ルートの和とシュワルツの不等式

ルートの和を上からおさえる公式

ax+by(a2+b2)(x+y)a\sqrt{x}+b\sqrt{y}\leqq\sqrt{(a^2+b^2)(x+y)}

ルートの和を上から押さえたいときに使える不等式です。

応用例として東大の有名な入試問題を紹介します。

ルートの和の扱いと公式の証明

不等式証明の基本は「両辺の差を取って 00 以上を示す」です。不等式にルートが含まれている場合は,両辺を二乗すれば解消される場合もあります。

しかし,ルートの和が登場する場合,二乗しても根号が外れません。 x+y\sqrt{x}+\sqrt{y} の二乗には xy\sqrt{xy} が含まれるからです。

そこで登場するのがシュワルツの不等式です。シュワルツの不等式を用いることで「ルートの和 \leqq 和のルート」という不等式を作り出せます。

冒頭の公式の証明

シュワルツの不等式より,

(ac+bd)2(a2+b2)(c2+d2)(ac+bd)^2\leqq(a^2+b^2)(c^2+d^2)

ここで c2=x,d2=yc^2=x,d^2=y とおいて両辺の平方根を取ると ax+by(a2+b2)(x+y) a\sqrt{x}+b\sqrt{y}\leqq\sqrt{(a^2+b^2)(x+y)} である。

シュワルツの不等式を知らない方は,シュワルツの不等式とそのエレガントな証明を参照してください。

以下では,この公式を用いる例題を2問紹介します。

応用例1:東大の入試問題

1問目は東大の入試問題です。

問題1

任意の正の実数 x,yx,y に対して x+yk2x+y\sqrt{x}+\sqrt{y}\leqq k\sqrt{2x+y} が成立するような実数 kk の最小値を求めよ。

方針

ルートの和と和のルートが登場した瞬間に上記の公式を連想しましょう。右辺に 2x+y2x+y を作りだすために x2xx→2x とおきます。あとは a,ba,b を調整します。

解答

公式において x2xx→2x とおくと,

a2x+by(a2+b2)(2x+y) a\sqrt{2x}+b\sqrt{y}\leqq\sqrt{(a^2+b^2)(2x+y)} である。

さらに左辺の xx の係数と yy の係数をそろえるために a=12,b=1a=\dfrac{1}{\sqrt{2}},b=1 とおくと,

x+y32(2x+y) \sqrt{x}+\sqrt{y}\leqq\sqrt{\dfrac{3}{2} (2x+y)}

よって,k32k\geqq\sqrt{\dfrac{3}{2}} ならOKである。

また,x=1,y=4x=1,y=4 とすれば等号が成立する(注)ので kk32\sqrt{\dfrac{3}{2}} より小さいときは条件を満たさない。

よって求める kk の値は 32\sqrt{\dfrac{3}{2}} である。

注:実際の答案では上記の公式は証明してから用いましょう。その際にシュワルツの等号成立条件を考えることで 4x=y4x=y のとき等号が成立することが自然に分かります。

→高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~のT36も参照してみてください。

応用例2:アジア太平洋数学オリンピックの問題

1996年のアジア太平洋数学オリンピック(APMO)の第5問です。

問題2

a,b,ca,b,c が三角形の辺の長さのとき以下の不等式を証明せよ。

a+bc+b+ca+c+aba+b+c \sqrt{a+b-c}+\sqrt{b+c-a}+\sqrt{c+a-b}\leqq\sqrt{a}+\sqrt{b}+\sqrt{c}

方針

三角形の辺の長さなので,とりあえずRavi変換を用います。すると上記の公式が使えそうな形が出現します。3つに分解するテクニックを用います。

解答

Ravi変換を用いると,x,y,z>0x,y,z > 0 に対して以下の不等式を証明すればよいことが分かる。

2x+2y+2zx+y+y+z+z+x \sqrt{2x}+\sqrt{2y}+\sqrt{2z} \leqq \sqrt{x+y}+\sqrt{y+z}+\sqrt{z+x}

上記公式により,

2x+2y2x+y \sqrt{2x}+\sqrt{2y}\leqq 2\sqrt{x+y} であり,これと同様な式をもう2つこしらえて足し合わせると目標の不等式を得る。

また,Karamataの不等式を用いた別解もあります。→karamataの不等式

イェンゼンの不等式との関係

冒頭の公式の別証明も紹介しておきます。イェンゼンの不等式を用います。

イェンゼンの不等式を用いた証明

y=xy=\sqrt{x} は上に凸な関数なのでイェンゼンの不等式より,

axa+b+bya+bax+bya+b \dfrac{a\sqrt{x}}{a+b}+\dfrac{b\sqrt{y}}{a+b}\leqq\sqrt{\dfrac{ax+by}{a+b}}

両辺 a+ba+b 倍して ax=X,by=Yax=X,by=Y とおくと,

aX+bY(a+b)(X+Y) \sqrt{aX}+\sqrt{bY}\leqq\sqrt{(a+b)(X+Y)}

ここで a=A2,b=B2a=A^2,b=B^2 とおくと目標の式を得る。

なお,項が3つ以上の場合も同様の不等式が成立します。

Tag:東大入試数学の良問と背景知識まとめ

Tag:各地の数オリの過去問