因数定理の意味と因数分解への応用・重解バージョンの証明
因数定理は高校数学で習うとても重要な定理です。
因数定理について,基礎からわかりやすく解説します。後半では応用(重解バージョン)についても解説します。
因数定理の意味と例
因数定理の意味と例
多項式 について, なら, は を因数に持つ。
因数定理の例を見てみましょう。
に対して, を代入すると,
である。
よって,因数定理より は を因数に持つ。
実際,因数分解してみると
となり確かに が現れている。
応用:因数分解と方程式
応用:因数分解と方程式
因数定理は,三次以上の多項式を因数分解したり,三次以上の方程式を解くときに役立ちます。
を因数分解せよ。
とおく。 を計算してみると
なので因数定理より因数 を持つ。実際 でくくると,
さらに を因数分解すると,
- 補足1:なぜ を計算したのか? となる をどうやって探すか?
実は, となる当たりの は「定数項の約数」になります。この場合, の約数 が候補です。
より正確には, が候補です。当たりの の見つけ方の詳細は,方程式の有理数解を参照して下さい。 - 補足2:割り算をどうやってやるのか?
いくつか方法があります。例えば, を因数に持つので, とおけて,係数を比較して と計算できます。組立除法を使ってもよいです。
三次方程式 を解け。
方程式は因数分解できれば解けます。
を頑張って因数分解しよう。
より
は
を因数に持つ。実際割り算を行うと,
となる。さらに を因数分解すると,
を得る。
よって,求める解は
高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~ のT165では,さらなる応用問題と,そのような問題で計算ミスを減らすコツを紹介しています。
因数定理の証明
因数定理の証明
割り算の等式をきちんと書ければ,因数定理の証明は簡単です。
多項式 を で割ったときの商を ,余りを とおくと,
両辺に を代入して,
よって, が を因数に持つ必要十分条件は 。つまり, である。
※因数定理は,剰余の定理の特殊ケース(余りが0の場合)です。→剰余の定理:やさしい例題・証明・むずかしい応用問題まで
因数定理の重解バージョン
因数定理の重解バージョン
ここからは発展的な話題です。因数定理の 重解バージョンです。
を 次多項式, を 以下の正の整数とする。このとき,
多項式 が で割り切れる
- は の 階微分を表します。
- の場合が普通の因数定理です。
とすると, である。 なので は を因数に持つ。
実際に因数分解すると
重解バージョンの証明
因数定理の重解バージョンの証明を3通り紹介します。
まずは高校数学の範囲で,帰納法で証明します。数学3で習う積の微分公式を使います。
は簡単。実際, が で割り切れるなら,ある多項式 を用いて と書けるが,積の微分公式で右辺を微分すると がわかる。
は帰納法で証明する。 の場合,普通の因数定理はさきほど証明したので成立。
の場合に正しいと仮定して, の場合を考える。
なら,帰納法の仮定より,ある多項式 を用いて
と書ける。さらに のとき(積の微分公式で を計算すると) がわかる。つまり, の因数定理より は を因数に持つので,結局 は で割り切れる。
次は,割り算の式を使う方法です。
を で割った商を ,余りを とおく。 は 次以下の多項式なので,適切に係数 を定めることで と書ける(→注1)。
よって,
両辺を で 回微分して を代入すると(→注2),
したがって,
が
で割り切れる
-
注1: 次多項式は と表すのが一般的だが,この各項を以下のように変形することで の形で表示することもできる。
-
注2: の部分は積の微分公式を使うことにより となることが分かる。後ろの部分は の微分が であることを使うと,ほとんどの項( の項以外)が になることが分かる。
最後に,テイラーの定理を使った証明も紹介します。テイラーの定理とテイラー展開~例と証明
が 次多項式のとき,テイラーの定理より( でテイラー展開する),
( 次導関数は となることに注意)
よって, を で割った余りは である。
したがって,
が で割り切れる
重解バージョンの証明を細部まできちんと理解するのはけっこう大変です!
久しぶりに「高校数学+アルファ」な記事が書けました。