位相空間論の基礎~多項式写像を用いた開・閉集合の証明

f(x1,,xn)f (x_1, \cdots , x_n)nn 変数多項式とする。

このとき {x=(x1,,xn)Rnf(x)=0} \{ x = (x_1, \cdots , x_n) \in \mathbb{R}^n \mid f(x) = 0 \} Rn\mathbb{R}^n の閉集合である。

この記事では開集合・閉集合の証明方法として,多項式写像を用いたものを紹介します。

連続写像の復習

定理

f:XYf : X \to Y を連続写像とする。

  • 開部分集合 OYO \subset Y に対して f1(O)f^{-1} (O)XX の開部分集合である。(これを定義として用いられることもある)

  • 閉部分集合 FYF \subset Y に対して f1(F)f^{-1} (F)XX の閉部分集合である。

位相空間論への第一歩~連続関数とは何なのか? いくつかの重要な定義

多項式写像は連続写像です。よって多項式写像の逆像を考えると開集合・閉集合であることを証明できます

簡単な例

多項式写像は連続写像です。また R\mathbb{R}C\mathbb{C})において,1点集合は閉部分集合になります。

よって,多項式写像で1点集合({0}\{ 0 \} などがよい)逆像を取ると閉集合であることが示されます。

C:{(x,y)x2+y2=1}C : \{ (x,y) \mid x^2 + y^2 = 1\}R2\mathbb{R}^2 の閉部分集合である。

証明

f:R2Rf : \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}f(x,y)=x2+y21 f(x,y) = x^2 + y^2 - 1 と定める。この写像は連続写像である。

C=f1({0})C = f^{-1} (\{ 0 \}) である。{0}R\{ 0 \} \subset \mathbb{R} は閉部分集合であるため,CCR2\mathbb{R}^2 の閉部分集合である。

Mn(C)M_n (\mathbb{C})n×nn \times n 複素行列を表す。

一般線型群 GLn(C)={XMn(C)detX0} \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) = \{ X \in M_n (\mathbb{C}) \mid \det X \neq 0 \} Mn(C)Cn2M_n (\mathbb{C}) \simeq \mathbb{C}^{n^2} の開部分集合である。

特殊線型群 SLn(C)={XMn(C)detX=1} \mathrm{SL}_n (\mathbb{C}) = \{ X \in M_n (\mathbb{C}) \mid \det X = 1\} Mn(C)Cn2M_n (\mathbb{C}) \simeq \mathbb{C}^{n^2} の閉部分集合である。

証明

行列式 det\det は,行列 X=(xij)X = (x_{ij}) に対して detX=σSnsgn(σ)i=1nxiσ(i) \det X = \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn} (\sigma) \prod_{i=1}^n x_{i \sigma (i)} と成分の多項式で書くことができる。→ 行列式の基本的な定義・性質・意味

※ 例えば n=2n = 2 だと x11x22x12x21 x_{11} x_{22} - x_{12} x_{21} と書ける。

よって, det:Mn(C)C \det : M_n (\mathbb{C}) \to \mathbb{C} は多項式写像である。

GLn(C)=(det)1({0}c) \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) = (\det)^{-1} (\{ 0 \}^c) である。{0}c\{ 0 \}^c00 の補集合)は開部分集合であるため GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})Mn(C)M_n (\mathbb{C}) の開部分集合である。

SLn(C)=(det)1({1}) \mathrm{SL}_n (\mathbb{C}) = (\det)^{-1} (\{ 1 \}) より SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C})Mn(C)M_n (\mathbb{C}) の閉部分集合である。

応用例

直交群 O(n)={XMn(R)XX=In} O(n) = \{ X \in M_n (\mathbb{R}) \mid X^{\top} X = I_n \} Mn(C)M_n (\mathbb{C}) の閉部分集合である。

ただし,XX^{\top}XX転置行列 である。

証明

f:Mn(R)Mn(R)f : M_n (\mathbb{R}) \to M_n (\mathbb{R})f(X)=XX f(X) = X^{\top} X により定める。XX^{\top} は転置行列であるため,各成分は x11,,xnnx_{11} , \cdots , x_{nn} の多項式で表される。また行列の積も成分の多項式で表されるため,XXX^{\top} X の各成分は x11,,xnnx_{11}, \cdots , x_{nn} の多項式で表される。よって ff は連続写像である。

ここで {In}Mn(R)\{ I_n \} \in M_n (\mathbb{R}) は閉部分集合であるため, O(n)=f1({In}) O(n) = f^{-1} (\{ I_n \}) は閉部分集合である。

複素共役について

C\mathbb{C} において,複素共役を取る操作 zzˉz \mapsto \bar{z} は連続写像です。よって,複素共役を用いて定義される Cn\mathbb{C}^n の部分集合の開・閉判定も同様に行うことができます。

例えば,元の行列 XX に対して,複素共役と転置を行った行列 XX^{\ast}(随伴行列)により定義されるユニタリ群 U(n)={XMn(C)XX=In} U (n) = \{ X \in M_n (\mathbb{C}) \mid X^{\ast} X = I_n \} Mn(C)Cn2M_n (\mathbb{C}) \simeq \mathbb{C}^{n^2} の閉部分集合であることは,直交群と例と同様に証明することができます。

多様体(微分構造が入った図形)の判定にも多項式写像を用いることがあります。