コーシーリーマンの関係式と微分可能性・正則関数
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複素関数の微分可能性について,そもそも微分可能の意味とは? からはじめて,微分できない例・コーシーリーマンの関係式などを説明します。
目標は,以下の定理の理解です。
( は実数)とする。次の2条件は同値である。
-
が複素関数の意味で微分可能(正則関数)
-
が(2変数実関数の意味で)全微分可能であり,コーシーリーマンの関係式を満たす。
(ただし, は実数)
問題設定
問題設定
は複素数上で定義され,複素数の値を持つ関数です。
の実部と虚部をそれぞれ とします。つまり,複素数 を入力したときの出力を と書きます( は実数)。
以下では複素関数の微分可能性について考えます。
微分可能性
微分可能性
1変数実関数の微分可能性
実関数 が で微分可能とは,
が存在するという意味です。
1次近似の形で表現すると,ある実数 が存在して
と表せる,という意味です。
※スモールオー の意味はオーダー記法(ランダウの記号)の定義と大雑把な意味の記事末で紹介しています。
2変数実関数の全微分可能性
2変数実関数 が で全微分可能とは,ある実数 が存在して
と表せる,という意味です。
1変数複素関数の微分可能性
同様に,複素関数 が で微分可能とは,
が存在するという意味です( が へどのように近づいても同じ極限値が存在しないといけない)。
1次近似の形で表現すると,ある複素数 が存在して
となる,という意味です。
とすると,この関数は複素微分不可能である。実際, とおくと,
となる。 を考える際に,例えば
- と固定して とすると上式は
- と固定して とすると上式は
となり一定でないので微分不可能。
ちなみに,対象とする領域内すべての点で複素微分可能な関数を 正則関数 といいます,複素解析において非常に重要な概念です。
コーシーリーマンの関係式と具体例
コーシーリーマンの関係式と具体例
冒頭の定理で登場したコーシーリーマンの関係式について説明します。
,
それぞれについてコーシーリーマンの関係式が成立しているかどうか確認せよ。
より, である。
偏微分を計算すると,, となっている。ゆえにコーシーリーマンの関係式を満たす。
より, である。
偏微分を計算すると である。よってコーシーリーマンの関係式を満たさない。
上記の例題からも は微分可能ではないことがわかります。
冒頭の定理の証明
必要性と十分性を同時に示します。
が において複素関数の意味で微分可能
ある複素数 が存在して
ここで, として上式を変形すると,
となる。
これを実部と虚部にわけると,
よって,
上の条件が成立
が2変数の実関数の意味で微分可能( が1次近似できる),かつ においてコーシーリーマンの関係式( と の1次近似式の間の関係式)が成立
である。
ウィルティンガーの微分
ウィルティンガーの微分
複素数 において, です。この式を踏まえ,複素関数 の変数を として考える代わりに で考えてみます。
この考えに基づいてウィルティンガーの微分が以下で定義されます:
導出
を変数として考える の全微分は と表されます。
を変数と考える の全微分は でした。
が成立しますから,代入し計算すると が得られます。 の係数に注目することで求めるべき式が得られます。
ウィルティンガーの微分とコーシーリーマンの式
コーシーリーマンの関係式が成立する関数 について,ウィルティンガーの微分を計算してみましょう。
となり,コーシーリーマンの関係式を用いると になることがわかります。
こうしてコーシーリーマンの関係式が成り立つこととウィルティンガーの微分 が になることは同値であることがわかります。
実際に例題の関数 で確かめてみましょう。 は を変数として持たないため です。一方で であるため です。
複素関数の記事も少しずつ書いていきたいですね。
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