ベクトルという言葉の意味
ベクトルとは,
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(主に高校数学で)向きと大きさを持った量,実数二つ組または三つ組
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(主に大学数学で)ベクトル空間の元
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(主に日常会話で)方向性
ベクトルという単語の意味は,状況や文脈によって変わります。
1.高校数学,高校物理におけるベクトル
1.高校数学,高校物理におけるベクトル
高校数学,高校物理でベクトルと言うと 向きと大きさを持った量を表します。図に書くときは矢印で表現します。
「向きと大きさを持った量」なので図のどこに書くかは区別しません。つまり図の左上のベクトルと右上のベクトルは同じものです。
逆に,向きが同じでも大きさが違うベクトル(赤と緑),大きさが同じでも向きが違うベクトル(赤と青)は異なるベクトルとみなします。
平面上のベクトルは(座標系を固定すれば)二つの実数で表現できます。例えば(矢印を書かなくても)「上に2,右に1」と言えばどんなベクトルを表しているかは伝わります。
同様に空間上のベクトルは三つの実数で表現できます。そのため座標系を固定した状況では,単に実数を二つ(または三つ)並べたものをベクトルと見ることもできます。
2.大学数学におけるベクトル
2.大学数学におけるベクトル
大学数学で「ベクトル」と言うと(もちろん1の意味で使うこともありますが)ベクトル空間の元という意味で使われることが多いです。
ベクトル空間(線形空間)とは,やや抽象的ですがベクトル空間の公理を満たす集合のことです。→ベクトル空間と次元
様々なものが広い意味でのベクトルになります!
- 実数全体の集合はベクトル空間なので,実数 は広い意味でベクトルである
- 実数を二つ並べたもの もベクトル
- 実数を 個並べたものもベクトル
- 複素数もベクトル
- 複素数を 個並べたものもベクトル
- 行列もベクトル
- 数列もベクトル
- 関数もベクトル
これだけたくさんのものを統一的に扱うことができるのは面白いですね!
3.日常会話におけるベクトル
3.日常会話におけるベクトル
余談ですが,日常会話やビジネスでも「ベクトル」という言葉はときどき登場します。
本当は向きと大きさを持つ量という意味で使われるべきですが,単に方向性という意味で使われることが多いです。
私は彼と考え方のベクトルが違う。
「考え方の方向性が違う」という意味で使われています。
数学では同じ向きでも大きさが少しでも違えば「違うベクトル」とみなします。そのため例のような表現には個人的には違和感があります。
単に「方向性」の意味で使うならわざわざベクトルとか言わずに「方向性」と言えばよいのにーって思っちゃいます。