並べ替え不等式の証明と例題

並べ替え不等式(再配列不等式,rearrangement inequality)
  • x1x2xnx_1\geqq x_2\geqq\cdots\geqq x_n
  • y1y2yny_1\geqq y_2\geqq\cdots \geqq y_n
  • {1,2,,n}\{1, 2, \cdots, n\} の並べ替え {σ(1),σ(2),,σ(n)}\{\sigma(1), \sigma(2), \cdots, \sigma(n)\} に対して, i=1nxiyii=1nxiyσ(i)i=1nxiyni+1 \sum_{i=1}^nx_iy_i\geqq\sum_{i=1}^nx_iy_{\sigma(i)}\geqq\sum_{i=1}^nx_iy_{n-i+1}

並べ替え不等式についてわかりやすく解説します。

並べ替え不等式のイメージ

式だけ見ていても分かりにくいので n=3n=3 の具体例で考えてみます。

100円玉,50円玉,10円玉のうちどれかを3枚,どれかを2枚,どれかを1枚もらえるとしたら,100円玉をいっぱいもらうと思います。つまり,

100×3+50×2+10×1100\times 3+50\times 2+10\times 1\geqq もらえる金額

になりそうです。逆に,お金をあげる場合は10円玉をいっぱいあげると思います。つまり,

払う金額 100×1+50×2+10×3\geqq100\times 1+50\times 2+10\times 3

になりそうです。

これが n=3,x1=100,x2=50,x3=10,y1=3,y2=2,y3=1n=3,x_1=100, x_2=50, x_3=10,y_1=3, y_2=2, y_3=1 の場合の並べ替え不等式 i=13xiyii=13xiyσ(i)i=13xiy4i\sum_{i=1}^3x_iy_i\geqq\sum_{i=1}^3x_iy_{\sigma(i)}\geqq\sum_{i=1}^3x_iy_{4-i} になります。式で書くと少しわかりにくいですが「大きい数をたくさん集めたほうが大きくなる」という当たり前な不等式です。

並べ替え不等式の応用例

証明は後ほど紹介します。先におもしろい応用例から紹介します。

例題1

a2+b2+c2ab+bc+caa^2+b^2+c^2\geqq ab+bc+ca を示せ。

方針

対称式の不等式証明は自由に大小関係を設定できるので並べ替え不等式が使えます。

解答

abca\geqq b\geqq c の場合にのみ証明すればよい。

並べ替え不等式において,

x1=y1=a,x2=y2=b,x3=y3=c x_1=y_1=a, x_2=y_2=b, x_3=y_3=c

とすれば目標の不等式を得る:

a2+b2+c2ab+bc+ca a^2+b^2+c^2\geqq ab+bc+ca

「大きい数をたくさん集めたほうが大きくなる」と覚えておきましょう。

ちなみにこの有名不等式は他にもいろいろな方法で証明できます(→有名不等式a^2+b^2+c^2≧ab+bc+ca証明)。

例題2

a,b,c>0a, b, c > 0 のとき以下の不等式を証明せよ。

ab+c+bc+a+ca+b32 \dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\geqq \dfrac{3}{2}

方針

さきほどと同様に対称式なので,大小関係を設定してから並べ替え不等式が使えそうです。右辺の 32\dfrac{3}{2} を出すために工夫が必要です。

解答

abca\geqq b\geqq c の場合にのみ証明すればよい。

a+bc+ab+ca+b\geqq c+a\geqq b+c より,1b+c1c+a1a+b\dfrac{1}{b+c}\geqq \dfrac{1}{c+a}\geqq \dfrac{1}{a+b} である。よって並べ替えの不等式より, ab+c+bc+a+ca+bbb+c+cc+a+aa+bab+c+bc+a+ca+bcb+c+ac+a+ba+b \dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\geqq\dfrac{b}{b+c}+\dfrac{c}{c+a}+\dfrac{a}{a+b}\\ \dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\geqq\dfrac{c}{b+c}+\dfrac{a}{c+a}+\dfrac{b}{a+b}

この2つの不等式を辺々加えて2で割ると目標の不等式が得られる。

ちなみに,この不等式はNesbittの不等式と呼ばれる有名不等式です。他にも様々な方法で証明できます。Nesbittの不等式の6通りの証明

並べ替え不等式の証明

並べ替え不等式の証明を2通り紹介します。

置換による証明

方針

σ\sigma を動かして全ての並べ替えを試した時に,i=1nxiyσ(i)\displaystyle\sum_{i=1}^nx_iy_{\sigma(i)} が最大となるのが σ(i)=i\sigma(i)=i (恒等変換)であることを示します。

置換の記号を使っていて一見難しいですが,x1x_1 の相方が y1y_1 でないときは交換によって値を大きくできる」ことを言うだけです。

証明1

σ(1)=i1\sigma(1)=i\neq 1 のとき σ(j)=1\sigma(j)=1 となる 11 でない jj が存在する。

(x1xj)(y1yi)0 (x_1-x_j)(y_1-y_i)\geqq 0 より, x1y1+xjyix1yi+xjy1 x_1 y_1+x_j y_i \geqq x_1 y_i+x_j y_1

つまり x1yσ(j)+xjyσ(1)x1yσ(1)+xjyσ(j) x_1y_{\sigma(j)}+x_jy_{\sigma(1)} \geqq x_1y_{\sigma(1)}+x_jy_{\sigma(j)}

よって,yσ(1)y_{\sigma(1)}yσ(j)y_{\sigma(j)} を交換しても(すなわち x1x_1 の相方と xjx_j の相方を交換しても)値は小さくならない。よって,最大の値となる並べ替え(の1つ)を σ\sigma' とおくと,σ(1)=1\sigma'(1)=1 を満たす。つまり,x1x_1 の相方は yσ(j)=y1y_{\sigma(j)}=y_1 の方がよい!

同様にして最大の値をとる並べ替え(の1つ)σ\sigma' は,任意の ii に対して σ(i)=i\sigma'(i)=i を満たすことが分かる。

つまり, i=1nxiyii=1nxiyσ(i) \sum_{i=1}^nx_iy_i\geqq\sum_{i=1}^nx_iy_{\sigma(i)}

次に,yiy_i を逆方向から並べ替えて,

ynyn1y1-y_n\geq -y_{n-1}\geqq\cdots\geq -y_1 としたものに上記で示した不等式を適用する。

i=1nxi(yni+1)i=1nxi(yσ(i)) \sum_{i=1}^nx_i(-y_{n-i+1})\geqq\sum_{i=1}^nx_i(-y_{\sigma(i)})

これより右側の不等式を得る。

i=1nxiyσ(i)i=1nxiyni+1 \sum_{i=1}^nx_iy_{\sigma(i)}\geqq\sum_{i=1}^nx_iy_{n-i+1}

ごちゃごちゃしていますが,要は「恒等変換以外は交換して値を改善できる」というわけです。

帰納法による証明

結局似たようなことをしますが,帰納法でも証明できます。

証明2

n=2n=2 のときは簡単。実際,

x1y1+x2y2x1y2x2y1=(x1x2)(y1y2)0\begin{aligned} &x_1y_1+x_2y_2-x_1y_2-x_2y_1\\ &=(x_1-x_2)(y_1-y_2) \geqq 0 \end{aligned}

からわかる。

n=k1n={k-1} のときに成立すると仮定する。

S=x1y1++xkyk S=x_1y_1+\cdots +x_ky_k

T=x1yσ(1)++xkyσ(k) T=x_1y_{\sigma(1)}+\cdots +x_ky_{\sigma(k)}

の中で最大であることを証明したい。

  1. xkx_{k} の相方が yky_{k} のもとでは:
    つまり σ(k)=k\sigma(k)=k のもとでは
    帰納法の仮定より TT の最大値は SS

  2. xkx_{k} の相方が yi(ik)y_i\:(i\neq k) のもとでは:
    交換して大きくできる。つまり yky_{k} の相方を xjx_j とすると, xkyi+xjykx_{k}y_{i}+x_jy_{k} よりもそれを交換した xjyi+xkykx_jy_i+x_{k}y_{k} の方が(n=2n=2 のときの不等式より)大きいので TT の最大値は 11 の場合の最大値である SS 以下

関連する不等式

対称式の不等式証明は,大小関係設定して並べ替え不等式が使えることが多いです。

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