シローの定理とその応用
シローの定理(Sylow theorems)の主張とおもしろい応用例をわかりやすく紹介します。有限群論の有名な定理です。
シローの定理(存在定理)
シローの定理(存在定理)
シローの定理は,有限群について,位数が である部分群の存在を保証してくれる定理です。
有限群 について,その位数を とする(ただし は素数で, は の倍数でないとする)。
このとき, の部分群で位数が であるものが存在する。
ただし,群 の位数とは, の元の個数のことです。→群の生成元と元の位数
の部分群で位数が であるもののことを -シロー部分群と呼びます。
位数が の群には,位数が の部分群(-シロー部分群)と位数が の部分群(-シロー部分群)が存在します。
シローの定理(全部)
シローの定理(全部)
シローの定理は,-シロー部分群の存在だけでなく,共役性や個数についても述べています。
有限群 について,その位数を とする(ただし は素数で, は の倍数でないとする)。
このとき,
- の部分群で位数が であるもの(-シロー部分群)が存在する
- のすべての -シロー部分群は共役である(→補足1)
- の -シロー部分群の個数を とおくと, は の倍数
- の任意の -シロー部分群 に対して (→補足2)
-
補足1:つまり, がいずれも の -シロー部分群であるとき,ある が存在して です。
-
補足2: は群 とその部分集合 に対する正規化群です。つまり「(集合として等しい)となる をすべて集めた集合」です。
-
3と4から, が の約数であることがわかります(なぜなら,4から が の約数であることがわかり,3から が の倍数ではないことがわかるからです)。
シローの定理の証明はわりと大変なので省略します。例えば シローの定理【証明&応用】(Takatani Note) を参照ください(以下の応用もこのページを参考にしています)。
シローの定理の応用:位数15の群の部分群
シローの定理の応用:位数15の群の部分群
位数が の群は,巡回群のみである。
巡回群とは,ただ1つの元から生成される群のことです。つまり,ある元を用いて のように表せる群のことです。
「巡回群以外に位数が の群は存在しない」というのはとてもおもしろいです。
証明ではシローの定理の3と4が活躍します。後半まできちんと理解するのはやや大変ですが,群論の良い練習になります。
位数が の群 について考える。
の -シロー部分群と -シロー部分群を とおく。
位数が素数の群は巡回群である(※1)。よって,ある が存在して
と表せる( は の単位元)。
という形の元()はいずれも の要素だがすべて異なる(※2)ので全体で と一致する。つまり, は を生成元とする位数15の巡回群である。
- ※1は有名な性質です。詳細は群の生成元と元の位数の「巡回群に関する定理3」に記載しています。
- ※2は以下で証明します。
と仮定する()。
(※3)より, を3で割った余りを ,5で割った余りを とおくと,
- 両辺3乗すると なので が5の倍数より
- 両辺5乗すると なので が3の倍数より
つまり は15の倍数なので矛盾。
最後に の証明です。
まず, が正規部分群であることを示す。
シローの定理の3より,-シロー部分群の個数を とすると, は の倍数である。また,シローの定理の4より は の約数である。以上2つの条件より である。その唯一の -シロー部分群が であるが,シローの定理の4より である。つまり任意の に対して なので は の正規部分群である。 についても全く同様である。
次に, を示す。
は正規部分群より,
同様に は正規部分群より
最後に, の共通元が のみであることを示す(そうすれば より がわかる)。
と の共通元を とすると,右側の等式の両辺を3乗して より は5の倍数となり共通元は となる。
より一般に,素数 に対して,( が の倍数でなければ)位数 の群は巡回群のみです。15の場合と同様に証明できます。
シローの定理は私の友人の知人が好きな定理です。