無限降下法の整数問題への応用例

このページでは,無限降下法について解説します。

  • 無限降下法とは何か?

  • 無限降下法の簡単な応用例:3\sqrt{3} が無理数であることの証明

  • 無限降下法の難しい応用例:フェルマーの最終定理の n=4n=4

無限降下法とは

無限降下法とは,背理法の一種で,自然数に関する命題を証明する方法です。

具体的には,以下のような証明方法です。

  1. ○○を満たす自然数 n1n_1 があると仮定すると,より小さい n2n_2 で○○を満たすものが構成できる。

  2. これを繰り返すと, n1n_1n2n_2n3n_3 → … のようにいくらでも小さい nn を構成できるが,自然数には最小値があるので矛盾。よって,○○を満たす自然数は存在しない。

これだけではわかりにくいので,無限降下法の具体例を説明します。

無限降下法を用いて無理数であることを証明

無限降下法を用いた証明の例として,3\sqrt{3} が無理数であることを証明します。

証明

3\sqrt{3} が有理数であると仮定すると,自然数 m1,n1m_1,n_1 を用いて

3=n1m1\sqrt{3}=\dfrac{n_1}{m_1} とおける。

3m12=n123m_1^2=n_1^2 となるので n1n_133 の倍数であることが分かり n1=3n2n_1=3n_2 とおける。

すると,m12=3n22m_1^2=3n_2^2 となり,m1m_133 の倍数であることが分かり m1=3m2m_1=3m_2 とおける。

もとの方程式に代入すると 3m22=n223m_2^2=n_2^2 となる。

よって,自然数 (m1,n1)(m_1,n_1) が方程式 3m2=n23m^2=n^2 を満たすなら (m2,n2)=(m13,n13)(m_2,n_2)=\left(\dfrac{m_1}{3},\dfrac{n_1}{3}\right) もそれぞれ自然数で同じ方程式を満たす。

この議論を繰り返すと,

(m1,n1)(m2,n2)(m3,n3),(m_1,n_1)\to (m_2,n_2)\to (m_3,n_3),\cdots のように,3m2=n23m^2=n^2 を満たすいくらでも小さい (m,n)(m,n) を構成することができる。ところが,自然数には最小値があるので矛盾。よって,背理法により 3\sqrt{3} は無理数である。

同様にして pp が素数なら p\sqrt{p} が無理数であることが証明できます。

なお,この問題は通常の背理法を用いて簡単に証明できるので,無限降下法を使う嬉しさはありません(あくまで,無限降下法の練習と言うことで…)。

無限降下法のポイント

無限降下法のポイントは,

「○○を満たす自然数 n1n_1 があると仮定すると,より小さい n2n_2 で○○を満たすものが構成できる」

という主張を示すことです。

この主張が証明できれば,あとの流れはただの定型文です。定型文の言い方は2種類ありますが,どちらでも構いません。

定型文の言い方1(先ほど紹介したもの):

これを繰り返すと,n1n2n3n_1\to n_2\to n_3\to\cdots のようにいくらでも小さい nn を構成できるが,自然数には最小値があるので矛盾。よって,○○を満たす自然数は存在しない。

定型文の言い方2:

○○を満たす最小の自然数を n1n_1 とすると,上記の主張よりそれより小さい n2n_2 が構成できて,n1n_1 が最小であることに矛盾。よって,○○を満たす自然数は存在しない。

フェルマーの最終定理の n=4n=4 の場合の証明

無限降下法を用いた証明の例をもう1つ紹介します。

フェルマーの最終定理の n=4n=4 の場合,つまり a4+b4=c4a^4+b^4=c^4 を満たす自然数 a,b,ca, b, c が存在しないことを示します。 x4+y4=z2x^4+y^4=z^2 を満たす自然数が存在しないことを言えば十分です。

今回は,先ほどの「定型文の言い方2」を使ってみます。

証明

x4+y4=z2x^4+y^4=z^2 を満たす自然数 (x,y,z)(x, y, z) が存在すると仮定する。そのような (x,y,z)(x,y,z) の組で zz が最小のものについて考える。すると,(x2,y2,z)(x^2,y^2,z) の最大公約数は 11 となる(最大公約数が dd なら両辺を d2d^2 で割ることでより zz の小さい解を作れる)

(x2,y2,z)(x^2,y^2,z) は最大公約数が1であるピタゴラス数なので,ピタゴラス数の求め方とその証明で紹介した定理を使うと,互いに素な自然数 p,qp, q を用いて以下のように表せる:

x2=p2q2,y2=2pq,z=p2+q2x^2=p^2-q^2, y^2=2pq, z=p^2+q^2

よって,1つ目の式から x2+q2=p2x^2+q^2=p^2 となるので,(x,q,p)(x,q,p) もピタゴラス数となる。そして,(x,q,p)(x,q,p) の最大公約数は 11 となる(理由:最大公約数が d2d\geq 2 なら (x2,y2,z)(x^2,y^2,z) がすべて dd の倍数になってしまい,(x2,y2,z)(x^2,y^2,z) の最大公約数が 11 であることに矛盾)

よって,さきほどと同様に,自然数 r,sr, s を用いて以下のように表せる:

x=r2s2,q=2rs,p=r2+s2(1)x=r^2-s^2, q=2rs, p=r^2+s^2\cdots (1)

以上の方程式から,

y2=2pq=4prsy^2=2pq=4prs

p,r,sp,r,s はどの2つをとっても互いに素(※)なので,それぞれ平方数となる:

p=a2,r=b2,s=c2p=a^2,r=b^2,s=c^2

これらと(1)の第3式を合わせて,

a2=b4+c4a^2=b^4+c^4 となりもとの方程式の新しい解を得られたが,app2<za\leq p\leq p^2 <z より,これは zz の最小性に矛盾。

※例えば p,rp, r の最大公約数が dd だと ssdd の倍数となり,x,q,px,q,p が全て dd の倍数となる。

無限降下法は数学的帰納法の一種ともみなせます。他のパターンについては数学的帰納法のパターンまとめも参考にしてみてください。

整数問題の証明は細部を丁寧にやるのが難しいです。

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