ワイエルシュトラスのペー関数
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複素数 は を満たすとする。
格子 に対するワイエルシュトラスのペー関数(楕円関数)を と定める。
この記事ではワイエルシュトラスのペー関数について,いろいろな性質を紹介します。
ワイエルシュトラスのペー関数は数論で登場する重要な関数です。
楕円関数
楕円関数
ワイエルシュトラスのペー関数は,楕円関数の代表例です。ただし,楕円関数の定義は以下のとおりです:
二重周期を持つ有理型関数を楕円関数という。
-
「二重周期」の意味は後述します。
-
有理型関数とは,特異点が離散的で,真性特異点を持たない関数のことです。例えば,多項式の有理式の形の関数 や三角関数の有理式 は有理型です。→偏角の原理とルーシェの定理~方程式の解の個数について
ペー関数は,特異点が の各点のみで,それらはすべて位数が の極なので有理型関数です。
ペー関数の簡単な性質
ペー関数の簡単な性質
微分
ペー関数の導関数を計算しましょう。ペー関数は一様収束します (証明は ワイエルシュトラスのペー関数~証明編 参照)。
よって,項別微分できるので, となります。
ペー関数は偶関数
定義より なので,ペー関数は偶関数 です。
二重周期関数
ペー関数の非常に重要な性質に周期性があります。
格子
複素数 は を満たすとします。
このとき,格子 を と定めます。
格子は下図の黒点です。
また, すなわち,,,, で囲まれた平行四辺形を単位格子と呼びます。
ペー関数の周期性
より は定数です。これを としましょう。
を代入すると です。
ペー関数は偶関数であったため となり です。
同様に, です。
このように2つの周期を持つ関数(比が実数でない2つの複素数 に対して を満たす関数)のことを二重周期関数といいます。
特に有理型の二重周期関数を楕円関数といいます。
ペー関数の極と零点
ペー関数の極と零点
極
定義より,ペー関数の極は の点となります。特に定義式から極の位数は です。
※ 位数について →ローラン展開 を参照。
零点
ペー関数の零点を計算するのは難しいです。しかし, の零点は簡単にわかります。
,,
は奇関数であるため である。一方,周期性より である。2式より である。
も同様。
ちなみに の零点はこれで尽くされます。
単位格子を平行移動した格子を考える:
をうまく取って 上に の零点と極がないようにする。
における の零点の個数を ,極の個数を とする(重複は含める)と,偏角の原理 より, である。
ここで は周期関数である。
さて線積分の性質から である。
周期性から「」において の取る値と「」において の取る値は一致する。よって である。残った2項も同様に打ち消し合う。
よって, を得る。
よって である。
は格子において3位の極を持ち, 内に格子は1点のみ存在する。よって零点の個数は3個である。
なお,以上の議論より,一般に( 内で)二重周期関数の零点と極の個数は一致することがわかります。
の解
の解
を格子点以外の点とします。 となる を調べてみましょう。
簡単のため, は単位格子の中として考えます。
となります。同様に , も解になります。
このうち同じ単位格子の中にある点は1点のみです。
の解はこの他にはありません。
実際 とおくと,これは二重周期関数であるため,(格子内の)零点と極の個数は一致します。 は格子点で2位の極を持つため,零点は高々2個です。こうして示されました。
ペー関数は任意の複素数値を取る
を任意の複素数とする。このときある があって である。
実際, とおき,同様の議論を適用すると零点が存在することがわかります。
ペー関数の微分方程式と楕円曲線
ペー関数の微分方程式と楕円曲線
等式
ペー関数には重要な等式があります。
次の等式が成立する。
ただし である。
特に は で零点を取るため となります。
証明はワイエルシュトラスのペー関数~証明編をご覧ください。
格子から得られる楕円曲線
楕円曲線 とは, と表される曲線でした。
ここで おくと,ペー関数の微分方程式から は を満たします。
これはペー関数によって楕円曲線をパラメタ表示できることを意味します。
単位格子と楕円曲線
格子 に対するペー関数 によって得られる楕円曲線を とおきましょう。
上で述べたパラメタ付けは「良い」パラメタ付けです。特に次の命題が成り立ちます。
の単位格子の元 と楕円曲線 上の点 は という関係式によって,1対1に対応する。(無限遠点も含む)
証明はワイエルシュトラスのペー関数~証明編をご覧ください。
ペー関数を通して「格子 → 楕円曲線」という流れが見つかりました。逆に楕円曲線から格子を復元できるでしょうか。
実は次の命題が成立します。(※ 証明には複素解析と微分形式の知識が必要になるので飛ばします。)
( は重解を持たないとする)によって定義される楕円曲線 に対して,ある格子 が存在し, となる。
こうしてペー関数は楕円曲線と基本格子をつなぐ架け橋となります。
特に基本格子は「トーラス(円環の表面)」とみなすことができ,楕円曲線は(無限遠点を加えると)ドーナツ状になっていることが知られています。興味がある方は,楕円曲線論や複素曲線論を勉強してみてください。
ペー関数にまつわる様々な関数
ペー関数にまつわる様々な関数
格子とワイエルシュトラスのペー関数に関連した様々な関数について紹介します。
ツェータ関数
ペー関数は格子点で2位の極を持つのでした。ここでは格子点で1位の極を持つ関数を考えてみましょう。
そのためにペー関数の原始関数を考えます。
ワイエルシュトラスのツェータ関数を次のように定義する。
定義から となります。このようにツェータ関数はペー関数を「項別積分」したものとなります。
擬周期性
に周期性はあるのでしょうか。
です。
よって, は定数となります。
もまた定数となります。
このような関数を擬周期関数といいます。
シグマ関数
次は格子点を零点に持つ関数を考えてみましょう。
ツェータ関数の「積分」を考えます。
ワイエルシュトラスのシグマ関数を次のように定義する。
次の関数等式が成り立ちます。
ペー関数にはモジュラー不変量などさらにアドバンスドな話題があります。