第6問
p,q>0 とする。xyz 空間において立体 D1,D2,D3 を次のように定義する。
- D1:中心 (p,0,0),半径 q である xy 平面内の円盤を y 軸中心に1回転させてできるドーナツ状の立体。
- D2:中心 (0,p,0),半径 q である yz 平面内の円盤を z 軸中心に1回転させてできるドーナツ状の立体。
- D3:中心 (0,0,p),半径 q である zx 平面内の円盤を x 軸中心に1回転させてできるドーナツ状の立体。
D1∪D2∪D3 の体積を V(p,q) とおく。
(1) p≧q のとき,D1 の表面積と体積をそれぞれ p,q を用いて表せ。
(2)
p→∞lim(q→∞limpaqbV(p,q))
が0でない実数値に収束するような実数 a,b を求め,そのときの極限値を求めよ。
(3)
q→∞lim(p→∞limpcqdV(p,q))
が0でない実数値に収束するような実数 c,d を求め,そのときの極限値を求めよ。
(4) D1∩D2∩D3=∅ であるための必要十分条件を p,q を用いて表せ。
空間図形の問題です。立体の表面積,体積計算についての知識と,図形の動きをイメージする能力が求められます。
観察
まずは図を描いてみましょう。D1 は次のような立体です。
また y 軸を含む平面での断面は以下のようになるので,
D1 を表す不等式は
D1:(x2+z2−p)2+y2≤q2
となることがわかります。
(1)
(1) は単純な表面積,体積の計算です。(→回転体の体積を求める公式)
第6問(1)
D1 は不等式(x−p)2+y2≤r2で表される領域を y 軸について回転させた図形である。
p≥q だから,領域の境界は図のように x=p±q2−y2 という曲線であり,dydx=±r2−y2yである。
よって D1 の表面積 S は
S=∫−qq2π(p+q2−y2)1+q2−y2y2dy+∫−qq2π(p−q2−y2)1+q2−y2y2dy=2π∫−qq2pq2−y2q2dy=4πpq∫−qqq2−y2dy=4πpq∫−π/2π/2qcosθqcosθdθ=4π2pq
である。ただし途中でy=qsinθとして置換積分した。
また体積Vは
V=∫−qqπ(p+q2−y2)2dy−∫−qqπ(p−q2−y2)2dy=π∫−qq4pq2−y2dy=4πp⋅21πq2=2π2pq2
である。ただし途中で ∫−qqq2−y2dy が半径 q の半円の面積であることを使った。
またバウムクーヘン積分やパップスギュルダンの定理を使っても計算できます。
(2)
q→∞,p→∞ の順に極限をとったときに D1∪D2∪D3 の体積 V(p,q) がどのように振る舞うかを考える問題です。そこでp を固定してq→∞ としたときに各 D1,D2,D3 がどのような立体になるか考えてみます。
D1 は図のような図形を回転させたリンゴ形の立体になり,ほとんど半径 q の球のようになってしまうことがわかります。D2,D3 も同様のリンゴ形になります。
さて,求めたいのは D1∪D2∪D3 の体積 V(p,q) ですが,3つのリンゴ形の和集合の体積を求めるのはなかなか難しそうです。しかしこの問題で問われているのは V(p,q) の式そのものではなく極限での振る舞いですから,はさみうちの原理を使ってリンゴ形の体積を評価すれば十分です。
第6問(2)
q>p のとき,原点中心で半径が q−p,q+p の球をそれぞれ B(q−p),B(q+p)
とおくと,上の図より
B(q−p)⊂D1⊂B(q+p)が成り立つ。同様に
B(q−p)⊂D2⊂B(q+p)
B(q−p)⊂D3⊂B(q+p)も成り立つから,これらより
B(q−p)⊂D1∪D2∪D3⊂B(q+p)となるから,体積を考えると
34π(q−p)3≤V(p,q)≤34π(q+p)3が成り立つ。(下につづく。)
よって p を固定して q→∞ としたときに V(q,p) は q3 のオーダーで増加することになります。これを踏まえるとp→∞lim(q→∞limpaqbV(p,q))
が0でない実数値に収束するためには b=3 が必要です。
第6問(2) 続き
上の不等式よりq→∞limpaqbV(p,q)が 0 でない値に収束するためには b=3 が必要で,そのときはさみうちの原理より
q→∞limpaq3V(p,q)=3pa4πである。さらにこれが limp→∞ で 0 でない値に収束するためには a=0 が必要である。以上より a=0,b=3 で求める極限値はp→∞lim(q→∞limp0q3V(p,q))=34πである。
(3)
(2) と極限をとる順番が逆になっているので,q を固定して p→∞ としたときに D1 がどのような図形になるか考えてみます。これはつまり
「ドーナツの太さをそのままに大きくしていく」
ということなので,D1 は「非常に細いひもでできた円周」のようになることがわかります。これがわかれば,D1∪D2∪D3 の体積の計算について,次のようなアイデアが思い浮かびます。
考察
q を固定して p→∞ としたとき,D1∪D2∪D3 の体積において D1∩D2 などの「ドーナツどうしの交わり」の部分の寄与は非常に小さい。
この「ドーナツどうしの交わり」の部分の寄与が実際にどれくらいの大きさなのかを不等式で評価してやれば,D1∪D2∪D3 の体積は
(ドーナツ3個分の体積)+ (「ドーナツどうしの交わり」による誤差)のように計算できることになります。
第6問(3)
q を固定して p を大きくしたとき,D1 と D2 の交わり D1∩D2 は2つの部分に分かれるが,どちらも「半径 q の円柱2つが直角に交わるときにできる図形」に近づいていく。その体積は1辺 2q の立方体の体積以下だから,8q3 以下である。よってD1∩D2 の体積は pが十分大きいとき定数Cにより Cq3 以下になる。他のドーナツの交わりも同様だから,p が q に 比べて十分大きいとき(定数Cをとりなおして)∣V(p,q)−6π2pq2∣≤Cq3
が成り立つ。(ドーナツ 1個の体積は (1) より 2π2pq2 であることに注意。)
よって6π2pq2−Cq3≤V(p,q)≤6π2pq2+Cq3だから,
p→∞limpcqdV(p,q)が 0 でない値に収束するためには c=1 が必要で,そのとき不等式より p→∞limp1qdV(p,q)=6π2q2−dとなる。つまり求める c,d は c=1,d=2 で,そのときp→∞limp1q2V(p,q)=6π2 となる。
(4)
D1∩D2∩D3=∅ であるための必要十分条件を問う問題です。直感的には p を大きく,q を小さくすれば良さそうですが,厳密に必要十分条件を求めるには図形的考察と数式を使った考察の両方を駆使することになります。
第6問(4)
まずDiたちは
D1:(x2+z2−p)2+y2≤q2
D2:(y2+x2−p)2+z2≤q2
D3:(z2+y2−p)2+z2≤q2と表せる。よってD1∩D2∩D3は連立不等式
(x2+z2−p)2+y2(y2+x2−p)2+z2(z2+y2−p)2+x2≤q2≤q2≤q2で表される領域である。
p>3q が必要十分であることを示す。
D1∩D2∩D3=∅ ならば D1∩D2∩D3 と直線 x=y=z の交わりも ∅ である。よって連立不等式に x=y=z を代入した(x2+x2−p)2+x2≤q2が実数解を持たないことが必要。変形すると3x2−22p∣x∣+p2−q2≤03(∣x∣−32p)2+31p2−q2≤0となる。32p>0 に注意すると,これが実数解を持たないための条件は31p2−q2>0つまり p>3q となる。よって p>3q が必要である。
p>3q のとき D1∩D2∩D3=∅ であることを示す。D1∩D2∩D3 が空集合かどうかは図形を拡大縮小しても変わらない,つまり p と q の比 p/q のみによって決まるから,p=1 としてよい。
背理法で示す。p=1>3q つまり p=1,q<31 のときに連立不等式(x2+z2−1)2+y2(y2+x2−1)2+z2(z2+y2−1)2+z2≤q2≤q2≤q2が実数解(x,y,z)を持ったと仮定する。これらを全て足して展開すると3(x2+y2+z2)−2(x2+z2+y2+x2+z2+y2)+3≤3q2となる。q<31と合わせると3(x2+y2+z2)−2(x2+z2+y2+x2+z2+y2)+3<1が成り立つ。ここで A=x2+z2,B=y2+x2,C=z2+y2 とおくと2x2+2y2+2z2=A2+B2+C2だから不等式は23(A2+B2+C2)−2(A+B+C)+2<0と書ける。ここでコーシーシュワルツの不等式より(A+B+C)2≤3(A2+B2+C2)だから,この2つの不等式を合わせると21(A+B+C)2−2(A+B+C)+2<0が成り立つ。しかし左辺は21(A+B+C−2)2≥0だから矛盾する。よって背理法により p>3q のとき D1∩D2∩D3=∅ である。