体の基礎用語~拡大体と拡大次数
足し算・引き算・掛け算・割り算ができるような代数系を体(たい)という。
和と積が計算できる対象のことを環というのでした。
この記事では,実数や複素数のように,商も計算できる対象「体」について解説します。
定義
定義
体とは大雑把に言うと「割り算が計算できる環」です。つまり「逆数が存在する環」です。もう少し厳密に定義します。
環 の元 が可逆元であるとは,乗法についての逆元 (すなわち となる元)が存在することを意味する。
- の可逆元は のみです。
- は 以外の全ての元が可逆元です。
- の可逆元は と表される元となります。
実際 となります。
が次の2つの条件を満たすとき,体と呼ぶ。
- は環である。
- の を除く全ての元が可逆元である。
具体例
具体例
身近な例
体として身近なものに 有理数・実数・複素数 があります。それぞれ ・・ と表記します。
に を添加した体: もまた体になります。
の でない元 の逆元を探してみましょう。
を有理化すると となります。
なのでこれは の元です。
商体
(整域である)環 について によって定まる集合は体になります。これを の商体といいます。
は の商体です。
整域とは
環 の元 に対して であれば, か が となるとき, を整域といいます。
は整域です。一方, は なので整域ではありません。
有理式の集合
多項式の集合は環を成します。→ 環の定義とその具体例
実数変数の多項式環を と書くのでした。
を有理式の集合,すなわち を表します。
これは多項式環の商体です。
非可換体
環と同様に非可換な体を考えることができます。斜体ということもあります。
- 四元数全体の集合 は非可換体です。→四元数と三次元空間における回転
有限体
元の個数が有限である体を有限体といいます。
特に重要なものとして,元の個数が素数 である があります。
での演算は, での演算となります。→ 合同式(mod)の意味とよく使う6つの性質
より詳しくは 有限体(ガロア体)の基本的な話 も参照してください。
拡大体と拡大次数
拡大体と拡大次数
以下,この記事では可換体について考えます。可換体に対する部分体・拡大体・拡大次数について説明します。
拡大体
可換体においては,拡大体の考えが重要です。
体 の部分集合 が次の条件を満たすとき, を の部分体 という。
- は の加法・乗法で体となる。
- は の乗法の単位元を含む。
また,このとき を の拡大体 といい と書く。
体 が の拡大体であり, の部分体であるとき, を の中間体 という。
例えば は の拡大体であり,さきほど登場した は, の中間体です。
中間体のなかでも特に重要なものが「元を添加した体」です。
体 を体 の拡大体とする。
の部分集合 に対して, を含む最小の中間体 を を添加した体 といい, と表す。
が有限集合 であるとき,単に と書く。
例えば, は に を添加した体 です。なぜなら,
- は の拡大体で の部分体です。つまり, を含む中間体です。
- また, は を含む中間体の中で最小です( という形のすべての元を入れないと を含む体にはならない)。
では に を添加した体 はどのようになるのでしょうか。
と同様に となりそうですが,実は不十分です。 という元も含める必要があります。
実は, となります。
拡大次数
例
は の拡大体です。
であることから, は2次元実ベクトル空間です。
つまり です。
先ほど紹介したように
-
は の拡大体です。また です。
-
より, です。
有限次拡大と無限次拡大
拡大次数が有限である拡大を 有限次拡大, である拡大を 無限次拡大 といいます。
これまで紹介してきた拡大はどれも有限次拡大でした。
を に拡大することを考えます。
任意の素数 について です。
に をすべて添加しても にはなりません。( などが溢れます)
このことから です。
は の無限次拡大です。これを含む もまた の無限次拡大です。
拡大次数の応用
拡大次数は作図問題で活躍します。
を実数とする。
は作図可能数 拡大体 について,拡大次数 が2のべき乗になる
詳しくは ギリシアの三大作図問題 を読んでみてください。
拡大にも様々な種類があります。例えば, から に拡大するとき,代数閉体になります。代数閉になる拡大は1つの重要な拡大です。