ウォルステンホルムの定理

定理1(ウォルステンホルムの定理)

55 以上の任意の素数 pp に対して, 11+12+13++1p1\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots +\dfrac{1}{p-1} を既約分数で表したときの分子は p2p^2 の倍数。

H(p)=11+12+13++1pH(p)=\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots +\dfrac{1}{p} とおきます。

  • p=5p=5 のとき,H(4)H(4)1+12+13+14=24+12+8+624=25121+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}=\dfrac{24+12+8+6}{24}=\dfrac{25}{12} となります。分子は 525^2 の倍数になっています。

  • p=7p=7 のとき H(6)=4920H(6)=\dfrac{49}{20} となり,分子は 727^2 の倍数になっています。

証明

まず,分子に pp をつくり出すために,前と後ろから1つずつ取ってペアを作っていきます。

証明(前半)

1k+1pk=pk(pk)\dfrac{1}{k}+\dfrac{1}{p-k}=\dfrac{p}{k(p-k)} である。これを k=1k=1 から k=p12k=\dfrac{p-1}{2} まで足し上げると H(p1)=p(k=1p121k(pk))H(p-1)=p\left(\displaystyle\sum_{k=1}^{\frac{p-1}{2}}\dfrac{1}{k(p-k)}\right) となる。このシグマの部分を通分する。分母は (p1)!(p-1)! になり分子は N=k=1p12(p1)!k(pk)N=\displaystyle\sum_{k=1}^{\frac{p-1}{2}}\dfrac{(p-1)!}{k(p-k)} となる(シグマの中身はそれぞれ整数)。以上より H(p1)=pN(p1)!H(p-1)=\dfrac{pN}{(p-1)!} となるが,pp(p1)!(p-1)! と互いに素なので H(p1)H(p-1) を既約分数で表したときの分子は pp の倍数。

さらに,残った部分である NNpp の倍数であることを示します。

証明(後半)

2N=k=1p1(p1)!k(pk)2N=\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\dfrac{(p-1)!}{k(p-k)}pp の倍数であることを示せばよい。

以下,合同式は modp\mathrm{mod}\:p で考え,modp\mathrm{mod}\:p における nn の逆元を n1n^{-1} と書く(つまり,pp の倍数でない nn に対して、nx1nx\equiv 1 を満たす xx1xp11\leq x\leq p-1 にただ1つ存在するのでその xxn1n^{-1} と書く)。

各等号の理由は後述するが,以下のように示せる。 k=1p1(p1)!k(pk)k=1p1{k(pk)}1k=1p1(k2)1=k=1p1(k1)2=k=1p1k2=p×(p1)(2p1)6\begin{aligned}&\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\dfrac{(p-1)!}{k(p-k)}\\ &\equiv \displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\{-k(p-k)\}^{-1}\\ &\equiv \displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}(k^2)^{-1}\\ &=\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}(k^{-1})^2\\ &=\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}k^2\\ &=p\times\dfrac{(p-1)(2p-1)}{6}\end{aligned}

pp は3の倍数でないので (p1)(p-1) または (2p1)(2p-1) が3の倍数になる。よって,上式は pp の倍数。ただし,

  • 1番最後の等号は,2乗和の公式からわかる
  • その前の等号は,逆元が重複しないことからわかる。つまり,{1,2,...,p1}\{1,2,...,p-1\} の逆元はすべて異なるので {11,21,...,(p1)1}\{1^{-1},2^{-1},...,(p-1)^{-1}\}{1,2,...,p1}\{1,2,...,p-1\} は集合として等しいことから。
  • 最初の合同式は,ウィルソンの定理(p1)!1(p-1)!\equiv -1 を使うと (p1)!k(pk)×{k(pk)}1\dfrac{(p-1)!}{k(p-k)}\times \{-k(p-k)\}\equiv 1 がわかることから。

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定理2

55 以上の任意の素数 pp に対して, 11+122+132++1(p1)2\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\cdots +\dfrac{1}{(p-1)^2} を既約分数で表したときの分子は pp の倍数。

定理2の証明

N={(p1)!}2k=1p11k2N=\{(p-1)!\}^2\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\dfrac{1}{k^2} という整数が pp の倍数であることを示せばよい。

N=k=1p1{(p1)!k}2N=\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\left\{\dfrac{(p-1)!}{k}\right\}^2 である。ここで,カッコの中身である (p1)!k\dfrac{(p-1)!}{k} という整数たち(k=1,...,p1k=1,...,p-1)を pp で割ったあまりはすべて異なる(もし k=k1,k2k=k_1,k_2 に対して余りが同じなら,差を通分した (p1)!(k2k1)k1k2\dfrac{(p-1)!(k_2-k_1)}{k_1k_2}pp の倍数になるはずで矛盾)

よって,modp\bmod pNk=1p1k2=(p1)p(2p1)60N\equiv \sum_{k=1}^{p-1}k^2=\dfrac{(p-1)p(2p-1)}{6}\equiv 0

定理3

55 以上の任意の素数 pp に対して,2p1Cp11{}_{2p-1}\mathrm{C}_{p-1}-1p3p^3 の倍数。

(なお,2p1Cp11{}_{2p-1}\mathrm{C}_{p-1}-1p4p^4 の倍数になるような素数 ppウォルステンホルム素数と言う)

定理3の証明

f(x)=(x1)(x2)(x(p1))f(x)=(x-1)(x-2)\cdots(x-(p-1)) とおく。

f(x)f(x)xnx^n の係数を ana_n とおくと,解と係数の関係より

  1. a0=(p1)!a_0=(p-1)!
  2. k=1p11k=a1a0\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\dfrac{1}{k}=-\dfrac{a_1}{a_0}
  3. k=1p11k2=(k=1p11k)221i<jp11ij=a122a0a2a02\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\dfrac{1}{k^2}=\left(\displaystyle\sum_{k=1}^{p-1}\dfrac{1}{k}\right)^2-2\sum_{1\leq i<j\leq p-1}\dfrac{1}{ij}=\dfrac{a_1^2-2a_0a_2}{a_0^2}

ここで,a0a_0pp の倍数ではないので,定理1と上記2より a1a_1p2p^2 の倍数。さらに,定理2と上記3より 2a0a22a_0a_2pp の倍数。つまり a2a_2pp の倍数。

よって,modp3\bmod p^3 で, (p1)!×{2p1Cp11}=f(2p)(p1)!{a0+a1(2p)+a2(2p)2}a0=2p(a1+2pa2)=0\begin{aligned}&(p-1)!\times\{{}_{2p-1}\mathrm{C}_{p-1}-1\}\\ &=f(2p)-(p-1)!\\ &\equiv \{a_0+a_1(2p)+a_2(2p)^2\}-a_0\\ &=2p(a_1+2pa_2)\\ &=0\end{aligned}

※定理2の定理3の証明は,kzy33550336 さんに教えていただきました!

なお,定理1と定理2をあわせて「ウォルステンホルムの定理」と呼ぶこともあるようです。

参考文献:

早口言葉みたいな名前の定理です。