リッカチの微分方程式・ベルヌーイの微分方程式

リッカチの微分方程式

dxdt=f(t)x2+g(t)x+h(t) \dfrac{dx}{dt} = f(t) x^2+ g(t) x +h(t)

という形の微分方程式をリッカチ(Riccati)の微分方程式と言う。ただし f(t),g(t),h(t)f(t),g(t),h(t) は与えられた tt の関数である。

非線形な微分方程式のなかでも特に重要なものです。

  1. リッカチの微分方程式を解くために必要なベルヌーイの微分方程式の解法
  2. それを用いたリッカチの微分方程式の解法

という順で説明します。

前提

ベルヌーイの微分方程式

リッカチの微分方程式はベルヌーイ(Bernoulli) の微分方程式に帰着することで解けます。

ベルヌーイの微分方程式とは

dxdt=f(t)x+g(t)xs \dfrac{dx}{dt} = f(t)x + g(t) x^s

という形の微分方程式です。ここで ss は実数とします。

ベルヌーイの微分方程式の解法

s=0,1s=0,1 のとき,通常の1階線形微分方程式である。そこで s0,1s \neq 0,1 の場合を考える。

まず y=x1sy = x^{1-s} と置換する。このとき dydt=(1s)xsdxdt\dfrac{dy}{dt} = (1-s) x^{-s} \dfrac{dx}{dt} であるので,与式は

xs1sdydt=f(t)x+g(t)xs11sdydt=f(t)x1s+g(t)=f(t)y+g(t)\begin{aligned} \dfrac{x^s}{1-s} \dfrac{dy}{dt} &= f(t) x +g(t) x^s\\ \dfrac{1}{1-s} \dfrac{dy}{dt} &= f(t) x^{1-s} +g(t)\\ &= f(t) y + g(t) \end{aligned}

と変形できる。これは1階線形微分方程式であるため,一般解を求めることができる。

例:フォン・ベルタランフィのモデル

フォン・ベルタランフィ(von Bertalanffy)は魚の成長に関するモデルを考えました。その中でも体重変化のモデルはベルヌーイの微分方程式で表されます。

例題:魚の体重変化

魚の体重を xx とするとき,xx は次の微分方程式を満たす。

dxdt=ax23bx \dfrac{dx}{dt} = a x^{\frac{2}{3}} - bx

ただし,a,ba,b は定数である。初期値 x(0)=0x(0) =0 のもとで,微分方程式の解を求めよ。

y=x13y = x^{\frac{1}{3}} とおく。このとき dydt=13x23dxdt\dfrac{dy}{dt} = \dfrac{1}{3} x^{-\frac{2}{3}} \dfrac{dx}{dt} である。よって,与式は

3x23dydt=ax23bx3dydt=abx13=aby\begin{aligned} 3x^{\frac{2}{3}}\dfrac{dy}{dt} &= ax^{\frac{2}{3}} -bx\\ 3 \dfrac{dy}{dt} &= a - bx^{\frac{1}{3}}\\ &= a-by \end{aligned}

これは1階線形微分方程式,特に変数分離型である。これを解くと,

3a11baydydt=13ady1bay=dt3aablog1bay=t+C1bay=Deb3t\begin{aligned} \dfrac{3}{a} \dfrac{1}{1-\frac{b}{a} y} \dfrac{dy}{dt} &= 1\\ \int \dfrac{3}{a} \dfrac{dy}{1-\frac{b}{a} y} &= \int dt\\ \dfrac{3}{a} \dfrac{a}{b} \log \left| 1 - \dfrac{b}{a} y \right| &= t + C\\ 1-\dfrac{b}{a} y &= De^{-\frac{b}{3} t} \end{aligned}

が得られる。なお C,DC,D は定数である。初期条件から y(0)=0y(0) = 0 であり,これを代入することで D=1D=1 とわかる。こうしてy=ab(1eb3t)y = \dfrac{a}{b} \left(1-e^{-\frac{b}{3}t}\right) が得られる。x=y3x = y^3 であったため,解として x=(ab)3(1eb3t)3x = \left( \dfrac{a}{b} \right)^3 \left(1-e^{-\frac{b}{3}t}\right)^3 が得られる。

実際に,例えば a=3,b=2a=3,b=2 の場合にグラフを描くと次のようになります。

pic1

リッカチの微分方程式

さて本題です。実はリッカチの微分方程式は,基本的に1つ特殊解が得られている状況でないと一般解を求められません。逆に,特殊解さえ分かっていれば一般解を求められます。

それでは解法です。

リッカチの微分方程式の解法

元の方程式の特殊解を x=u(t)x = u(t) とおく。与式に代入することで

dudt=f(t)u2+g(t)u+h(t) \dfrac{du}{dt} = f(t) u^2 +g(t) u +h(t)

が得られる。

ここで z=xu(t)z = x - u(t) とおく。このとき元の微分方程式は

dudt+dzdt=f(t)(u2+2uz+z2)+g(t)(u+z)+h(t) \dfrac{du}{dt} + \dfrac{dz}{dt} = f(t) (u^2+2uz+z^2) + g(t) (u+z) +h(t)

と書ける。これら2つの式の辺々の差を取ることで

dzdt=(2f(t)u(t)+g(t))z+f(t)z2 \dfrac{dz}{dt} = (2f(t)u(t) + g(t))z + f(t) z^2

が得られる。これはベルヌーイの微分方程式(の s=2s=2 の場合)であるため,一般解を求めることができる。

実際にさきほどの方法で解いてみる。w=z1sw=z^{1-s},つまり w=z1w = z^{-1} とおくと,dwdt=1z2dzdt\dfrac{dw}{dt} = -\dfrac{1}{z^2} \dfrac{dz}{dt} である。よって zz に関する微分方程式は

z2dwdt=(2f(t)u(t)+g(t))z+f(t)z2dwdt=(2f(t)u(t)+g(t))wf(t)\begin{aligned} -z^2 \dfrac{dw}{dt} &= (2f(t)u(t) + g(t))z + f(t) z^2\\ \dfrac{dw}{dt} &= -(2f(t)u(t) + g(t))w - f(t) \end{aligned}

という ww の線形微分方程式に帰着される。定数変化法により,定数 CC を用いて

w=Cp(t)+q(t) w = C p(t) + q(t)

ただし

p(t)=exp(2f(t)u(t)+g(t)  dt)q(t)=p(t)f(t)p(t)dt\begin{aligned} p(t) &= \exp \left(- \int 2f(t)u(t) + g(t) \; dt \right)\\ q(t) &= -p(t) \int \dfrac{f(t)}{p(t)} dt \end{aligned}

である。wwxx に戻すことで

x(t)=u(t)+1w=u(t)+1Cp(t)+q(t) x(t) = u(t) + \dfrac{1}{w} = u(t) + \dfrac{1}{Cp(t)+q(t)}

が得られる。

例:化学平衡

化学反応における濃度変化を解析するには微分方程式が有用です。リッカチの微分方程式が適用できる場合もあります。実際に例題を解いてみましょう。

例題:二酸化窒素の化学平衡

2NO2N2O4 2\mathrm{NO}_2 \rightleftharpoons \mathrm{N}_2 \mathrm{O}_4

という化学反応を考える。二酸化窒素と四酸化二窒素の濃度について,x=[NO2],y=[N2O4]x = [\mathrm{NO}_2] , y = [\mathrm{N}_2\mathrm{O}_4] とおくとき,x,yx,y は次の連立微分方程式を満たす。

{dxdt=2(ax2by)dydt=ax2by\begin{cases} \dfrac{dx}{dt} = -2 \left( ax^2-by \right)\\ \dfrac{dy}{dt} =ax^2-by \end{cases}

なお a,ba,b はそれぞれ化学反応の速度に関する定数である。また質量保存の法則より定数 cc を用いて x+2y=cx+2y=c という関係式が成り立つ。

これらより xx について

dxdt=2ax2bx+bc \dfrac{dx}{dt} = -2ax^2 - bx +bc

という微分方程式が得られる。xx の一般解を求めよ。

2次方程式 2at2bt+bc=0 -2at^2 - bt +bc =0 の解は t=b±b2+8abc4at = \dfrac{-b \pm \sqrt{b^2+8abc}}{4a} である。これら2解をu,vu,v (u>vu>v) とする。今 x=ux = u とすると,これは求めたい微分方程式の特殊解となる。

z=xuz = x -u とすると,zz の満たす微分方程式は

dzdt=dxdt=2a(u+z)2b(u+z)+bc=2az24auzbz+(2au2bu+bc)=2az2Dz\begin{aligned} \dfrac{dz}{dt} &= \dfrac{dx}{dt}\\ &= -2a (u+z)^2 -b(u+z) +bc \\ &= -2az^2 -4auz -bz + (-2au^2 - bu + bc)\\ &= -2az^2 - Dz \end{aligned}

となる。なお 4au+b=b+b2+8abc+b=b2+8abc4au+ b = -b+\sqrt{b^2+8abc} +b = \sqrt{b^2 + 8abc} であり,簡単のため b2+8abc=D\sqrt{b^2+8abc} = Dとおいた。w=z1w = z^{-1} とおくことにより zz の微分方程式を ww の微分方程式に書きかえると,

z2dwdt=2az2Dzdwdt=2a+Dz1=2a+Dw\begin{aligned} -z^2 \dfrac{dw}{dt} &= -2az^2 - Dz\\ \dfrac{dw}{dt} &= 2a +Dz^{-1}\\ &=2a +Dw \end{aligned}

という微分方程式が得られる。これを解くと w=CeDt2aDw = C e^{D t} - \dfrac{2a}{D} が得られる。

変数を戻すと,

x=z+u=1w+u=eDtC2aDeDt+u=(12aDu)eDt+CuC2aDeDt\begin{aligned} x &= z+ u \\ &= \dfrac{1}{w} + u\\ &= \dfrac{e^{-Dt}}{C - \frac{2a}{D} e^{-Dt}} + u\\ &= \dfrac{\left(1 - \frac{2a}{D}u \right)e^{-Dt} +Cu}{C - \frac{2a}{D} e^{-Dt}} \end{aligned}

である。さらに

12aDu=12ab2+8abcb+b2+8abc4a=1b+b2+8abc2b2+8abc=bb2+8abc2b2+8abc=2aDv\begin{aligned} 1 - \dfrac{2a}{D}u &= 1-\dfrac{2a}{\sqrt{b^2+8abc}} \dfrac{-b+\sqrt{b^2+8abc}}{4a}\\ &=1-\dfrac{-b+\sqrt{b^2+8abc}}{2\sqrt{b^2+8abc}}\\ &=-\dfrac{-b-\sqrt{b^2+8abc}}{2\sqrt{b^2+8abc}}\\ &=-\dfrac{2a}{D} v \end{aligned}

となるため,一般解は

x=(12aDu)eDt+CuC2aDeDt=2aDveDt+CuC2aDeDt=veDt+D2aCuD2aCeDt=CuveDtCeDt\begin{aligned} x &= \dfrac{\left(1 - \frac{2a}{D}u \right)e^{-Dt} +Cu}{C - \frac{2a}{D} e^{-Dt}}\\ &= \dfrac{-\frac{2a}{D} ve^{-Dt} +Cu}{C - \frac{2a}{D} e^{-Dt}}\\ &= \dfrac{-ve^{-Dt} +\frac{D}{2a} Cu}{\frac{D}{2a} C - e^{-Dt}}\\ &=\dfrac{C' u - ve^{-Dt}}{C' -e^{-Dt}} \end{aligned}

となる。なお CC' は定数である。

細かい計算が大変だったかもしれません。しかし,複雑な計算の結果,化学反応の過程における二酸化窒素の濃度を完全に求められました!

実際にグラフを描くと次のようになります。

pic1

(a=1,b=1,c=4,C=52)\left(a=1,b=1,c=4,C'=\dfrac{5}{2}\right)

余談

リッカチの微分方程式は,リッカチ方程式やリッカチ形と表記されることもあります。本によっては「リッカティ」などの表記をする場合もあります。しかし,リカッチの微分方程式では決してありません! 綴りはRiccatiです!

身近な現象を微分方程式で表現し,実際に計算してみると楽しいです。