ワイエルシュトラスのペー関数~証明編

この記事では ワイエルシュトラスのペー関数 の記事内で飛ばした証明を紹介します。

定義

ワイエルシュトラスのペー関数

複素数 ω1,ω2\omega_1 , \omega_2ω1ω2R\dfrac{\omega_1}{\omega_2} \notin \mathbb{R} を満たすものとする。

格子 Λ={nω1+mω2:n,mZ}\Lambda = \{ n \omega_1 + m \omega_2 : n,m \in \mathbb{Z} \} に対するワイエルシュトラスのペー関数(楕円関数)(z)=1z2+ωΛ\{0}(1(zω)21ω2) \wp (z) = \dfrac{1}{z^2} + \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \left( \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right) と定める。

ペー関数が収束すること

定理

ペー関数は広義一様に絶対収束する。

方針は,

  • 絶対収束を示したいので,シグマの中身の絶対値をとった式を上からおさえる。具体的には 1(zω)21ω210Mω3\left| \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right| \leqq \dfrac{10M}{|\omega|^3} という不等式を示す。
  • 上からおさえた式 ωΛ\{0}1ω3\displaystyle \sum_{\omega \in \Lambda\backslash \{0\}} \dfrac{1}{|\omega|^3} が収束することを示す。→するとワイエルシュトラスのM判定法 よりペー関数が収束することがわかる)
証明

不等式パート

定数 M>0M>0 を任意に取る。

z<M|z| < M かつ ω>2M|\omega|>2M ならば, 1(zω)21ω210Mω3\left| \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right| \leqq \dfrac{10M}{|\omega|^3} が成立することを示す。まず, 1(zω)21ω2=2z(1z2ω)ω3(1zω)2 \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} = \dfrac{2z \left( 1 - \dfrac{z}{2\omega} \right)}{\omega^3 \left( 1-\dfrac{z}{\omega} \right)^2}

さらに ω>2M|\omega| > 2M のもとで, z122M12ωzωωzωM12ω\begin{aligned} |z| &\leqq \dfrac{1}{2} \cdot 2M \leqq \dfrac{1}{2} |\omega| \\ |z-\omega| &\geqq |\omega| - |z|\\ &\geqq |\omega| - M\\ &\geqq \dfrac{1}{2} |\omega| \end{aligned} であるため, 1z2ω1+z2ω1+12ωω2=541zω=ωzωω21ω=12\begin{aligned} \left| 1-\dfrac{z}{2\omega} \right| &\leqq 1 + \dfrac{|z|}{2|\omega|}\\ &\leqq 1 + \dfrac{1}{2|\omega|} \dfrac{|\omega|}{2}\\ &= \dfrac{5}{4}\\ \left| 1-\dfrac{z}{\omega} \right| &= \dfrac{|\omega - z|}{|\omega|}\\ &\geqq \dfrac{|\omega|}{2} \dfrac{1}{|\omega|}\\ &= \dfrac{1}{2} \end{aligned} である。こうして 1(zω)21ω2=2zω31z2ω1zω2Mω35421=10Mω3\begin{aligned} \left| \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right| &= \dfrac{2|z|}{|\omega|^3} \dfrac{\left| 1 - \dfrac{z}{2\omega} \right|}{\left| 1-\dfrac{z}{\omega} \right|}\\ &\leqq \dfrac{2 M}{|\omega|^3} \cdot \dfrac{5}{4} \cdot \dfrac{2}{1}\\ &= \dfrac{10M}{|\omega|^3} \end{aligned} を得る。

収束パート

ωΛ\{0}(1(zω)21ω2)\displaystyle\sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \left( \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right)

が収束することを示したい。ω2M|\omega|\leqq 2M の部分の和は有限個なので無視する。ω>2M|\omega|>2M の部分では上の不等式が使える。

よって, ωΛ\{0},ω>2M1ω3\displaystyle\sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{ 0 \},|\omega|>2M} \dfrac{1}{|\omega|^3} が収束することを示せばよい。

ω\omega は格子 {aω1+bω2a,bZ}\{a\omega_1+b\omega_2\mid a,b\in\mathbb{Z}\} 全体を動くが,max{a,b}\max\{|a|,|b|\} でグループ分けして考える。この第 nn グループの ω\omega を集めた集合を PnP_n とおく: Pn={aω1+bω2a,bZ,max(a,b)=n} P_n = \{ a \omega_1 + b \omega_2 \mid a,b\in\mathbb{Z},\max (|a|,|b|) = n \}

max{a,b}=n\max\{|a|,|b|\}=n となるのは(正方形の周上の格子点の数を数えて)8n8n 個である。さらに,r>0r>0 を十分小さく取れば,任意の n,ωPnn,\omega\in P_n に対して ωnr|\omega|\geqq nr となるようにできる。(任意の ωP1\omega\in P_1 に対して ωr|\omega|\geqq r となるような小さい rr を取ればよい)

よって ωΛ\{0}1ω3=n=1ωΛPn1ω3n=18nn3r3=1r3n=11n2<\begin{aligned} \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{ 0 \}} \dfrac{1}{|\omega|^3} &= \sum_{n=1}^{\infty} \sum_{\omega \in \Lambda \cap P_n} \dfrac{1}{|\omega|^3}\\ &\leqq \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{8n}{n^3 r^3}\\ &= \dfrac{1}{r^3} \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} < \infty \end{aligned} であり,収束する。

関数等式の証明

ペー関数の微分方程式

次の等式が成立する。 {(x)}2=4{(z)}3g2(z)g3 \{ \wp' (x) \}^2 = 4 \{\wp (z)\}^3 - g_2 \wp (z) - g_3

ただし g2=60ωΛ\{0}1ω4g3=140ωΛ\{0}1ω6\begin{aligned} g_2 &= 60 \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \dfrac{1}{\omega^4}\\ g_3 &= 140 \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \dfrac{1}{\omega^6} \end{aligned} である。

証明の流れとしては,

  1. 1z2\wp - \dfrac{1}{z^2} のテイラー展開を考える。
  2. k(z)={(x)}24{(z)}3+20λ(z)+28μk (z) = \{ \wp' (x) \}^2 - 4 \{\wp (z)\}^3 + 20 \lambda \wp (z) + 28 \mu とおく。
  3. k(z)k(z) が有界な整関数であることを示す。

を示すことで,リュウビルの定理 から従います。

証明
  • ステップ1

F(z)=(z)1z2=ωΛ\{0}(1(zω)21ω2)\begin{aligned} F(z) &= \wp (z) - \dfrac{1}{z^2}\\ &= \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \left( \dfrac{1}{(z-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right) \end{aligned} とおく。FFC\Λ\mathbb{C} \backslash \Lambda で正則である。

F(0)=ωΛ\{0}(1(ω)21ω2)=0 F (0) = \sum_{\omega \in \Lambda \backslash \{0\}} \left( \dfrac{1}{(-\omega)^2} - \dfrac{1}{\omega^2} \right) = 0 であるため,FF は特に z=0z=0 近傍で正則である。よって z=0z=0 でテイラー展開ができる。

また F(z)=(z)1(z)2=(z)1z2=F(z)\begin{aligned} F(-z) &= \wp (-z) - \dfrac{1}{(-z)^2}\\ &= \wp (z) - \dfrac{1}{z^2}\\ &= F (z) \end{aligned} であるため,FF は偶関数である

よって F(z)=λz2+μz4+h(z)z6 F(z) = \lambda z^2 + \mu z^4 + h(z) z^6 とテイラー展開される。

こうして (z)=1z2+λz2+μz4+h(z)z6 \wp (z) = \dfrac{1}{z^2} + \lambda z^2 + \mu z^4 + h(z) z^6 と表される。

(z)=2z3+2λz+4μz3+6h(z)z5+h(z)z6 \wp' (z) = -\dfrac{2}{z^3} + 2 \lambda z + 4 \mu z^3 + 6 h(z) z^5 + h'(z) z^6 となる。

  • ステップ2

k(z)={(x)}24{(z)}3+20λ(z)+28μk(z) = \{ \wp' (x) \}^2 - 4 \{\wp (z)\}^3 + 20 \lambda \wp (z) + 28 \mu とおく。kkC\{0}\mathbb{C} \backslash \{ 0 \} で正則である。

k(z)=(4z68z216μ+zh1(z))4(1z6+3λz2+3μ+z2h2(z))+20λ(1z2+z2h3(z))+28μ=z(h1(z)4zh2(z)+20λzh3(z))\begin{aligned} k(z) &= \left( \dfrac{4}{z^6} - \dfrac{8}{z^2} - 16 \mu + z h_1 (z) \right)\\ &\quad\quad - 4 \left( \dfrac{1}{z^6} + \dfrac{3\lambda}{z^2} + 3\mu + z^2 h_2 (z) \right)\\ &\quad\quad + 20 \lambda \left( \dfrac{1}{z^2} + z^2 h_3 (z) \right ) + 28 \mu\\ &= z ( h_1 (z) - 4 z h_2 (z) + 20 \lambda z h_3 (z) ) \end{aligned} (ただし,hi(z)h_i (z)zz の多項式を表す)より k(0)=0k(0) = 0 となる。

よって k(z)k(z)z=0z=0 近傍で正則である。

  • ステップ3

また \wp\wp' の周期性より,kk の二重周期関数である。よって kk は各格子点近傍でも正則となる。

こうして kk は複素平面全体で正則な関数,すなわち整関数である。

\wp\wp'zω1,ω2,ω1+ω2z \neq \omega_1 , \omega_2 , \omega_1 + \omega_2 で有界値に収束するため,k(z)k(z) もまたそうである。

kk の周期性より,格子上で k=0k = 0 である。

以上より リュウビルの定理 から k(z)k(z) は有界値を取る整関数である。

k(0)=0k(0) = 0 より k(z)0k(z) \equiv 0 となり,等式が従う。

基本格子と楕円曲線の全単射性

Λ\Lambda の単位格子の元 zz と楕円曲線 CΛC_{\Lambda} 上の点 (x,y)(x,y)(x,y)=((z),(z)) (x,y) = (\wp (z),\wp' (z)) という関係式によって,1対1に対応する。(無限遠点も含む)

1対1対応については,写像・単射・全射 を復習してください。

証明

単位格子の外の点も平行移動によって単位格子内の点として扱って考える。これはペー関数の周期性より問題ない。(より高度な表現をすると,C/Λ\mathbb{C} / \LambdaCΛC_{\Lambda} が1対1対応することを示す。)

単射性

((z),(z))=((w),(w))(\wp (z),\wp' (z)) = (\wp (w), \wp' (w)) とする。

前述した通り,(z)=(w)\wp (z) = \wp (w) の解は z=w,w+Λz = w, -w + \Lambda となる。(Λ\Lambdaω1\omega_1ω2\omega_2ω1+ω2\omega_1 + \omega_2 のいずれかを表すことにする。)

ここで \wp' の周期性と奇関数性から (w)=(z)=(w+Λ)=(w)=(w)\begin{aligned} \wp' (w) &=\wp' (z)\\ &= \wp' (-w+\Lambda)\\ &= \wp' (-w)\\ &= - \wp' (w) \end{aligned} である。

これを満たすのは w=ω12,ω22,ω1+ω22w = \dfrac{\omega_1}{2} , \dfrac{\omega_2}{2} , \dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2} のときのみで,どのときも z=wz = w となる。

全射性

zz を格子点とすると,((z),(z))(\wp (z),\wp' (z)) は無限遠点 \infty に対応する。

無限遠点ではない点 (z1,z2)CΛ(z_1 , z_2) \in C_{\Lambda} を任意に取る。

(z)\wp (z) は任意の複素数値を持つため,ある z0z_0 があって (z0)=z1\wp (z_0) = z_1 である。

このとき (z0)=z2\wp' (z_0) = z_2 である。

楕円関数論は複素解析の復習に役立ちます。