デカルトの円定理と2通りの証明

デカルトの円定理(Descartes' Circle Theorem)

半径が r1,r2,r3,r4r_1,r_2,r_3,r_4 である4つの円が互いに外接するとき, (1r1+1r2+1r3+1r4)2=2(1r12+1r22+1r32+1r42)\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}+\dfrac{1}{r_4}\right)^2=2\left(\dfrac{1}{r_1^2}+\dfrac{1}{r_2^2}+\dfrac{1}{r_3^2}+\dfrac{1}{r_4^2}\right) デカルトの円定理

とてもおもしろい等式です。応用と2通りの証明を紹介します。

応用

r1r_1 から r4r_4 のうち3つが分かれば,残りの1つも2次方程式を解くことで得られます。

問題1

図のように,半径が 11 である3つの円の中心 O1O2O3O_1O_2O_3 が,1辺の長さが2の正三角形をなすとき,内側の円の半径 rr を求めよ。 デカルトの円定理の例

解答

r1=r2=r3=1r_1=r_2=r_3=1 としてデカルトの円定理を使う。k=1rk=\dfrac{1}{r} とおくと, (3+k)2=2(3+k2)(3+k)^2=2(3+k^2) この2次方程式を解くと, k26k3=0k^2-6k-3=0 k=3±12k=3\pm\sqrt{12} k>0k>0 より r=1k=13+23r=\dfrac{1}{k}=\dfrac{1}{3+2\sqrt{3}}

次は,接点間の距離に関する有名問題4問でも紹介した有名な構図です。

問題2

互いに接する3つの円と直線 図のように3つの円と1本の直線が互いに接している。3つの円の半径を r,r1,r2r,r_1,r_2 とするとき, 1r=1r1+1r2\dfrac{1}{\sqrt{r}}=\dfrac{1}{\sqrt{r_1}}+\dfrac{1}{\sqrt{r_2}} を示せ。

解答

デカルトの円定理で,1つの円の半径を \to\infty とすると,3つの円と直線が接する状況になり,以下の式が成立する: (1r+1r1+1r2)2=2(1r2+1r12+1r22)\left(\dfrac{1}{r}+\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}\right)^2=2\left(\dfrac{1}{r^2}+\dfrac{1}{r_1^2}+\dfrac{1}{r_2^2}\right) これを 1r=k\dfrac{1}{r}=k について解く。1ri=ki\dfrac{1}{r_i}=k_i とおいて整理すると, (k+k1+k2)2=2(k2+k12+k22)(k+k_1+k_2)^2=2(k^2+k_1^2+k_2^2) k22k(k1+k2)+k12+k222k1k2=0k^2-2k(k_1+k_2)+k_1^2+k_2^2-2k_1k_2=0 k=(k1+k2)±(k1+k2)2(k12+k222k1k2)=(k1±k2)2k=(k_1+k_2)\pm\sqrt{(k_1+k_2)^2-(k_1^2+k_2^2-2k_1k_2)}\\=(\sqrt{k_1}\pm\sqrt{k_2})^2 ここで,r<r1r<r_1 より k>k1k>k_1 なので k=k1+k2\sqrt{k}=\sqrt{k_1}+\sqrt{k_2}

証明

デカルトの円定理を2通りの方法で証明します。いずれも考え方は難しくないですが,計算が大変です。各円の中心を O1,O2,O3,O4O_1,O_2,O_3,O_4 とします。

接点三角形に着目した証明

OiO_iOjO_j の接点を TijT_{ij} と書きます。

証明の流れ
  1. 三角形 T12T13T14T_{12}T_{13}T_{14} の3辺の長さを r1r_1 から r4r_4 で表す。
  2. 三角形 T12T13T14T_{12}T_{13}T_{14} に正弦定理を使って r1r_1 から r4r_4 の間の関係式を導く。

デカルトの円定理の証明1

証明1
  1. まず,ki=1rik_i=\dfrac{1}{r_i} とおくと,(T12T13)2=4(k1+k2)(k1+k3)(T_{12}T_{13})^2=\dfrac{4}{(k_1+k_2)(k_1+k_3)} である。これは 接点間の距離に関する有名問題4問 の定理3で紹介しているが,余弦定理を2回使って簡単に導出できる。他の2辺も同様に計算できて,辺の比は (T12T13)2:(T13T14)2:(T12T14)2=k1+k4:k1+k2:k1+k3(T_{12}T_{13})^2:(T_{13}T_{14})^2:(T_{12}T_{14})^2\\ =k_1+k_4:k_1+k_2:k_1+k_3

  2. 三角形 T12T13T14T_{12}T_{13}T_{14} について,3辺の長さ(の比)がわかったので cos\cos がわかる。よって sin\sin もわかる。一方,三角形の各頂点は O1O_1 上にあるので,外接円の半径は r1r_1 である。よって,正弦定理より T12T13sinT12T14T13=2r1\dfrac{T_{12}T_{13}}{\sin\angle T_{12}T_{14}T_{13}}=2r_1 これで r1r_1 から r4r_4 の間の関係式が得られる。あとは計算するだけ。両辺2乗して変形すると (T12T13)2=4r12sin2T12T14T13(T_{12}T_{13})^2=4r_1^2\sin^2\angle T_{12}T_{14}T_{13} k12(T12T13)2=4(1cos2T12T14T13)k_1^2(T_{12}T_{13})^2=4(1-\cos^2\angle T_{12}T_{14}T_{13}) 4k12(k1+k2)(k1+k3)=44cos2T12T14T13\dfrac{4k_1^2}{(k_1+k_2)(k_1+k_3)}=4-4\cos^2\angle T_{12}T_{14}T_{13} 一方,1の結果と余弦定理より, cos2T12T14T13={(k1+k2)+(k1+k3)(k1+k4)}24(k1+k2)(k1+k3)=(k1+k2+k3k4)24(k1+k2)(k1+k3)\cos^2\angle T_{12}T_{14}T_{13}\\ =\dfrac{\{(k_1+k_2)+(k_1+k_3)-(k_1+k_4)\}^2}{4(k_1+k_2)(k_1+k_3)}\\ =\dfrac{(k_1+k_2+k_3-k_4)^2}{4(k_1+k_2)(k_1+k_3)}
    以上より k1k_1 から k4k_4 までの等式を得る: 4k12=4(k1+k2)(k1+k3)(k1+k2+k3k4)24k_1^2=4(k_1+k_2)(k_1+k_3)-(k_1+k_2+k_3-k_4)^2 展開すると, k12+k22+k32+k42=2(k1k2+k1k3+k1k4+k2k3+k2k4+k3k4)\begin{aligned}&k_1^2+k_2^2+k_3^2+k_4^2\\ &=2(k_1k_2+k_1k_3+k_1k_4+k_2k_3+k_2k_4+k_3k_4)\end{aligned} を得る。目標の式は (k1+k2+k3+k4)2=2(k12+k22+k32+k42)(k_1+k_2+k_3+k_4)^2=2(k_1^2+k_2^2+k_3^2+k_4^2) だが,左辺を展開するとさきほど得た式と一致する。

ヘロンの公式による証明

証明2の概要

三角形 O1O2O3O_1O_2O_3 は,3辺の長さが r1+r2,r2+r3,r3+r1r_1+r_2,r_2+r_3,r_3+r_1 であるので,ヘロンの公式を使うと面積は, SO1O2O3=r1r2r3(r1+r2+r3)S_{O_1O_2O_3}=\sqrt{r_1r_2r_3(r_1+r_2+r_3)} デカルトの円定理の証明2 また,大きい三角形を3つの小さい三角形に分割することで, SO1O2O3=SO1O2O4+SO1O3O4+SO2O3O4S_{O_1O_2O_3}=S_{O_1O_2O_4}+S_{O_1O_3O_4}+S_{O_2O_3O_4} 他の三角形の面積も同様に計算できて,両辺を r1r2r3r4\sqrt{r_1r_2r_3r_4} で割って,s=r1+r2+r3+r4s=r_1+r_2+r_3+r_4 とおくと, sr4r4=sr3r3+sr2r2+sr1r1\sqrt{\dfrac{s-r_4 }{r_4}}=\sqrt{\dfrac{s-r_3}{r_3}}+\sqrt{\dfrac{s-r_2}{r_2}}+\sqrt{\dfrac{s-r_1}{r_1}} を得る。頑張って根号を外すなど計算(→補足)すると,デカルトの円定理の式を得る。

補足:
根号が4つありますが,移項→両辺2乗 を3回繰り返すと根号を外せます。実際,AB=C+D\sqrt{A}-\sqrt{B}=\sqrt{C}+\sqrt{D} の両辺を2乗すると根号が2つになり,その結果を整理した式 E=F+GE=\sqrt{F}+\sqrt{G} の両辺を2乗すると根号が1つになり,その結果を整理した式 H=IH=\sqrt{I} の両辺を2乗すると根号は消えます。原理は簡単ですが,実際の計算はかなり大変です。

具体的な計算は A straightforward proof of Descartes’s circle theorem を参照ください。

1つの円が別の3つの円を含む場合

内接するパターン 同じく4つの円がそれぞれ互いに接する状況ですが,1つの円が残り3つを含むとき,以下の式が成立します:

(1r1+1r2+1r31r4)2=2(1r12+1r22+1r32+1r42)\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}-\dfrac{1}{r_4}\right)^2=2\left(\dfrac{1}{r_1^2}+\dfrac{1}{r_2^2}+\dfrac{1}{r_3^2}+\dfrac{1}{r_4^2}\right)

左辺の r4r_4 の符号がマイナスになるだけで,冒頭の式とほとんど同じです。外接バージョンと同様に証明できます。

証明2の根号を外す計算はがんばりましたが途中で挫折して文献を見てしまいました。