0(C_V+R)P\Delta V+C_VV\Delta P=0

ΔPP+CV+RCVΔVV=0\dfrac{\Delta P}{P}+\dfrac{C_V+R}{C_V}\dfrac{\Delta V}{V}=0

ここで,マイヤーの法則: CV+R=CPC_V+R=C_P および比熱比の定義: γ=CPCV\gamma=\dfrac{C_P}{C_V} を使うと,

ΔPP+γΔVV=0\dfrac{\Delta P}{P}+\gamma\dfrac{\Delta V}{V}=0

となる。両辺を積分すると,

logP+γlogV=C\log P+\gamma\log V=C

CC は定数)

よって,PVγ=PV^{\gamma}= (一定)

比熱比と自由度

γ=CRCV=CV+RCV\gamma=\dfrac{C_R}{C_V}=\dfrac{C_V+R}{C_V} の値は分子の構造によって変わります。多くの気体について,常温では CVC_V は(並進運動の自由度+回転運動の自由度)×R2\times\dfrac{R}{2} に近い値になることが実験的に知られています。

単原子分子理想気体

自由度は3(並進3),CV=32RC_V=\dfrac{3}{2}Rγ=53\gamma=\dfrac{5}{3}

二原子分子理想気体

自由度は6(並進3,回転2,振動1),CV=52RC_V=\dfrac{5}{2}Rγ=75\gamma=\dfrac{7}{5}

三原子分子理想気体(直線形)

自由度は9(並進3,回転2,振動4),CV=52RC_V=\dfrac{5}{2}Rγ=75\gamma=\dfrac{7}{5}

三原子分子理想気体(直線形でない)

自由度は9(並進3,回転3,振動3),CV=3RC_V=3Rγ=43\gamma=\dfrac{4}{3}

※振動の自由度については,いくつか考え方があり,自分も完全には理解しておりません,すみません。本節「比熱比と自由度」については,あくまでご参考程度にしていただければと思います。

高校(+アルファ)の熱力学で一番好きな計算です。