無限降下法の整数問題への応用例
このページでは,無限降下法について解説します。
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無限降下法とは何か?
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無限降下法の簡単な応用例: が無理数であることの証明
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無限降下法の難しい応用例:フェルマーの最終定理の
無限降下法とは
無限降下法とは
無限降下法とは,背理法の一種で,自然数に関する命題を証明する方法です。
具体的には,以下のような証明方法です。
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○○を満たす自然数 があると仮定すると,より小さい で○○を満たすものが構成できる。
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これを繰り返すと, → → → … のようにいくらでも小さい を構成できるが,自然数には最小値があるので矛盾。よって,○○を満たす自然数は存在しない。
これだけではわかりにくいので,無限降下法の具体例を説明します。
無限降下法を用いて無理数であることを証明
無限降下法を用いて無理数であることを証明
無限降下法を用いた証明の例として, が無理数であることを証明します。
が有理数であると仮定すると,自然数 を用いて
とおける。
となるので は の倍数であることが分かり とおける。
すると, となり, も の倍数であることが分かり とおける。
もとの方程式に代入すると となる。
よって,自然数 が方程式 を満たすなら もそれぞれ自然数で同じ方程式を満たす。
この議論を繰り返すと,
のように, を満たすいくらでも小さい を構成することができる。ところが,自然数には最小値があるので矛盾。よって,背理法により は無理数である。
同様にして が素数なら が無理数であることが証明できます。
なお,この問題は通常の背理法を用いて簡単に証明できるので,無限降下法を使う嬉しさはありません(あくまで,無限降下法の練習と言うことで…)。
無限降下法のポイント
無限降下法のポイント
無限降下法のポイントは,
「○○を満たす自然数 があると仮定すると,より小さい で○○を満たすものが構成できる」
という主張を示すことです。
この主張が証明できれば,あとの流れはただの定型文です。定型文の言い方は2種類ありますが,どちらでも構いません。
定型文の言い方1(先ほど紹介したもの):
これを繰り返すと, のようにいくらでも小さい を構成できるが,自然数には最小値があるので矛盾。よって,○○を満たす自然数は存在しない。
定型文の言い方2:
○○を満たす最小の自然数を とすると,上記の主張よりそれより小さい が構成できて, が最小であることに矛盾。よって,○○を満たす自然数は存在しない。
フェルマーの最終定理の の場合の証明
フェルマーの最終定理の の場合の証明
無限降下法を用いた証明の例をもう1つ紹介します。
フェルマーの最終定理の の場合,つまり を満たす自然数 が存在しないことを示します。 を満たす自然数が存在しないことを言えば十分です。
今回は,先ほどの「定型文の言い方2」を使ってみます。
を満たす自然数 が存在すると仮定する。そのような の組で が最小のものについて考える。すると, の最大公約数は となる(最大公約数が なら両辺を で割ることでより の小さい解を作れる)
は最大公約数が1であるピタゴラス数なので,ピタゴラス数の求め方とその証明で紹介した定理を使うと,互いに素な自然数 を用いて以下のように表せる:
よって,1つ目の式から となるので, もピタゴラス数となる。そして, の最大公約数は となる(理由:最大公約数が なら がすべて の倍数になってしまい, の最大公約数が であることに矛盾)
よって,さきほどと同様に,自然数 を用いて以下のように表せる:
以上の方程式から,
はどの2つをとっても互いに素(※)なので,それぞれ平方数となる:
これらと(1)の第3式を合わせて,
となりもとの方程式の新しい解を得られたが, より,これは の最小性に矛盾。
※例えば の最大公約数が だと も の倍数となり, が全て の倍数となる。
無限降下法は数学的帰納法の一種ともみなせます。他のパターンについては数学的帰納法のパターンまとめも参考にしてみてください。
整数問題の証明は細部を丁寧にやるのが難しいです。
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