因数定理の意味と因数分解への応用・重解バージョンの証明

因数定理は高校数学で習うとても重要な定理です。

因数定理について,基礎からわかりやすく解説します。後半では応用(重解バージョン)についても解説します。

因数定理の意味と例

因数定理

多項式 f(x)f(x) について,f(a)=0f(a)=0 なら,f(x)f(x)(xa)(x-a) を因数に持つ。 pic01

因数定理の例を見てみましょう。

因数定理の例

f(x)=x25x+6f(x)=x^2-5x+6 に対して,x=2x=2 を代入すると,

f(2)=225×2+6=0f(2)=2^2-5\times 2+6=0 である。

よって,因数定理より f(x)f(x)(x2)(x-2) を因数に持つ。

実際,因数分解してみると
x25x+6=(x2)(x3)x^2-5x+6=(x-2)(x-3)
となり確かに (x2)(x-2) が現れている。

応用:因数分解と方程式

因数定理は,三次以上の多項式を因数分解したり,三次以上の方程式を解くときに役立ちます。

例題1(因数分解)

x3x24x+4x^3-x^2-4x+4 を因数分解せよ。

解答

f(x)=x3x24x+4f(x)=x^3-x^2-4x+4 とおく。f(1)f(1) を計算してみると
f(1)=114+4=0f(1)=1-1-4+4=0 なので因数定理より因数 (x1)(x-1) を持つ。実際 (x1)(x-1) でくくると,
f(x)=(x1)(x24)f(x)=(x-1)(x^2-4)
さらに x24x^2-4 を因数分解すると,

f(x)=(x2)(x1)(x+2)f(x)=(x-2)(x-1)(x+2)

  • 補足1:なぜ f(1)f(1) を計算したのか?f(a)=0f(a)=0 となる aa をどうやって探すか?
    実は,f(a)=0f(a)=0 となる当たりの aa は「定数項の約数」になります。この場合,44 の約数 ±1,±2,±4\pm 1,\pm 2,\pm 4 が候補です。
    より正確には,定数項の約数最高次の約数\dfrac{定数項の約数}{最高次の約数} が候補です。当たりの aa の見つけ方の詳細は,方程式の有理数解を参照して下さい。
  • 補足2:割り算をどうやってやるのか?
    いくつか方法があります。例えば,(x1)(x-1) を因数に持つので, x3x24x+4=(x1)(ax2+bx+c)x^3-x^2-4x+4=(x-1)(ax^2+bx+c) とおけて,係数を比較して a=1,c=4,b=0a=1,c=-4,b=0 と計算できます。組立除法を使ってもよいです。
例題2(方程式)

三次方程式 x36x2+11x6=0x^3-6x^2+11x-6=0 を解け。

方程式は因数分解できれば解けます。

解答

f(x)=x36x2+11x6f(x)=x^3-6x^2+11x-6 を頑張って因数分解しよう。

f(1)=16+116=0f(1)=1-6+11-6=0
より f(x)f(x)(x1)(x-1) を因数に持つ。実際割り算を行うと,f(x)=(x1)(x25x+6)f(x)=(x-1)(x^2-5x+6) となる。さらに x25x+6x^2-5x+6 を因数分解すると,f(x)=(x1)(x2)(x3)f(x)=(x-1)(x-2)(x-3) を得る。

よって,求める解は x=1,2,3x=1,2,3

高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~ のT165では,さらなる応用問題と,そのような問題で計算ミスを減らすコツを紹介しています。

因数定理の証明

割り算の等式をきちんと書ければ,因数定理の証明は簡単です。

因数定理の証明

多項式 f(x)f(x)(xa)(x-a) で割ったときの商を Q(x)Q(x),余りを RR とおくと,

f(x)=(xa)Q(x)+Rf(x)=(x-a)Q(x)+R

両辺に x=ax=a を代入して,f(a)=Rf(a)=R

よって,f(x)f(x)(xa)(x-a) を因数に持つ必要十分条件は R=0R=0 。つまり,f(a)=0f(a)=0 である。

※因数定理は,剰余の定理の特殊ケース(余りが0の場合)です。→剰余の定理:やさしい例題・証明・むずかしい応用問題まで

因数定理の重解バージョン

ここからは発展的な話題です。因数定理の kk 重解バージョンです。

因数定理(重解バージョン)

f(x)f(x)nn 次多項式,kknn 以下の正の整数とする。このとき,

多項式 f(x)f(x)(xa)k(x-a)^k で割り切れる     f(a)=f(a)==f(k1)(a)=0\iff f(a)=f'(a)=\cdots =f^{(k-1)}(a)=0

  • f(t)(x)f^{(t)}(x)f(x)f(x)tt 階微分を表します。
  • k=1k=1 の場合が普通の因数定理です。

f(x)=x32x2+xf(x)=x^3-2x^2+x とすると,f(x)=3x24x+1f'(x)=3x^2-4x+1 である。 f(1)=f(1)=0f(1)=f'(1)=0 なので f(x)f(x)(x1)2(x-1)^2 を因数に持つ。

実際に因数分解すると f(x)=x(x1)2f(x)=x(x-1)^2

重解バージョンの証明

因数定理の重解バージョンの証明を3通り紹介します。

まずは高校数学の範囲で,帰納法で証明します。数学3で習う積の微分公式を使います。

証明1

\Rightarrow は簡単。実際,f(x)f(x)(xa)k(x-a)^k で割り切れるなら,ある多項式 P(x)P(x) を用いて f(x)=(xa)kP(x)f(x)=(x-a)^kP(x) と書けるが,積の微分公式で右辺を微分すると f(a)=f(a)==f(k1)(a)=0f(a)=f'(a)=\cdots =f^{(k-1)}(a)=0 がわかる。

\Leftarrow は帰納法で証明する。k=1k=1 の場合,普通の因数定理はさきほど証明したので成立。

kk の場合に正しいと仮定して,k+1k+1 の場合を考える。 f(a)=f(a)==f(k1)(a)=0f(a)=f'(a)=\cdots =f^{(k-1)}(a)=0 なら,帰納法の仮定より,ある多項式 P(x)P(x) を用いて
f(x)=(xa)kP(x)f(x)=(x-a)^kP(x)
と書ける。さらに fk(a)=0f^{k}(a)=0 のとき(積の微分公式で f(k)(x)f^{(k)}(x) を計算すると) k!P(a)=0k!P(a)=0 がわかる。つまり,k=1k=1 の因数定理より P(x)P(x)(xa)(x-a) を因数に持つので,結局 f(x)f(x)(xa)k+1(x-a)^{k+1} で割り切れる。

次は,割り算の式を使う方法です。

証明2

f(x)f(x)(xa)k(x-a)^k で割った商を Q(x)Q(x),余りを R(x)R(x) とおく。 R(x)R(x)k1k-1 次以下の多項式なので,適切に係数 cic_i を定めることで R(x)=i=0k1ci(xa)iR(x)=\displaystyle\sum_{i=0}^{k-1}c_i(x-a)^i と書ける(→注1)。

よって,f(x)=(xa)kQ(x)+i=0k1ci(xa)if(x)=(x-a)^kQ(x)+\displaystyle\sum_{i=0}^{k-1}c_i(x-a)^i

両辺を xxt(0tk1)t\:(0\leq t\leq k-1) 回微分して x=ax=a を代入すると(→注2),f(t)(a)=t!ctf^{(t)}(a)=t!c_t

したがって,

f(x)f(x)(xa)k(x-a)^k で割り切れる
    c0=c1==ck1=0\iff c_0=c_1=\cdots =c_{k-1}=0
    f(a)=f(a)==f(k1)(a)=0\iff f(a)=f'(a)=\cdots =f^{(k-1)}(a)=0

  • 注1: k1k-1 次多項式は i=0k1bixi\displaystyle\sum_{i=0}^{k-1}b_ix^i と表すのが一般的だが,この各項を以下のように変形することで R(x)=i=0k1ci(xa)iR(x)=\displaystyle\sum_{i=0}^{k-1}c_i(x-a)^i の形で表示することもできる。
    bixi=bi(xa+a)i=bit=0iiCtait(xa)tb_ix^i=b_i(x-a+a)^i=b_i\displaystyle\sum_{t=0}^i{}_i\mathrm{C}_ta^{i-t}(x-a)^t

  • 注2: (xa)kQ(x)(x-a)^kQ(x) の部分は積の微分公式を使うことにより 00 となることが分かる。後ろの部分は (xa)i(x-a)^i の微分が i(xa)i1i(x-a)^{i-1} であることを使うと,ほとんどの項(i=ti=t の項以外)が 00 になることが分かる。

最後に,テイラーの定理を使った証明も紹介します。テイラーの定理とテイラー展開~例と証明

証明3

f(x)f(x)nn 次多項式のとき,テイラーの定理より(x=ax=a でテイラー展開する),

f(x)=t=0nf(t)(a)t!(xa)tf(x)=\displaystyle\sum_{t=0}^{n}\dfrac{f^{(t)}(a)}{t!}(x-a)^{t}

n+1n+1 次導関数は 00 となることに注意)

よって,f(x)f(x)(xa)k(x-a)^k で割った余りは R(x)=t=0k1f(t)(a)t!(xa)tR(x)=\displaystyle\sum_{t=0}^{k-1}\dfrac{f^{(t)}(a)}{t!}(x-a)^{t} である。

したがって,

f(x)f(x)(xa)k(x-a)^k で割り切れる

    R(x)=0\iff R(x)=0

    f(a)=f(a)==f(k1)(a)=0\iff f(a)=f'(a)=\cdots =f^{(k-1)}(a)=0

重解バージョンの証明を細部まできちんと理解するのはけっこう大変です!

久しぶりに「高校数学+アルファ」な記事が書けました。

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