q-二項係数とq-二項定理~東大数学2020年と合わせて

定理

q1q \to 1 で元の概念に一致するようにパラメーター qq を追加した概念を qq-類似という。

この記事では整数の qq-類似とそれにまつわる入試問題を紹介していきます。

qq-整数

定義

自然数 nn に対して qq-整数 [n]q[n]_q を次のように定義する。 [n]q=1qn1q=k=0n1qk [n]_q = \dfrac{1-q^n}{1-q} = \sum_{k=0}^{n-1} q^k

q1q \to 1 で考えると k=0n11k=n \sum_{k=0}^{n-1} 1^k = n となり元の整数に戻りますね。

ちょっとした注意

しばしば [n]q=qnqnqq1 [n]_q = \dfrac{q^n-q^{-n}}{q-q^{-1}} [n]q=qn/2qn/2q1/2q1/2 [n]_q = \dfrac{q^{n/2}-q^{-n/2}}{q^{1/2}-q^{-1/2}} と定義されることもあります。

この表記を用いると qq1q \mapsto q^{-1} という変換で不変になります。

qq-階乗

qq-整数を用いて階乗の qq-類似を定義しましょう。

定義

qq-階乗 [n]q![n]_q! を次のように定義する。 [n]q!=[n]q[n1]q[1]q [n]_q! = [n]_q [n-1]_q \cdots [1]_q

q1q \to 1[n]qn[n]_q \to n だったので,[n]q!n![n]_q! \to n! です。

[3]q![3]_q! を計算する。

[3]q!=[3]q[2]q[1]q=(1+q+q2)(1+q)=1+2q+2q2+q3\begin{aligned} &[3]_q! \\ &= [3]_q [2]_q [1]_q\\ &= (1+q+q^2)(1+q)\\ &= 1+2q+2q^2+q^3 \end{aligned} である。

qq-二項係数

定義

qq-二項係数 (nk)q\binom{n}{k}_q を次のように定義する。 (nk)q=[n]q![k]q![nk]q! \binom{n}{k}_q = \dfrac{[n]_q!}{[k]_q! [n-k]_q!}

(52)q\binom{5}{2}_q を計算する。

(52)q=[5]q![2]q![3]q!=[5]q[4]q[3]q[2]q[1]q[2]q[1]q[3]q[2]q[1]q=[5]q[4]2[2]q[1]q=(1q5)(1q4)(1q2)(1q)=(1+q+q2+q3+q4)(1+q2)=1+q+2q2+2q3+2q4+q5+q6\begin{aligned} &\binom{5}{2}_q\\ &= \dfrac{[5]_q!}{[2]_q![3]_q!}\\ &= \dfrac{[5]_q [4]_q [3]_q [2]_q [1]_q}{[2]_q [1]_q [3]_q [2]_q [1]_q}\\ &= \dfrac{[5]_q[4]_2}{[2]_q[1]_q}\\ &= \dfrac{(1-q^5)(1-q^4)}{(1-q^2)(1-q)}\\ &= (1+q+q^2+q^3+q^4)(1+q^2)\\ &= 1+q+2q^2+2q^3+2q^4+q^5+q^6 \end{aligned} である。

パスカルの三角形の qq-類似

qq-二項係数が式の展開という意味でも qq-類似になっていることを確認してみましょう。

定理

(nk)q=qk(n1k)q+(n1k1)q \binom{n}{k}_q = q^k \binom{n-1}{k}_q + \binom{n-1}{k-1}_q

証明

qk(n1k)q+(n1k1)q=qk[n1]q![k]q![nk1]q!+[n1]q![k1]q![nk]q!=(qk[nk]q+[k]q)[n1]q![k]q![nk]q!=[n]q[n1]q![k]q![nk]q!=(nk)q\begin{aligned} &q^k \binom{n-1}{k}_q + \binom{n-1}{k-1}_q \\ &= q^k \dfrac{[n-1]_q!}{[k]_q![n-k-1]_q!} + \dfrac{[n-1]_q!}{[k-1]_q![n-k]_q!} \\ &= \left(q^k [n-k]_q + [k]_q \right) \dfrac{[n-1]_q!}{[k]_q![n-k]_q!} \\ &= [n]_q \dfrac{[n-1]_q!}{[k]_q![n-k]_q!} \\ &=\binom{n}{k}_q \end{aligned}

qq-二項定理

二項定理の qq-類似

(1x)2(1-x)^2 の類似として (1x)(1qx)(1-x)(1-qx) という式を展開してみます。

(1+x)(1+qx)=1+(1+q)x+qx2=1+[2]qx+qx2=(20)q+(21)qx+(22)qqx2\begin{aligned} &(1+x)(1+qx)\\ &= 1+(1+q)x + q x^2\\ &= 1 + [2]_q x + q x^2\\ &= \binom{2}{0}_q + \binom{2}{1}_q x + \binom{2}{2}_q qx^2 \end{aligned}

次は (1+x)(1+qx)(1+q2x)(1+x)(1+qx)(1+q^2x) を展開してみましょう。 (1+x)(1+qx)(1+q2x)=1+(1+q+q2)x+(q+q2+q3)x2+q3x3=(30)q+(31)qx+(32)qqx2+(33)qq3x3\begin{aligned} &(1+x)(1+qx)(1+q^2x)\\ &= 1+(1+q+q^2) x + (q+q^2+q^3) x^2 + q^3 x^3\\ &= \binom{3}{0}_q + \binom{3}{1}_q x + \binom{3}{2}_q qx^2 + \binom{3}{3}_q q^3 x^3 \end{aligned}

このように qq-二項係数から二項定理の qq-類似が作れます。

主張

定理

(1+x)(1+qx)(1+qn1x)=k=0n(nk)qqk(k1)2xk (1+x)(1+qx)\cdots(1+q^{n-1}x)= \sum_{k=0}^n \binom{n}{k}_q q^{\frac{k(k-1)}{2}}x^k

証明

証明は2つのステップに分けて行います。

証明

f(x)f(x)f(a,x)=n=01qnax1qnx=(1ax)(1qax)(1x)(1qx)\begin{aligned} f(a,x) &= \prod_{n=0}^{\infty} \dfrac{1-q^nax}{1-q^nx}\\ &= \dfrac{(1-ax)(1-qax) \cdots}{(1-x)(1-qx)\cdots} \end{aligned} と定義する。これを f(a,x)=n=0cnxn f(a,x) = \sum_{n=0}^{\infty} c_n x^n と展開する。この cnc_n を計算しよう。

f(0)=1f(0) = 1 より c0=1c_0=1 である。

定義より f(a,x)=1ax1xf(a,qx) f(a,x) = \dfrac{1-ax}{1-x} f(a,qx) つまり (1x)f(a,x)=(1ax)f(a,qx) (1-x) f(a,x) = (1-ax) f(a,qx) が成り立つ。

n1n \geqq 1(1x)f(a,x)=n=0cn(xnxn+1)=n=0(cncn1)xn+1(1ax)f(a,qx)=n=0cn(qnxnaqnxn+1)=n=0(cnqnacn1qn1)xn\begin{aligned} (1-x) f(a,x) &= \sum_{n=0}^{\infty}c_n(x^n-x^{n+1})\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} (c_n-c_{n-1}) x^{n+1} \\ (1-ax) f(a,qx) &= \sum_{n=0}^{\infty} c_n (q^nx^n - aq^nx^{n+1})\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} (c_n q^n - ac_{n-1} q^{n-1})x^n \end{aligned} となる。

係数比較をすることで cn=1qn1a1qncn1==(1a)(1qa)(1qn1a)(1q)(1q2)(1qn)\begin{aligned} c_n &= \dfrac{1-q^{n-1}a}{1-q^n} c_{n-1}\\ &= \cdots \\ &= \dfrac{(1-a)(1-qa) \cdots (1-q^{n-1}a)}{(1-q)(1-q^{2})\cdots (1-q^{n})} \end{aligned} を得る。

a=qna = q^{-n}x=qnxx = - q^nx を代入すると (1+x)(1+qx)(1+qx2)(1+qnx)(1+qn+1x)(1+qn+2)=k=0(1qn)(1qn+1)(1qn+k1)(1q)(1q2)(1qk)(qnx)k=k=0(qn1)(qn11)(qnk+11)(1q)(1q2)(1qk)qn(n1)(nk+1)(1)kqknxk=k=0(1qn)(1qn1)(1qnk+1)(1q)(1q2)(1qk)(1)k×(1)kq1+2++k1xk=k=0(1qn)(1qn1)(1qnk+1)(1q)(1q2)(1qk)q12k(k1)xk\begin{aligned} &\dfrac{(1+x)(1+qx)(1+qx^2) \cdots}{(1+q^nx)(1+q^{n+1}x)(1+q^{n+2}) \cdots}\\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(1-q^{-n})(1-q^{-n+1}) \cdots (1-q^{-n+k-1})}{(1-q)(1-q^2) \cdots (1-q^k)} (-q^n x)^k \\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(q^n-1) (q^{n-1}-1) \cdots (q^{n-k+1}-1)}{(1-q)(1-q^2) \cdots (1-q^k)} q^{-n-(n-1) - \cdots - (n-k+1)} (-1)^k q^{kn} x^k \\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(1-q^n) (1-q^{n-1}) \cdots (1-q^{n-k+1})}{(1-q)(1-q^2) \cdots (1-q^k)} (-1)^k \times (-1)^k q^{1+2+\cdots +k-1} x^k\\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(1-q^n) (1-q^{n-1}) \cdots (1-q^{n-k+1})}{(1-q)(1-q^2) \cdots (1-q^k)} q^{\frac{1}{2} k (k-1)} x^k\\ \end{aligned} である。

左辺を約分すると (1+x)(1+qx)(1+qn1x) (1+x)(1+qx) \cdots (1+q^{n-1} x) である。

右辺を qq-二項係数で書くと k=0(nk)qqk(k1)2xk \sum_{k=0}^{\infty} \binom{n}{k}_q q^{\frac{k(k-1)}{2}}x^k であるため,定理を得る。

組み合わせ論との関係

qq-二項係数は組み合わせ論的に計算することができます。詳しくは 組み合わせ論による q-二項係数の定義 をご覧ください。

東大入試から

ここで東大2020年の入試問題を見てみましょう。→ 東大文系数学2020入試過去問解答解説

東大2020

n,kn,k を,1kn1\leq k \leq n を満たす整数とする。nn 個の整数 2m(m=0,1,2,,n1) 2^m \quad (m = 0,1,2,\cdots,n-1) から異なる kk 個を選んでそれらの積をとる。kk 個の整数の選び方すべてに対しこのように積をとることにより得られる nCk{}_n\mathrm{C}_k 個の整数の和を an,ka_{n,k} とおく。例えば,a4,3=202122+202123+202223+212223=120 a_{4,3} = 2^0 \cdot 2^1 \cdot 2^2 + 2^0 \cdot 2^1 \cdot 2^3 + 2^0 \cdot 2^2 \cdot 2^3 + 2^1 \cdot 2^2 \cdot 2^3 = 120 である。

(1) 22 以上の整数 nn に対し,an,2a_{n,2} を求めよ。

(2) 11 以上の整数 nn に対し,xx についての整式 fn(x)=1+an,1x+an,2x2++an,nxn f_n(x) = 1 + a_{n,1}x + a_{n,2}x^2 + \cdots + a_{n,n}x^n を考える。fn+1(x)fn(x)\dfrac{f_{n+1}(x)}{f_n(x)}fn+1(x)fn(2x)\dfrac{f_{n+1}(x)}{f_n(2x)}xx についての整式として表せ。

(3) an+1,k+1an,k\dfrac{a_{n+1,k+1}}{a_{n,k}}n,kn,k で表せ。

先ほど見た qq-二項定理の形が見えますね。

証明

定義より fn(x)=(1+x)(1+2x)(1+2nx) f_n (x) = (1+x)(1+2x) \cdots (1+2^n x) となる。

(1)

qq-二項定理より an,2=(n2)222(21)2=[n]2![2]2![n2]2!2=[n]2![n1]2![2]2![1]2!=12n12×12n11212212×12112×2=13(22n12n2n1+1)×2=4n32n+13\begin{aligned} a_{n,2} &= \binom{n}{2}_2 2^{\frac{2(2-1)}{2}} \\ &= \dfrac{[n]_2 !}{[2]_2! [n-2]_2!} 2\\ &= \dfrac{[n]_2! [n-1]_2 !}{[2]_2! [1]_2 !}\\ &= \dfrac{\dfrac{1-2^n}{1-2} \times \dfrac{1-2^{n-1}}{1-2}}{\dfrac{1-2^2}{1-2} \times \dfrac{1-2^{1}}{1-2}} \times 2\\ &= \dfrac{1}{3} (2^{2n-1} - 2^n - 2^{n-1} + 1) \times 2\\ &= \dfrac{4^n}{3} - 2^n + \dfrac{1}{3} \end{aligned} である。

(2)

fn+1(x)fn(x)=(1+x)(1+2x)(1+2n+1x)(1+x)(1+2x)(1+2nx)=1+2n+1xfn+1(x)fn(2x)=(1+x)(1+2x)(1+2n+1x)(1+2x)(1+22x)(1+2n+1x)=1+x\begin{aligned} \dfrac{f_{n+1} (x)}{f_n (x)} &= \dfrac{(1+x)(1+2x) \cdots (1+2^{n+1} x)}{(1+x)(1+2x) \cdots (1+2^n x)}\\ &= 1+2^{n+1} x\\ \dfrac{f_{n+1} (x)}{f_n (2x)} &= \dfrac{(1+x)(1+2x) \cdots (1+2^{n+1} x)}{(1+2x)(1+2^2x) \cdots (1+2^{n+1} x)}\\ &= 1+x \end{aligned}

(3)

an+1,k+1an,k=[n+1]2![k+1]2![nk]2!×[k]2![nk]2![n]2!×212k(k+1)212k(k1)=[n+1]2[k+1]2×2k=2n+112k+11×2k\begin{aligned} &\dfrac{a_{n+1,k+1}}{a_{n,k}} \\ &= \dfrac{[n+1]_2 !}{[k+1]_2 ! [n-k]_2 !} \times \dfrac{[k]_2! [n-k]_2!}{[n]_2!}\times \dfrac{2^{\frac{1}{2} k(k+1)}}{2^{\frac{1}{2} k(k-1)}} \\ &= \dfrac{[n+1]_2}{[k+1]_2} \times 2^k\\ &= \dfrac{2^{n+1}-1}{2^{k+1}-1} \times 2^k \end{aligned}

あっという間に解くことができてしまいましたね。

qq-類似は様々な数え上げで用いられます。