ワイエルシュトラスのペー関数

ワイエルシュトラスのペー関数の定義

複素数 ω1,ω2\omega_1 , \omega_2ω1ω2R\dfrac{\omega_1}{\omega_2} \notin \mathbb{R} を満たすとする。

格子 Λ={nω1+mω2:n,mZ}\Lambda = \{ n \omega_1 + m \omega_2 : n,m \in \mathbb{Z} \} に対する ワイエルシュトラスのペー関数(楕円関数)(z)=1z2+ωΛ\{0}(1(zω)21ω2) \wp (z) = \dfrac{1}{z^2} + \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \left( \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right) と定める。

この記事ではワイエルシュトラスのペー関数について,いろいろな性質を紹介します。

ワイエルシュトラスのペー関数は数論で登場する重要な関数です。

楕円関数

ワイエルシュトラスのペー関数は,楕円関数の代表例です。ただし,楕円関数の定義は以下のとおりです:

楕円関数

二重周期を持つ有理型関数を楕円関数という。

  • 「二重周期」の意味は後述します。

  • 有理型関数とは,特異点が離散的で,真性特異点を持たない関数のことです。例えば,多項式の有理式の形の関数 (1x(x+1)など)\left( \dfrac{1}{x(x+1)} \text{など} \right) や三角関数の有理式(1sinxなど)\left( \dfrac{1}{\sin x}\text{など} \right) は有理型です。→偏角の原理とルーシェの定理~方程式の解の個数について
    ペー関数は,特異点が Λ\Lambda の各点のみで,それらはすべて位数が 22 の極なので有理型関数です。

ペー関数の簡単な性質

微分

ペー関数の導関数を計算しましょう。ペー関数は一様収束します (証明は ワイエルシュトラスのペー関数~証明編 参照)。

よって,項別微分できるので, (z)=ωΛ2(zω)3 \wp' (z) = -\sum_{\omega \in \Lambda} \dfrac{2}{(z - \omega)^3} となります。

ペー関数は偶関数

定義より (z)=(z)\wp (-z) = \wp (z) なので,ペー関数は偶関数 です。

二重周期関数

ペー関数の非常に重要な性質に周期性があります。

格子

複素数 ω1,ω2\omega_1 , \omega_2ω1ω2R\dfrac{\omega_1}{\omega_2} \notin \mathbb{R} を満たすとします。

このとき,格子 Λ\LambdaΛ={nω1+mω2:n,mZ} \Lambda = \{ n \omega_1 + m \omega_2 : n,m \in \mathbb{Z} \} と定めます。

格子は下図の黒点です。

lattice

また,{sω1+tω2:s,t[0,1]}\{ s \omega_1 + t \omega_2 : s,t \in [0,1] \} すなわち,O\mathrm{O}ω1\omega_1ω2\omega_2ω1+ω2\omega_1 + \omega_2 で囲まれた平行四辺形を単位格子と呼びます。

ペー関数の周期性

((z+ω1)(z))=ωΛ2(z+ω1ω)3+ωΛ2(zω)3=0\begin{aligned} &(\wp (z+\omega_1) - \wp (z))'\\ &= - \sum_{\omega \in \Lambda} \dfrac{2}{(z + \omega_1 - \omega)^3} + \sum_{\omega \in \Lambda} \dfrac{2}{(z - \omega)^3}\\ &= 0 \end{aligned}

より (z+ω1)(z)\wp (z+\omega_1) - \wp (z) は定数です。これを cc としましょう。

z=ω12z = -\dfrac{\omega_1}{2} を代入すると c=(ω12)(ω12)c = \wp \left( \dfrac{\omega_1}{2} \right) - \wp \left( -\dfrac{\omega_1}{2} \right) です。

ペー関数は偶関数であったため c=0c = 0 となり (z)=(z+ω1)\wp (z) = \wp (z+ \omega_1) です。

同様に, (z)=(z+ω2)\wp (z) = \wp (z+ \omega_2) です。

このように2つの周期を持つ関数(比が実数でない2つの複素数 ω1,ω2\omega_1,\omega_2 に対して (z)=(z+ω1)+(z+ω2)\wp(z)=\wp(z+\omega_1)+\wp(z+\omega_2) を満たす関数)のことを二重周期関数といいます。

特に有理型の二重周期関数を楕円関数といいます。

ペー関数の極と零点

定義より,ペー関数の極は Λ\Lambda の点となります。特に定義式から極の位数は 22 です。

※ 位数について →ローラン展開 を参照。

零点

ペー関数の零点を計算するのは難しいです。しかし,\wp' の零点は簡単にわかります。

ペー関数の導関数の零点

(ω12)=0\wp' \left( \dfrac{\omega_1}{2} \right) = 0(ω22)=0\wp' \left( \dfrac{\omega_2}{2} \right) = 0(ω1+ω22)=0\wp' \left( \dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2} \right) = 0

計算

\wp' は奇関数であるため (ω12)=(ω12) \wp' \left( -\dfrac{\omega_1}{2} \right) = -\wp' \left( \dfrac{\omega_1}{2} \right) である。一方,周期性より (ω12)=(ω12ω1)=(ω12) \wp' \left( \dfrac{\omega_1}{2} \right) = \wp' \left( \dfrac{\omega_1}{2} - \omega_1 \right) = \wp' \left( -\dfrac{\omega_1}{2} \right) である。2式より (ω12)=0\wp' \left( \dfrac{\omega_1}{2} \right) = 0 である。

z=ω22,ω1+ω22z = \dfrac{\omega_2}{2}, \dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2} も同様。

ちなみに \wp' の零点はこれで尽くされます。

証明

単位格子を平行移動した格子を考える: P(a)={a+sω1+tω2s,t[0,1]} P(a) = \{ a + s \omega_1 + t \omega_2 \mid s,t \in [0,1] \}

aa をうまく取って P(a)\partial P(a) 上に \wp' の零点と極がないようにする。

P(a)P(a) における (z)\wp'(z) の零点の個数を NN,極の個数を PP とする(重複は含める)と,偏角の原理 より, 12πiP(a)(z)(z)dz=NP \dfrac{1}{2\pi i} \oint_{\partial P(a)} \dfrac{\wp''(z)}{\wp'(z)} dz = N-P である。

ここで (z)(z)\dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} は周期関数である。

P(a)(z)(z)dz=z0からz0+ω1(z)(z)dz+z0+ω1からz0+ω1+ω2(z)(z)dz+z0+ω1+ω2からz0+ω2(z)(z)dz+z0+ω2からz0(z)(z)dz\begin{aligned} &\oint_{\partial P(a)} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz \\ &= \int_{z_0 \text{から} z_0 + \omega_1} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz + \int_{z_0 + \omega_1 \text{から} z_0 + \omega_1 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz\\ &\quad\quad +\int_{z_0 + \omega_1 + \omega_2 \text{から} z_0 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz+ \int_{z_0 + \omega_2 \text{から} z_0} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz \end{aligned}

さて線積分の性質から z0+ω2からz0+ω1+ω2(z)(z)dz=z0+ω1+ω2からz0+ω2(z)(z)dzz0からz0+ω2(z)(z)dz=z0+ω2からz0(z)(z)dz \int_{z_0 + \omega_2 \text{から} z_0 + \omega_1 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz = - \int_{z_0 + \omega_1 + \omega_2 \text{から} z_0 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz\\ \int_{z_0 \text{から} z_0 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz = -\int_{z_0 + \omega_2 \text{から} z_0} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz である。

周期性から「z0からz0+ω1z_0 \text{から} z_0 + \omega_1」において \wp' の取る値と「z0+ω2からz0+ω1+ω2z_0 + \omega_2 \text{から} z_0 + \omega_1 + \omega_2」において \wp' の取る値は一致する。よって z0からz0+ω1(z)(z)dz+z0+ω1+ω2からz0+ω2(z)(z)dz=z0からz0+ω1(z)(z)dzz0+ω2からz0+ω1+ω2(z)(z)dz=0\begin{aligned} &\int_{z_0 \text{から} z_0 + \omega_1} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz + \int_{z_0 + \omega_1 + \omega_2 \text{から} z_0 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz\\ &= \int_{z_0 \text{から} z_0 + \omega_1} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz - \int_{z_0 + \omega_2 \text{から} z_0 + \omega_1 + \omega_2} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz\\ &= 0 \end{aligned} である。残った2項も同様に打ち消し合う。

よって, P(a)(z)(z)dz=0 \oint_{\partial P(a)} \dfrac{\wp''(z)}{\wp' (z)} dz = 0 を得る。

よって N=PN=P である。

\wp' は格子において3位の極を持ち,CC 内に格子は1点のみ存在する。よって零点の個数は3個である。

なお,以上の議論より,一般に(P(a)P(a) 内で)二重周期関数の零点と極の個数は一致することがわかります。

(z)=c\wp (z) = c の解

(z)=(z0)\wp (z) = \wp (z_0) の解

z0z_0 を格子点以外の点とします。(z)=(z0)\wp (z) = \wp (z_0) となる zz を調べてみましょう。

簡単のため,z,z0z , z_0 は単位格子の中として考えます。

(z0)=(z0)(偶関数の性質)=(z0+ω1)(周期性)\begin{aligned} \wp (z_0) &= \wp (-z_0) &(\text{偶関数の性質})\\ &= \wp (- z_0 + \omega_1) &(\text{周期性}) \end{aligned} となります。同様に z0+ω2-z_0 + \omega_2z0+ω1+ω2-z_0 + \omega_1 + \omega_2 も解になります。

このうち同じ単位格子の中にある点は1点のみです。

(z)=(z0)\wp (z) = \wp (z_0) の解はこの他にはありません。

実際 g(z)=(z)(z0)g (z) = \wp (z) - \wp (z_0) とおくと,これは二重周期関数であるため,(格子内の)零点と極の個数は一致します。gg は格子点で2位の極を持つため,零点は高々2個です。こうして示されました。

ペー関数は任意の複素数値を取る

定理

cc を任意の複素数とする。このときある zz があって (z)=c\wp (z) = c である。

実際,f(z)=(z)cf(z) = \wp (z) - c とおき,同様の議論を適用すると零点が存在することがわかります。

ペー関数の微分方程式と楕円曲線

等式

ペー関数には重要な等式があります。

ペー関数の微分方程式

次の等式が成立する。 {(x)}2=4{(z)}3g2(z)g3 \{ \wp' (x) \}^2 = 4 \{\wp (z)\}^3 - g_2 \wp (z) - g_3

ただし g2=60ωΛ\{0}1ω4g3=140ωΛ\{0}1ω6\begin{aligned} g_2 &= 60 \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \dfrac{1}{\omega^4}\\ g_3 &= 140 \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \dfrac{1}{\omega^6} \end{aligned} である。

特に \wp'z=ω12,ω22,ω1+ω22z = \dfrac{\omega_1}{2} , \dfrac{\omega_2}{2} , \dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2} で零点を取るため {(z)}2=4((z)(ω12))((z)(ω22))((z)(ω1+ω22))\begin{aligned} &\{ \wp'(z) \}^2\\ &= 4 \left( \wp (z) - \wp \left( \dfrac{\omega_1}{2} \right) \right) \left( \wp (z) - \wp \left( \dfrac{\omega_2}{2} \right) \right) \left( \wp (z) - \wp \left( \dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2} \right) \right) \end{aligned} となります。

証明はワイエルシュトラスのペー関数~証明編をご覧ください。

格子から得られる楕円曲線

楕円曲線 とは,y2=(x の3次式)y^2 = (x\ \text{の3次式}) と表される曲線でした。

ここで (x,y)=((z),(z))(x,y) = \left( \wp(z) , \wp'(z) \right) おくと,ペー関数の微分方程式から (x,y)(x,y)y2=4x3g2xg3 y^2 = 4 x^3 - g_2 x - g_3 を満たします。

これはペー関数によって楕円曲線をパラメタ表示できることを意味します。

単位格子と楕円曲線

格子 Λ\Lambda に対するペー関数 (z)\wp (z) によって得られる楕円曲線を CΛC_{\Lambda} とおきましょう。

上で述べたパラメタ付けは「良い」パラメタ付けです。特に次の命題が成り立ちます。

Λ\Lambda の単位格子の元 zz と楕円曲線 CΛC_{\Lambda} 上の点 (x,y)(x,y)(x,y)=((z),(z)) (x,y) = (\wp (z),\wp' (z)) という関係式によって,1対1に対応する。(無限遠点も含む)

証明はワイエルシュトラスのペー関数~証明編をご覧ください。

ペー関数を通して「格子 → 楕円曲線」という流れが見つかりました。逆に楕円曲線から格子を復元できるでしょうか。

実は次の命題が成立します。(※ 証明には複素解析と微分形式の知識が必要になるので飛ばします。)

y2=4x3+ax+by^2 = 4x^3 +ax + b4x3+ax+b4x^3 + ax + b は重解を持たないとする)によって定義される楕円曲線 CC に対して,ある格子 Λ\Lambda が存在し,C=CΛC = C_{\Lambda} となる。

こうしてペー関数は楕円曲線と基本格子をつなぐ架け橋となります。

特に基本格子は「トーラス(円環の表面)」とみなすことができ,楕円曲線は(無限遠点を加えると)ドーナツ状になっていることが知られています。興味がある方は,楕円曲線論や複素曲線論を勉強してみてください。

ペー関数にまつわる様々な関数

格子とワイエルシュトラスのペー関数に関連した様々な関数について紹介します。

ツェータ関数

ペー関数は格子点で2位の極を持つのでした。ここでは格子点で1位の極を持つ関数を考えてみましょう。

そのためにペー関数の原始関数を考えます。

ワイエルシュトラスのツェータ関数

ワイエルシュトラスのツェータ関数を次のように定義する。 ζ(z)=1z+ωΛ\{0}(1zω+1ω+zω2) \zeta (z) = \dfrac{1}{z} + \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{ 0 \}} \left( \dfrac{1}{z-\omega} + \dfrac{1}{\omega} + \dfrac{z}{\omega^2} \right)

定義から ζ(z)=(z) \zeta' (z) = - \wp (z) となります。このようにツェータ関数はペー関数を「項別積分」したものとなります。

擬周期性

ζ(z)\zeta (z) に周期性はあるのでしょうか。

ζ(z+ω1)ζ(z)=(z+ω1)(z)=0\zeta (z + \omega_1) - \zeta (z) = \wp' (z+\omega_1) - \wp' (z) = 0 です。

よって,ζ(z+ω1)ζ(z)\zeta (z + \omega_1) - \zeta (z) は定数となります。

ζ(z+ω2)ζ(z)\zeta (z + \omega_2) - \zeta (z) もまた定数となります。

このような関数を擬周期関数といいます。

シグマ関数

次は格子点を零点に持つ関数を考えてみましょう。

ツェータ関数の「積分」を考えます。

ワイエルシュトラスのシグマ関数

ワイエルシュトラスのシグマ関数を次のように定義する。

σ(z)=zωΛ\{0}(1zω)exp(zω+z22ω2) \sigma (z) = z \prod_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \left( 1- \dfrac{z}{\omega} \right) \exp \left( \dfrac{z}{\omega} + \dfrac{z^2}{2\omega^2} \right)

次の関数等式が成り立ちます。

定理

(logσ(z))=σ(z)σ(z)=ζ(z) \left( \log \sigma (z) \right)' = \dfrac{\sigma' (z)}{\sigma (z)} = \zeta (z)

ペー関数にはモジュラー不変量などさらにアドバンスドな話題があります。