二項係数と数学オリンピック2025 第11問(JMO)

数学オリンピック 2025 予選 11

JMO 星団は,はじめ 5 つの星 OOAABBCCDD からなっており,それぞれの星には重要度とよばれる値が割り当てられている。OO の重要度は 0 であり,AABBCCDD の重要度は 1 である。また,OO から AA および CC へ,AA から BB および DD へ,BB から OO ヘ,CC から BB および DD へ,DD からOO へ向かう一方向の直行便が開設されており,ほかに直行便はない。

JMO 星団では星の老朽化を防ぐために,次の一連の行動からなる操作を定期的に行うことにした。

(1) 今あるすべての直行便を廃止し,すべての星を破壊する。

(2) 今回の操作の (1) で廃止したすべての直行便 ff に対して,それに対応する星 SfS_f を 1 つずつ建設する。その後,SfS_f の重要度として,ff が出発する星と到着する星の重要度の和を割り当てる。

(3) 今回の操作の (1) で廃止した 2 つの直行便の組 (ff)(f,f') であって,ff が到着する星と ff' が出発する星が一致するようなものすべてについて,SfS_f から SfS_{f'} に向かう一方向の直行便を開設する。

このとき,100 回目の操作で建設した星の重要度の総和を求めよ。

pic00

この記事では2025年の数オリ予選の第11問を解説します。

実験

まずは状況を掴むために実験をしましょう。

XX から星 YY に直行便があった際に建設された星を XYXY ということにします。

1回目の操作の後は pic01 となります。

2回目の操作の後は pic02 となります。

XX の重要度は XX に含まれる OO 以外の文字の個数に対応します。

よって 100100 回操作した後の星の名前に含まれる文字の個数を数えればよいことになります。

さて,nn 回の操作の後に星の名前として現れる文字にはどのようなものがあるのでしょうか?

2回の操作の後の星の名前をまとめると

OAAB,OAAD,OCCB,OCCD,ABBO,ADDO,CBBO,CDDO,BOOA,BOOC,DOOA,DOOA OAAB,OAAD,OCCB,OCCD,\\ ABBO,ADDO,CBBO,CDDO,\\ BOOA,BOOC,DOOA,DOOA

となります。どの星の名前も3つの文字から成ります。

3回目の操作の後の星の名前は

OAABABBO,OAADADDO,OCCBCBBO,OCCDCDDO,ABBOBOOA,ABBOBOOC,ADDODOOA,ADDODOOC,CBBOBOOA,CBBOBOOC,CDDODOOA,CDDODOOC,BOOAOAAB,BOOAOAAD,BOOCOCCB,BOOOCCD,DOOAOAAB,DOOAOAAD,DOOCOCCB,DOOOCCD, OAABABBO,OAADADDO,\\ OCCBCBBO,OCCDCDDO,\\ ABBOBOOA,ABBOBOOC,\\ ADDODOOA,ADDODOOC,\\ CBBOBOOA,CBBOBOOC,\\ CDDODOOA,CDDODOOC,\\ BOOAOAAB,BOOAOAAD,\\ BOOCOCCB,BOOOCCD,\\ DOOAOAAB,DOOAOAAD,\\ DOOCOCCB,DOOOCCD,\\

となります。

どの名前も元のグラフで3回移動したときの航路に対応します。例えば,OAABABBOOAABABBO は,元のグラフにおいて OABOO \rightarrow A \rightarrow B \rightarrow O という経路に対応しています。

星の名前は元のグラフの航路に対応していることが予想できますが,各文字はどのような重複度で現れているのでしょうか?

OAABABBOOAABABBO を見てみます。OO は2回,AA は3回,BB は3回登場していますね。OO は始点終点それぞれ別のものだと思うと,O,A,B,OO,A,B,O が順に 1,3,3,11,3,3,1 回登場します。これは二項係数そのものですね。

さて,以上の観察を答案に起こしましょう。

解答

解答例

星の名前の定義

帰納的に,f:XYf:X \to Y から得られる SfS_fXYXY という名前を対応づける。

このとき,星 XX の重要度は XX に現れる OO 以外の文字の個数に対応する。

星と航路の対応

次に nn 回目の操作の後にできた星と直行便について次が従うことを示す。

(a):星 XX は,元の航路において nn 回移動した経路(n+1n+1 個の星を移動したもの)に対応する。(対応する経路を X0X1XnX_0 \to X_1 \to \cdots \to X_n と書く。)

(b):星 XX と星 YY の間に直行便があることと,対応する経路について X1=Y0,,Xn=Yn1X_1 = Y_0 , \cdots , X_n = Y_{n-1} は同値である。

n=1n=1 のときは実際に計算することで分かる。 pic01

n=kn=k で成立すると仮定する。kk 回の操作でできた星 XX,星 YY の間に直行便があるとする。このとき (b) より XYXY は経路 X0X1XkYkX_0 \to X_1 \to \cdots \to X_k \to Y_k に対応する。

XYXY から直行便が存在する星を考える。問題の条件 (3) より,XYXY から直行便が伸びる星は,YY が始点となる直行便 ff' から建設される SfS_{f'} に限る。

直行便 f:YZf' : Y \to Z がある場合,(b) より Y2=Z1,,Yk=Zk1Y_2 = Z_1 , \cdots , Y_k = Z_{k-1} である。ゆえに 直行便 XYYZXY \to YZ は経路 X0X1XkYkZkX_0 \to X_1 \to \cdots \to X_k \to Y_k \to Z_k に対応する。

よって成立する。

経路から星の名前を定める

経路 X0X1XnX_0 \to X_1 \to \cdots \to X_n から得られる星の名前に,Xm (m=0,1,,n)X_m \ (m = 0,1, \cdots , n) が現れる回数を X(m)X(m) とする。このとき X(k)=nCkX(k) = {}_n \mathrm{C}_k であることを示す。

nn に関する帰納法で示す。n=1n=1 のときは既に計算した通りである。

n=kn=k で従うと仮定する。XYX \to Y から得られる星 XYXY について考える。m=0,k+1m=0,k+1 のときはそれぞれ XY(0)=X(0)=1,XY(k+1)=Y(k)=1XY(0) = X(0) = 1, XY(k+1) = Y(k) = 1 である。

m=1,2,,km =1,2, \cdots , k のときを考える。(XY)m=Xm=Ym+1(XY)_m = X_m = Y_{m+1} である。よって XY(m)=X(m)+Y(m+1)XY(m) = X(m) + Y(m+1) である。

帰納法の仮定から X(m)=kCmX(m) = {}_k \mathrm{C}_mY(m+1)=kCm+1Y(m+1) = {}_k \mathrm{C}_{m+1} であるため,二項係数の性質から XY(m)=k+1CmXY(m) = {}_{k+1} \mathrm{C}_m である。こうして示された。

経路の場合分け

元のグラフから,どのような経路においても3回に1度 OO を通過する。よって,OO が最初に登場する場所に応じて場合分けをすればよい。

航路の対称性から,まずは O,A,BO,A,B のみを通過する経路を考え,AABB をそれぞれ CCDD に置き換えることにより,すべての経路を調べる。

出発点が OO である経路

経路は OABOABOABundefined33 セットOA \underbrace{OABOAB \cdots OAB}_{33\ \text{セット}} OA である。(矢印は省略した)

この経路に対応する星の重要度は 0100C0+1100C1+1100C2++0100C99+1100C100 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 + \cdots + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100} である。

同様に OO を出発点とする経路は,上の経路において AA が34回,BB3333 回登場することから 2672^{67} 個存在する。

1回目の移動で初めて OO が登場する経路

O,A,BO,A,B だけを通る場合,経路は BOABOABOAundefined33 セットBO \underbrace{BOABOA \cdots BOA}_{33\ \text{セット}} BO である。(矢印は省略した)

この経路に対応する星の重要度は 1100C0+0100C1+1100C2++1100C99+0100C100 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 + \cdots + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100} である。

同様の経路は,上の経路において AA が33回,BB3434 回登場することから 2672^{67} 個存在する。

2回目の移動で初めて OO が登場する経路

O,A,BO,A,B だけを通る場合,経路は ABOABOABOundefined33 セットAB \underbrace{ABOABO \cdots ABO}_{33\ \text{セット}} AB である。(矢印は省略した)

この経路に対応する星の重要度は 1100C0+1100C1+0100C2++1100C99+1100C100 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 + \cdots + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100} である。

同様の経路は,上の経路において AA が34回,BB3434 回登場することから 2682^{68} 個存在する。

重要度の総和

上記の計算により重要度の総和は (0100C0+1100C1+1100C2++0100C99+1100C100)×267+(1100C0+0100C1+1100C2++1100C99+1100C100)×267+(1100C0+1100C1+0100C2++1100C99+0100C100)×268=(1100C0+1100C1+1100C2++1100C99+1100C100)×3×267(100C2+100C5++100C98)×267= 3×267×2100(100C2+100C5++100C98)×267\begin{aligned} & (0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 +\\ & \quad \cdots + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100}) \times 2^{67}\\ +& (1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 +\\ &\quad \cdots + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100}) \times 2^{67}\\ +& (1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 +\\ & \quad \cdots + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 0 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100}) \times 2^{68}\\ =& (1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_0 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_1 + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_2 +\\ & \cdots + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{99} + 1 \cdot {}_{100} \mathrm{C}_{100}) \times 3 \times 2^{67}\\ & - ({}_{100} \mathrm{C}_2 + {}_{100} \mathrm{C}_{5} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{98}) \times 2^{67}\\ =& \ 3 \times 2^{67} \times 2^{100} - ({}_{100} \mathrm{C}_2 + {}_{100} \mathrm{C}_{5} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{98}) \times 2^{67} \end{aligned} である。

最後の項を計算する。ただし ω=1+3i2\omega = \dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2} とする。ω3=1\omega^3 = 1 に注意すると, (100C2+100C5++100C98)×3=(100C0+100C3++100C99)×(ω2+ω+1)+(100C1+100C4++100C100)×(ω2+ω+1)+(100C2+100C5++100C98)×3=(100C0+100C1++100C100)+(100C0ω0+100C1ω1++100C100ω100)×ω+(100C0ω0+100C1ω2++100C100ω200)×ω2=(1+1)100+ω(1+ω)100+ω2(1+ω2)100\begin{aligned} &({}_{100} \mathrm{C}_2 + {}_{100} \mathrm{C}_{5} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{98}) \times 3 \\ &= ({}_{100} \mathrm{C}_0 + {}_{100} \mathrm{C}_{3} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{99}) \times (\omega^2 + \omega + 1)\\ &\quad + ({}_{100} \mathrm{C}_1 + {}_{100} \mathrm{C}_{4} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{100}) \times (\omega^2 + \omega + 1)\\ &\quad + ({}_{100} \mathrm{C}_2 + {}_{100} \mathrm{C}_{5} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{98}) \times 3\\ &= ({}_{100} \mathrm{C}_0 + {}_{100} \mathrm{C}_{1} + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{100})\\ &\quad + ({}_{100} \mathrm{C}_0 \omega^0 + {}_{100} \mathrm{C}_{1} \omega^1 + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{100} \omega^{100}) \times \omega \\ &\quad + ({}_{100} \mathrm{C}_0 \omega^0 + {}_{100} \mathrm{C}_{1} \omega^2 + \cdots + {}_{100} \mathrm{C}_{100} \omega^{200}) \times \omega^2 \\ &= (1+1)^{100} + \omega (1+\omega)^{100} + \omega^2 (1+\omega^2)^{100} \end{aligned} である。さらに ω+1=1+3i2=cosπ3+isinπ3ω2+1=13i2=cosπ3+isin5π3 \omega + 1 = \dfrac{1+\sqrt{3}i}{2} = \cos \dfrac{\pi}{3} + i \sin \dfrac{\pi}{3}\\ \omega^2 + 1 = \dfrac{1-\sqrt{3}i}{2} = \cos \dfrac{\pi}{3} + i \sin \dfrac{5\pi}{3} より (1+1)100+ω(1+ω)100+ω2(1+ω2)100=2100+ω(cos1003π+isin1003π)+ω2(cos2003π+isin2003π)=2100+ω(cos43π+isin43π)+ω2(cos23π+isin23π)=2100+2\begin{aligned} &(1+1)^{100} + \omega (1+\omega)^{100} + \omega^2 (1+\omega^2)^{100}\\ &= 2^{100} + \omega \left( \cos \dfrac{100}{3} \pi + i \sin \dfrac{100}{3} \pi \right)\\ &\qquad \qquad + \omega^2 \left( \cos \dfrac{200}{3} \pi + i \sin \dfrac{200}{3} \pi \right)\\ &= 2^{100} + \omega \left( \cos \dfrac{4}{3} \pi + i \sin \dfrac{4}{3} \pi \right)\\ &\qquad \qquad + \omega^2 \left( \cos \dfrac{2}{3} \pi + i \sin \dfrac{2}{3} \pi \right)\\ &= 2^{100}+2 \end{aligned} である。

よって,重要度の総和は 3×267×21002100+23×267=267×9×2100210023=267×8×210023=268(21021)3\begin{aligned} &3 \times 2^{67} \times 2^{100} - \dfrac{2^{100}+2}{3} \times 2^{67}\\ &= 2^{67} \times \dfrac{9 \times 2^{100}-2^{100}-2}{3}\\ &= 2^{67} \times \dfrac{8 \times 2^{100}-2}{3}\\ &= \dfrac{2^{68} (2^{102}-1)}{3} \end{aligned} である。

ポイント

  • 実験から星と経路が対応していることに気付く
  • 文字の登場パターンが二項係数によって制御されていることに気付く
  • 二項係数の和についてのテクニック→ 飛び飛びになった二項係数の和

星を破壊し建設し直せるほど科学技術が発達しているのですね。