項別微分・項別積分

定理

関数 f(x)f(x)f(x)=n=0anxn\displaystyle f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n と無限級数展開されているとする。

この級数の収束半径を rr とすると,x<r|x| < r のもとで項別微分・項別積分ができる:

f(x)=n=1nanxn1f(x)dx=n=0anxn+1n+1+C\begin{aligned} f'(x) &= \sum_{n=1}^{\infty} n a_n x^{n-1}\\ \int f(x) dx &= \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{a_n x^{n+1}}{n+1} + C \end{aligned}

項別微分は,(f(x)+g(x))=f(x)+g(x)(f(x) + g(x))' = f'(x) + g'(x) という公式の一般化です。

つまり収束半径の内部では「全体の微分」は「項ごとの微分」と一致し,「全体の積分」は「項ごとの積分」と一致するわけです。収束半径については,収束半径の意味と求め方をどうぞ。

簡単に例を見ていきましょう。

sin と cos

sinx\sin xcosx\cos xcosx=112!x2+14!x4+sinx=x13!x3+15!x5+\begin{aligned} \cos x &= 1 - \dfrac{1}{2!} x^2 + \dfrac{1}{4!} x^4 + \cdots\\ \sin x &= x - \dfrac{1}{3!} x^3 + \dfrac{1}{5!} x^5 + \cdots \end{aligned} と級数展開されていました。 → sinとcosのn階微分とマクローリン展開

項別微分をして (cosx)=sinx(\cos x)' = - \sin x であることを確認しましょう。

(cosx)=n=0((1)nx2n(2n)!)=n=1(1)nx2n1(2n1)!=sinx\begin{aligned} (\cos x)' &= \sum_{n=0}^{\infty} \left( (-1)^{n} \dfrac{x^{2n}}{(2n)!} \right)'\\ &= \sum_{n=1}^{\infty} (-1)^{n} \dfrac{x^{2n-1}}{(2n-1)!}\\ &= - \sin x \end{aligned}

arctan のマクローリン展開

Arctanのマクローリン展開の3通りの方法 を思い出しましょう。

(arctanx)=11+x2(\arctan x)' = \dfrac{1}{1+x^2} でした。11+x2\dfrac{1}{1+x^2}x<1|x| < 111+x2=1x2+x4+ \dfrac{1}{1+x^2} = 1 - x^2 + x^4 + \cdots と無限級数展開できます。

両辺を x<1|x| < 1 で項別積分すると arctanx+C=x13x3+15x5+ \arctan x + C = x - \dfrac{1}{3} x^3 + \dfrac{1}{5} x^5 + \cdots となります。

x=0x = 0 を代入することで C=0C=0 が分かり,arctanx\arctan x のマクローリン展開 arctanx=x13x3+15x5+ \arctan x = x - \dfrac{1}{3} x^3 + \dfrac{1}{5} x^5 + \cdots が計算できました。

収束半径

無限級数を項別微分した級数の収束半径はどうなっているでしょうか。実は微分前と変わりません。

定理

以下の無限級数の収束半径はすべて一致する。

  • n=0anxn\displaystyle \sum_{n = 0}^{\infty} a_n x^n
  • n=1nanxn1\displaystyle \sum_{n = 1}^{\infty} n a_n x^{n-1}
  • n=0anxn+1n+1\displaystyle \sum_{n = 0}^{\infty} \dfrac{a_n x^{n+1}}{n+1}
証明

コーシーのべき根判定法を使う。(収束半径の意味と求め方 参照)

lim supn(n+1)an+11n=lim supn(n+1)1n(an+11n+1)n+1n=lim supnan+11n+1=lim supnan1n\begin{aligned} &\limsup_{n \to \infty} |(n+1) a_{n+1}|^{\frac{1}{n}}\\ &= \limsup_{n \to \infty} |(n+1)|^{\frac{1}{n}} (|a_{n+1}|^{\frac{1}{n+1}})^{\frac{n+1}{n}} \\ &= \limsup_{n \to \infty} |a_{n+1}|^{\frac{1}{n+1}}\\ &= \limsup_{n \to \infty} |a_{n}|^{\frac{1}{n}}\\ \end{aligned} と計算されるため,1番目の級数と2番目の級数の収束半径は等しい。

3番目についても同様に計算すればよい。

無限回微分可能

項別微分により,無限級数で表される関数は無限回微分ができます。

無限回微分ができる関数を 無限回微分可能関数 といい,CC^{\infty} 級関数 と表現します。

無限回微分できる関数でもテイラー展開(マクローリン展開)はできない場合があります。詳しくは マクローリン展開 を見てください。

無限級数展開ができる関数は 解析関数 と呼ばれます。

Arctan\mathrm{Arctan} の例は楽しいです。