二変数関数のテイラー展開の意味と具体例

二変数関数 f(x,y)f(x,y)CnC^{n} 級なら,多くの場合, f(a+h,b+k)t=0n1t!(hx+ky)tf(a,b) f(a+h,b+k)\fallingdotseq\displaystyle\sum_{t=0}^n\dfrac{1}{t!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^tf(a,b) と表される。

多変数関数のテイラー展開の意味と具体例を解説します。三変数以上でもほぼ同様なので二変数関数の場合で説明します。

テイラー展開でやりたいこと

式はゴツイですが,やりたいことは一変数関数の場合と同じく単純です。 関数を多項式で近似したい,あわよくば無限項の多項式(ベキ級数展開)で表現したいという話です。

その際,特定の点での関数の情報(関数値,微分係数,二階微分係数,\cdots )から近似多項式が求まります。

二変数関数 f(x,y)=ex+2yf(x,y)=e^{x+2y}(x,y)=(0,0)(x,y)=(0,0) で二次までテイラー展開すると,

f(h,k)1+h+2k+h22+2hk+2k2 f(h,k)\fallingdotseq 1+h+2k+\dfrac{h^2}{2}+2hk+2k^2

(計算の詳細は後述)

ex+2ye^{x+2y} という複雑な関数が二変数の二次関数で近似できたので嬉しいというわけです。

テイラー展開の右辺の意味

さて, f(a+h,b+k)t=0n1t!(hx+ky)tf(a,b) f(a+h,b+k)\fallingdotseq\displaystyle\sum_{t=0}^n\dfrac{1}{t!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^tf(a,b) という式の意味を説明します。

  • 二変数関数 f(x,y)f(x,y) を,特定の点 (a,b)(a,b) での関数の情報(関数値,偏微分係数)を使って二変数の nn 次多項式で近似しています。

  • \fallingdotseq の意味は後述します。

  • tt 次の項は 1t!(hx+ky)tf(a,b)\dfrac{1}{t!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^tf(a,b) と表されます。微分演算子と二項定理を用いたコンパクトな表現です。以下の具体例を見れば意味がつかめるでしょう。

二次の項:

12!(hx+ky)2f(a,b)=12!{h2fxx(a,b)+2hkfxy(a,b)+k2fyy(a,b)}\begin{aligned} &\dfrac{1}{2!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^2f(a,b)\\ &=\dfrac{1}{2!}\{h^2f_{xx}(a,b)+2hkf_{xy}(a,b)+k^2f_{yy}(a,b)\} \end{aligned}

三次の項:

13!(hx+ky)3f(a,b)=13!{h3fxxx(a,b)+3h2kfxxy(a,b)+3hk2fxyy+k3fyyy(a,b)}\begin{aligned} &\dfrac{1}{3!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^3f(a,b)\\ &=\dfrac{1}{3!}\{h^3f_{xxx}(a,b)+3h^2kf_{xxy}(a,b)\\ &\qquad \qquad \quad +3hk^2f_{xyy}+k^3f_{yyy}(a,b)\} \end{aligned}

ffCn+1C^{n+1} 級であるという仮定から xx による偏微分と yy による偏微分の順番は交換できることに注意して下さい。→偏微分の順序交換の十分条件とその証明

具体的な計算例

f(x,y)=ex+2yf(x,y)=e^{x+2y}(x,y)=(0,0)(x,y)=(0,0) で二次までテイラー展開してみます(さきほどの例)。 f(h,k)t=021t!(hx+ky)tf(0,0) f(h,k)\fallingdotseq\displaystyle\sum_{t=0}^2\dfrac{1}{t!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^tf(0,0)

00 次項

f(0,0)=1f(0,0)=1 より 11

・一次項

fx(x,y)=ex+2yfx(0,0)=1 f_x(x,y)=e^{x+2y} \rightarrow f_x(0,0)=1

fy(x,y)=2ex+2yfy(0,0)=2 f_y(x,y)=2e^{x+2y} \rightarrow f_y(0,0)=2

より 11!(h+2k)=h+2k \dfrac{1}{1!}(h+2k)=h+2k

・二次項

fxx(x,y)=ex+2yfxx(0,0)=1 f_{xx} (x,y)=e^{x+2y} \rightarrow f_{xx} (0,0)=1

fxy(x,y)=2ex+2yfxy(0,0)=2 f_{xy}(x,y)=2e^{x+2y} \rightarrow f_{xy}(0,0)=2

fyy(x,y)=4ex+2yfyy(0,0)=4 f_{yy}(x,y)=4e^{x+2y} \rightarrow f_{yy}(0,0)=4

より 12!(h2+22hk+4k2)=h22+2hk+2k2 \dfrac{1}{2!}(h^2+2\cdot 2hk+4\cdot k^2)=\dfrac{h^2}{2}+2hk+2k^2

注:一変数関数 eXe^XX=0X=0 で二次まで展開すると 1+X+X221+X+\dfrac{X^2}{2} になります。これに X=h+2kX=h+2k を代入しても上記の展開式が得られます。

テイラーの定理

\fallingdotseq を使わずに,テイラー展開の根拠となる定理をきちんと書くと以下のようになります。

テイラーの定理(2変数)

二変数関数 f(x,y)f(x,y)CnC^{n} 級なら, f(a+h,b+k)=t=0n1t!(hx+ky)tf(a,b)+Rn+1\begin{aligned} &f(a+h,b+k)\\ &=\sum_{t=0}^n\dfrac{1}{t!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^tf(a,b)+R_{n+1} \end{aligned} ただし, Rn+1=1(n+1)!(hx+ky)n+1f(a+θh,b+θk) R_{n+1}=\dfrac{1}{(n+1)!}\left(h\dfrac{\partial}{\partial x}+k\dfrac{\partial}{\partial y}\right)^{n+1}f(a+\theta h,b+\theta k)

を満たす θ\theta0<θ<10< \theta < 1 の間に存在する。

一変数の場合のテイラーの定理を使うことで導出できます。1変数の場合と同様に,剰余項 RnR_n が小さいなら,途中で打ち切ったものが良い近似になるというわけです。

補足

  • a=b=0a=b=0 の場合はマクローリン展開と呼ばれます。
  • 三変数以上の場合「二項定理」の部分を「多項定理」にしたような形で成立します。

解析学であっても厳密過ぎず分かりやすい記事を書いていきたいです。