超幾何級数の定義と例

超幾何級数について紹介します。いくつか例を見ながら,超幾何級数に慣れ親しみましょう。

超幾何級数の定義

超幾何級数とは,以下の式で定義される rFs(z){}_rF_{s}(z) のことです。

rFs(a1,,ar;b1,,bs;z){}_rF_{s}(a_1,\dots,a_r;b_1,\dots,b_s;z)

=n=0(a1)n(ar)n(b1)n(bs)nznn!=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{(a_1)_n\cdots (a_r)_n}{(b_1)_n\cdots (b_s)_n}\dfrac{z^n}{n!}

定義式をもう少し詳しく説明すると,

  • 超幾何級数は,n=0cnzn\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n という形の無限級数
  • ただし,係数 cnc_n が複雑
  • 係数の分子には rr 個,分母には ss 個の「ポッホハマー記号」が登場
  • ポッホハマー記号 (a)n(a)_n とは,nn 個の連続積を表す:
    (a)n=a(a+1)(a+2)(a+n1)(a)_n=a(a+1)(a+2)\cdots (a+n-1)
    ただし,(a)0=1(a)_0=1とする。

特に,r=2,s=1r=2,s=1 の場合を超幾何級数と呼び,一般の rFs{}_rF_{s} のことを「一般化超幾何級数」と呼ぶこともあるようです。

超幾何級数の例

実は,超幾何級数は,いろいろな身近な関数を含んでいます。例えばコサインは,超幾何級数を使って

cosz=0F1(;12;z24)\cos z={}_0F_{1}\left(;\dfrac{1}{2};-\dfrac{z^2}{4}\right)

と表すことができます。これを確認してみましょう。

証明

右辺は,超幾何級数の定義より,

n=01(12)n1n!(z24)n=n=0112322n12(1)nn!2n2nz2n=n=0(1)n(2n)!z2n\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{1}{(\frac{1}{2})_n}\dfrac{1}{n!}\left(-\dfrac{z^2}{4}\right)^n\\ =\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{1}{\frac{1}{2}\cdot\frac{3}{2}\cdot\frac{2n-1}{2}}\cdot\dfrac{(-1)^n}{n!2^n\cdot 2^n}z^{2n}\\ =\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n}

これは,cosz\cos z のマクローリン展開と一致する: sinとcosのn階微分とマクローリン展開

Pfaff-Saalschütz の和公式

超幾何級数に関連するおもしろい恒等式はたくさんあります。その中でも,今回は Pfaff-Saalschütz の和公式と呼ばれる恒等式を紹介します。

任意の非負整数 kk に対して,

3F2(a,b,k;c,1+a+bck;1)=(ca)k(cb)k(c)k(cab)k{}_3F_{2}(a,b,-k;c,1+a+b-c-k;1)\\ =\dfrac{(c-a)_k(c-b)_k}{(c)_k(c-a-b)_k}

左辺は級数(実際には有限和になりますが)なのに,右辺は因数分解された分数式というのがおもしろいです。

k=0k=0 の場合は左辺も右辺も 11 になります。k=1k=1 の場合についても確認してみましょう。

k=1k=1 の場合の確認

まず,右辺は (ca)(cb)c(cab)\dfrac{(c-a)(c-b)}{c(c-a-b)} です。

左辺は,n=0(a)n(b)n(1)n(c)n(1+a+bc1)n1n!\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{(a)_n(b)_n(-1)_{n}}{(c)_n(1+a+b-c-1)_n}\dfrac{1}{n!}

ですが,分子に (1)n(-1)_n があるため,n2n\geq 2の項は消えます。

よって,左辺は 1abc(a+bc)1-\dfrac{ab}{c(a+b-c)} となります。つまり,

1abc(a+bc)=(ca)(cb)c(cab)1-\dfrac{ab}{c(a+b-c)}=\dfrac{(c-a)(c-b)}{c(c-a-b)}

という恒等式が得られます。

Pfaff-Saalschütz の和公式の証明は,私も知りません(帰納法を使って証明できるかも?)

参考文献:この定理が美しい(数学書房編集部)

超幾何級数は名前も見た目もゴツくて楽しいですね!