シローの定理とその応用

シローの定理(Sylow theorems)の主張とおもしろい応用例をわかりやすく紹介します。有限群論の有名な定理です。

シローの定理(存在定理)

シローの定理は,有限群について,位数が pkp^k である部分群の存在を保証してくれる定理です。

シローの定理(の一部)

有限群 GG について,その位数を G=pkm|G|=p^km とする(ただし pp は素数で,mmpp の倍数でないとする)。

このとき,GG の部分群で位数が pkp^k であるものが存在する。

ただし,群 GG位数とは,GG の元の個数のことです。→群の生成元と元の位数

GG の部分群で位数が pkp^k であるもののことを pp-シロー部分群と呼びます。

位数が 40=23×540=2^3\times 5 の群には,位数が 23=82^3=8 の部分群(22-シロー部分群)と位数が 55 の部分群(55-シロー部分群)が存在します。

シローの定理(全部)

シローの定理は,pp-シロー部分群の存在だけでなく,共役性や個数についても述べています。

シローの定理

有限群 GG について,その位数を G=pkm|G|=p^km とする(ただし pp は素数で,mmpp の倍数でないとする)。

このとき,

  1. GG の部分群で位数が pkp^k であるもの(pp-シロー部分群)が存在する
  2. GG のすべての pp-シロー部分群は共役である(→補足1)
  3. GGpp-シロー部分群の個数を npn_p とおくと,np1n_p-1pp の倍数
  4. GG の任意の pp-シロー部分群 PP に対して np=GNG(P)n_p=\dfrac{|G|}{|N_G(P)|}(→補足2)
  • 補足1:つまり,A,BA,B がいずれも GGpp-シロー部分群であるとき,ある gGg\in G が存在して Ag=gBAg=gB です。

  • 補足2:NG(P)N_G(P) は群 GG とその部分集合 PP に対する正規化群です。つまり「gP=PggP=Pg(集合として等しい)となる gGg\in G をすべて集めた集合」です。

  • 3と4から,npn_pmm の約数であることがわかります(なぜなら,4から npn_pG|G| の約数であることがわかり,3から npn_ppp の倍数ではないことがわかるからです)。

シローの定理の証明はわりと大変なので省略します。例えば シローの定理【証明&応用】(Takatani Note) を参照ください(以下の応用もこのページを参考にしています)。

シローの定理の応用:位数15の群の部分群

定理

位数が 1515 の群は,巡回群のみである。

巡回群とは,ただ1つの元から生成される群のことです。つまり,ある元を用いて {g,g2,...,gk}\{g,g^2,...,g^k\} のように表せる群のことです。

「巡回群以外に位数が 1515 の群は存在しない」というのはとてもおもしろいです。

証明ではシローの定理の3と4が活躍します。後半まできちんと理解するのはやや大変ですが,群論の良い練習になります。

証明

位数が 1515 の群 GG について考える。

GG33-シロー部分群と 55-シロー部分群を P3,P5P_3,P_5 とおく。

位数が素数の群は巡回群である(※1)。よって,ある g1,g2Gg_1,g_2\in G が存在して

P3={g1,g12,g13(=e)}P_3=\{g_1,g_1^2,g_1^3(=e)\}

P5={g2,g22,g23,g24,g25(=e)}P_5=\{g_2,g_2^2,g_2^3,g_2^4,g_2^5(=e)\}

と表せる(eeGG の単位元)。

(g1g2)k(g_1g_2)^k という形の元(k=1,2,3,...,15k=1,2,3,...,15)はいずれも GG の要素だがすべて異なる(※2)ので全体で GG と一致する。つまり,GGg1g2g_1g_2 を生成元とする位数15の巡回群である。

  • ※1は有名な性質です。詳細は群の生成元と元の位数の「巡回群に関する定理3」に記載しています。
  • ※2は以下で証明します。
※2の証明

(g1g2)k1=(g1g2)k2(g_1g_2)^{k_1}=(g_1g_2)^{k_2} と仮定する(1k2<k1151\leqq k_2<k_1\leqq 15)。

(g1g2)k1k2=e(g_1g_2)^{k_1-k_2}=e

g1g2=g2g1g_1g_2=g_2g_1(※3)より,k1k2k_1-k_2 を3で割った余りを r1r_1,5で割った余りを r2r_2 とおくと,

g1r1g2r2=eg_1^{r_1}g_2^{r_2}=e

g1r1=g25r2g_1^{r_1}=g_2^{5-r_2}

  • 両辺3乗すると e=g2153r2e=g_2^{15-3r_2} なので 153r215-3r_2 が5の倍数より r2=0r_2=0
  • 両辺5乗すると g15r1=eg_1^{5r_1}=e なので 5r15r_1 が3の倍数より r1=0r_1=0

つまり k1k2k_1-k_2 は15の倍数なので矛盾。

※3の証明

最後に g1g2=g2g1g_1g_2=g_2g_1 の証明です。

まず,P3,P5P_3,P_5 が正規部分群であることを示す。
シローの定理の3より,33-シロー部分群の個数を n3n_3 とすると, n31n_3-133 の倍数である。また,シローの定理の4より n3n_31515 の約数である。以上2つの条件より n3=1n_3=1 である。その唯一の 33-シロー部分群が P3P_3 であるが,シローの定理の4より NG(P3)=G|N_G(P_3)|=|G| である。つまり任意の gGg\in G に対して gP3=P3ggP_3=P_3g なので P3P_3GG の正規部分群である。P5P_5 についても全く同様である。

次に,g21g1g2g11P3P5g_2^{-1}g_1g_2g_1^{-1}\in P_3\cap P_5 を示す。
P3P_3 は正規部分群より,(g21g1g2)g11P3(g_2^{-1}g_1g_2)g_1^{-1}\in P_3
同様に P5P_5 は正規部分群より g21(g1g2g11)P5g_2^{-1}(g_1g_2g_1^{-1})\in P_5

最後に,P3,P5P_3,P_5 の共通元が ee のみであることを示す(そうすれば g21g1g2g11=eg_2^{-1}g_1g_2g_1^{-1}=e より g1g2=g2g1g_1g_2=g_2g_1 がわかる)。
P3P_3P5P_5 の共通元を g=g1m1=g2m2g'=g_1^{m_1}=g_2^{m_2} とすると,右側の等式の両辺を3乗して e=g23m2e=g_2^{3m_2} より m2m_2 は5の倍数となり共通元は g=g2m2=eg'=g_2^{m_2}=e となる。

より一般に,素数 p,q(p>q)p,q\:(p>q) に対して,(p1p-1qq の倍数でなければ)位数 pqpq の群は巡回群のみです。15の場合と同様に証明できます。

シローの定理は私の友人の知人が好きな定理です。