n次元超球の体積の求め方と考察

nn 次元単位超球の体積は,

Vn=πn2Γ(n2+1)V_n=\dfrac{\pi^{\frac{n}{2}}}{\Gamma(\frac{n}{2}+1)}

Γ(x)\Gamma(x) はガンマ関数と呼ばれるものです。 xx が正の整数のときには Γ(x)=(x1)!\Gamma(x)=(x-1)! です。

この記事の目標は VnV_n の導出です。ガンマ関数や重積分をできるだけ使わずに高校数学で(ほとんど)理解できるようにしています。

高次元の球とその体積とは

  • nn 次元(ユークリッド)空間において,x12+x22++xn2R2x_1^2+x_2^2+\cdots +x_n^2\leq R^2 を満たす点の集合を半径 RRnn 次元球と言います。特に R=1R=1 のとき,単位球と言います。

  • その集合の「大きさ」を表すのが体積です。
    (厳密には重積分: x12+x22++xn21dx1dx2dxn\displaystyle\int_{x_1^2+x_2^2+\cdots +x_n^2\leq 1}dx_1dx_2\cdots dx_n のこと)

n=1n=1 のとき,区間 [1,1][-1,1] の長さは V1=2V_1=2

n=2n=2 のとき,半径 11 の円の面積は V2=πV_2=\pi

n=3n=3 のとき,半径 11 の球の体積は V3=43πV_3=\dfrac{4}{3}\pi

n=4n=4 のとき,半径 11 の四次元球の体積は上記公式より V4=π22V_4=\dfrac{\pi^2}{2}

  • nn 次元球の体積は半径の nn 乗に比例します。つまり,半径 RR の超球の体積は VnRnV_nR^n と書くことができます(以下の証明でも使う)。

超球の体積の導出(考え方)

冒頭の VnV_n の式を証明していきます!

証明

nn 次元単位超球を xn=tx_n=t で切るとその断面は,x12+x22++xn121t2x_1^2+x_2^2+\cdots +x_{n-1}^2\leq 1-t^2 で表される n1n-1 次元の超球となる(半径は 1t2\sqrt{1-t^2})。

よって,nn 次元単位超球のうちで xn=tx_n=t から xn=t+Δtx_n=t+\Delta t の間にある部分の体積は,Δt\Delta t が十分小さいとき Vn1(1t2)n1ΔtV_{n-1}(\sqrt{1-t^2})^{n-1}\Delta t とみなせる。

Δt0\Delta t\to 0 の極限を考えて積分すると,

Vn=11Vn1(1t2)n1dt=2Vn101(1t2)n1dtV_n=\displaystyle\int_{-1}^1V_{n-1}(\sqrt{1-t^2})^{n-1}dt\\ =2V_{n-1}\displaystyle\int_0^1(\sqrt{1-t^2})^{n-1}dt

ここまでが考え方として重要な部分です。あとはひたすら計算するのみです。

超球の体積の導出(計算)

定積分を計算して漸化式を導く→漸化式を解いて明示的な式で VnV_n を書き表す。という作業です。

証明の続き

t=sinθt=\sin\theta と置換すると,

Vn=2Vn10π2cosn1θcosθdθV_n=2V_{n-1}\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\cos^{n-1}\theta \cos\theta d\theta

この右辺の定積分はウォリス積分を用いて計算できる:

nn が奇数のとき

Vn=2Vn1(n1)(n3)(n5)2n(n2)(n4)3V_n=2V_{n-1}\dfrac{(n-1)\cdot (n-3)\cdot (n-5)\cdots 2}{n\cdot(n-2)\cdot (n-4)\cdots 3}

nn が偶数のとき

Vn=πVn1(n1)(n3)(n5)3n(n2)(n4)2V_n=\pi V_{n-1}\dfrac{(n-1)\cdot (n-3)\cdot (n-5)\cdots 3}{n\cdot(n-2)\cdot (n-4)\cdots 2}

ここで,二つ目の式に n=2kn=2k を代入した式と,一つ目の式に n=2k1n=2k-1 を代入した式を使うとたくさん約分される:

V2k=2πV2k212k=πV2k2kV_{2k}=2\pi V_{2k-2}\cdot\dfrac{1}{2k}=\dfrac{\pi V_{2k-2}}{k}

この漸化式を繰り返し使うことで,まず偶数の場合が求まる: V2k=πk1k!V2=πkk!V_{2k}=\dfrac{\pi^{k-1}}{k!}V_2=\dfrac{\pi^k}{k!}

この結果と漸化式より奇数の場合も計算できる。ガンマ関数を使うことで奇数の場合と偶数の場合いずれも以下の式で表現できる:

Vn=πn2Γ(n2+1)V_n=\dfrac{\pi^{\frac{n}{2}}}{\Gamma(\frac{n}{2}+1)}

注:ガンマ関数は階乗の一般化です。ガンマ関数(階乗の一般化)の定義と性質

体積は外側に集中している

nn 次元単位超球のうち,原点から距離 rr 以下の部分が占める割合は rnr^n です。

0r10\leq r\leq 1 の範囲で f(r)=rnf(r)=r^n のグラフを描くと分かるように,nn が大きいときには体積が外側に集中していると言えます。

高次元空間では大福の中身は少なくて皮の部分がいっぱい。