Ky Fanの不等式

Ky Fanの不等式

00 以上 12\dfrac{1}{2} 以下である nn 個の実数 x1,x2,,xnx_1,x_2,\dots,x_n に対して,GGAA\dfrac{G}{G'}\leq\dfrac{A}{A'}

ただし,AAGGxix_i たちの相加平均と相乗平均:

  • A=x1+x2++xnnA=\dfrac{x_1+x_2+\dots +x_n}{n}
  • G=x1x2xnnG=\sqrt[n]{x_1x_2\dots x_n}

AA'GG'(1xi)(1-x_i) たちの相加平均と相乗平均:

  • A=(1x1)+(1x2)++(1xn)nA'=\dfrac{(1-x_1)+(1-x_2)+\dots +(1-x_n)}{n}
  • G=(1x1)(1x2)(1xn)nG'=\sqrt[n]{(1-x_1)(1-x_2)\dots (1-x_n)}

関連する不等式

  • 相加相乗平均の不等式より,GA,GAG\leq A,G'\leq A' はすぐにわかります。Ky Fan の不等式は GAG\leq A よりも強い不等式です。

  • GGAA\dfrac{G}{G'}\leq\dfrac{A}{A'} を変形すると,GAGA\dfrac{G}{A}\leq\dfrac{G'}{A'} となります。AAGG で分けるのか,ダッシュの有無で分けるのか,どちらも同じくらい美しいです。

  • 加比の理の不等式バージョンを使うと,GAG+GA+AGA\dfrac{G}{A}\leq\dfrac{G+G'}{A+A'}\leq\dfrac{G'}{A'} がわかります。→加比の理と傾きによる証明

  • さらに,A+A=1A+A'=1 より,GAG+GGA\dfrac{G}{A}\leq G+G'\leq\dfrac{G'}{A'} もわかります。

n=2 の場合の証明

Ky Fan の不等式は一般的で少しわかりにくいです。そこで,nn が小さいとき,つまり n=2n=2 の場合の式と証明を見ながら理解を深めましょう。

証明

n=2n=2 の場合の Ky Fanの不等式は,

x1x2(1x1)(1x2)x1+x2(1x1)+(1x2) \dfrac{\sqrt{x_1x_2}}{\sqrt{(1-x_1)(1-x_2)}}\leq\dfrac{x_1+x_2}{(1-x_1)+(1-x_2)}

両辺は 00 以上なので,2乗した以下を示せばよい。 x1x2(1x1)(1x2)(x1+x2)2(2x1x2)2 \dfrac{x_1x_2}{(1-x_1)(1-x_2)}\leq\dfrac{(x_1+x_2)^2}{(2-x_1-x_2)^2}

分母を払った以下を示せばよい。 x1x2(4+x12+x224x14x2+2x1x2)(x12+2x1x2+x22)(1x1x2+x1x2)\begin{aligned} &x_1x_2(4+x_1^2+x_2^2-4x_1-4x_2+2x_1x_2)\\ &\quad\quad\leq(x_1^2+2x_1x_2+x_2^2)(1-x_1-x_2+x_1x_2) \end{aligned}

展開して左辺に集めた以下を示せばよい。 2x1x2x12x2x1x22x12x22+x13+x230 2x_1x_2-x_1^2x_2-x_1x_2^2-x_1^2-x_2^2+x_1^3+x_2^3\leq 0

左辺を整理した以下を示せばよい。 x13+(1x2)x12+(2x2x22)x1+x230 x_1^3+(-1-x_2)x_1^2+(2x_2-x_2^2)x_1+x_2^3 \leq 0

x1=x2x_1=x_2 のときに左辺が 00 であることに気づくと,左辺は (x1x2)(x_1-x_2) を因数に持つことがわかる。左辺を (x1x2)(x_1-x_2) で割って因数分解すると,

(x1x2)(x12x1x2x22)=(x1x2)(x1x2)(x1+x21)=(x1x2)2(x1+x21)\begin{aligned} (x_1-x_2)(x_1^2-x_1-x_2-x_2^2) &=(x_1-x_2)(x_1-x_2)(x_1+x_2-1)\\ &=(x_1-x_2)^2(x_1+x_2-1) \end{aligned}

これは,0x1,x2120\leq x_1,x_2\leq \dfrac{1}{2} のもとで 00 以下となる。

一般の場合の証明

一般の nn に対して Ky Fan の不等式を証明します。f(x)=logx1xf(x)=\log\dfrac{x}{1-x}凸関数の不等式(イェンゼンの不等式) を使うだけです。

証明

x1x_1 から xnx_n のうちいずれか1つでも 00 の場合,G=0G=0A,G,A>0A,G',A'>0 より成立する。以下では,各 xix_i は正とする。

f(x)=logx1xf(x)=\log \dfrac{x}{1-x} とおくと,f(x)f(x)0<x120 < x \leq\dfrac{1}{2} において上に凸な関数である。

実際,この範囲で f(x)=1x+11xf'(x)=\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{1-x}f(x)=1x2+1(1x)2<0f''(x)=-\dfrac{1}{x^2}+\dfrac{1}{(1-x)^2} < 0 である。

よって,イェンゼンの不等式より, 1n{f(x1)++f(xn)}f(x1++xnn) \dfrac{1}{n}\{f(x_1)+\dots +f(x_n)\}\leq f\left(\dfrac{x_1+\dots +x_n}{n}\right)

この不等式の左辺は,

1nlog(x1xn)1nlog{(1x1)(1xn)}=logGlogG=logGG\begin{aligned} &\dfrac{1}{n}\log (x_1\cdots x_n)-\dfrac{1}{n}\log\{(1-x_1)\cdots(1-x_n)\}\\ &=\log G-\log G' =\log\dfrac{G}{G'} \end{aligned}

右辺は, f(A)=logA1A=logAAf(A)=\log\dfrac{A}{1-A}=\log\dfrac{A}{A'} である。よって,両辺の log\log を外すと GGAA\dfrac{G}{G'}\leq\dfrac{A}{A'} となる。

n=2n=2 の場合で因数分解するところが絶妙な難易度で楽しかったです。