ミンコフスキーの不等式とその証明

ミンコフスキー(Minkowski)の不等式

1p1\leq p\leq\infty のとき, x+ypxp+yp\|x+y\|_p\leq\|x\|_p+\|y\|_p となる。

三角不等式の一般化であるミンコフスキーの不等式について詳しく解説します。

ミンコフスキーの不等式の意味

ミンコフスキーの不等式における x,yx,y はスカラーに限らず, nn 次元ベクトル」または「連続関数」です。以下では nn 次元ベクトルの場合について説明します。連続関数(LpL_p 空間)の場合はシグマをインテグラルに変えるだけで同じ議論ができます。

x=(x1,x2,x3,,xn)x=(x_1,x_2,x_3,\cdots,x_n) と表します。

xp=(k=1nxkp)1p\|x\|_p=\left(\displaystyle\sum_{k=1}^n|x_k|^p\right)^{\frac{1}{p}}xx の大きさを表す指標で,pp ノルムと呼ばれます。 p=2p=2 の場合はいつも用いるベクトルの長さに一致します(ユークリッドノルム)。

以上を踏まえた上でミンコフスキーの不等式の例です:

n=2,p=2n=2,p=2 の場合

(x1+y1)2+(x2+y2)2x12+x22+y12+y22 \sqrt{(x_1+y_1)^2+(x_2+y_2)^2}\leq\sqrt{x_1^2+x_2^2}+\sqrt{y_1^2+y_2^2}

これは平面における三角不等式そのものです。両辺を二乗してコーシーシュワルツの不等式を用いると証明できます。

ミンコフスキーの不等式の証明の流れ

ミンコフスキーの不等式の証明の流れです:

  • ステップ1:ヤングの不等式の証明
  • ステップ2:(狭義の)ヘルダーの不等式の証明
  • ステップ3:ミンコフスキーの不等式の証明

この流れは非常に有名で,一気に3つの有名不等式が証明できます。

ステップ1に関してはヤングの不等式の3通りの証明を参照してください。

以下では,ヤングの不等式 app+bqqab\dfrac{a^p}{p}+\dfrac{b^q}{q}\geq ab (a,b>0,p,q>1,1p+1q=1)(a,b > 0,p,q > 1, \dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}=1) を用いてステップ2,3に進んでいきます。

ステップ2:ヘルダーの不等式の証明

ヘルダーの不等式

p,q>1,1p+1q=1p,q > 1, \dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}=1 のとき,

k=1nxkykxpyq \sum_{k=1}^n|x_ky_k|\leq\|x\|_p\|y\|_q

である。

注:ヘルダーの不等式には代数でよく用いられる別の表現もあります。→ヘルダーの不等式のエレガントな証明と頻出形

証明

xi,yix_i,y_i についての斉次式なので xp=yq=1\|x\|_p=\|y\|_q=1 の場合についてのみ証明すればよい(例えば xxaa 倍すると pp ノルムも aa 倍され,右辺と左辺の比は変わらない)。

ヤングの不等式に a=xi,b=yia=|x_i|,b=|y_i| を代入すると, xiyixipp+yiqq|x_iy_i|\leq\dfrac{|x_i|^p}{p}+\dfrac{|y_i|^q}{q} となる。

これを i=1i=1 から nn まで足し合わせると,

k=1nxkykxppp+yqqq=1pp+1qq=1=xpyq\begin{aligned} \sum_{k=1}^n|x_ky_k| &\leq\dfrac{\|x\|_p^p}{p}+\dfrac{\|y\|_q^q}{q}\\ &=\dfrac{1^p}{p}+\dfrac{1^q}{q}\\ &=1=\|x\|_p\|y\|_q \end{aligned}

となりヘルダーの不等式を得る。

関数解析におけるヘルダーの不等式の応用は,Lp空間と様々な関数不等式~関数におけるヘルダーの不等式も参照してください。

ステップ3:ミンコフスキーの不等式の証明

最後は,思いつくのは難しいテクニカルな証明です。左辺の pp 乗を評価していきます。

証明

x+ypp=k=1nxk+ykpk=1nxkxk+ykp1+k=1nykxk+ykp1\begin{aligned} \|x+y\|_p^p &= \sum_{k=1}^n|x_k+y_k|^p\\ &\leq \sum_{k=1}^n|x_k||x_k+y_k|^{p-1}+\sum_{k=1}^n|y_k||x_k+y_k|^{p-1} \end{aligned}

ここで,右辺第一項はヘルダーの不等式より,上から

xpx+yp1q() \|x\|_p\||x+y|^{p-1}\|_q \quad\cdots (\ast)

で抑えられる。(ただし,q=pp1q=\dfrac{p}{p-1} とする)

()(\ast) を変形すると,

xp(k=1nxk+ykp)p1p=xpx+ypp1\begin{aligned} \|x\|_p \left( \sum_{k=1}^n|x_k+y_k|^{p} \right)^{\frac{p-1}{p}} =\|x\|_p\|x+y\|_p^{p-1} \end{aligned}

第二項も同様に評価できるので結局,

x+yppxpx+ypp1+ypx+ypp1 \|x+y\|_p^p\leq \|x\|_p\|x+y\|_p^{p-1}+\|y\|_p\|x+y\|_p^{p-1}

この両辺を x+ypp1\|x+y\|_p^{p-1} で割るとミンコフスキーの不等式を得る。

x+ypp1=0\|x+y\|_p^{p-1}=0 のときは左辺 =0=0 となり自明に成立)

ミンコフスキーの不等式の証明は簡単そうに見えてわりと大変でした。p=2p=2 の場合の証明くらいは入試で出題されるかもしれませんが,一般の場合はおそらく入試には出ないでしょう。