円周率が無理数であることの証明

更新日時 2023/11/17
定理

円周率 π\pi は無理数である。

この記事では,円周率が無理数であることのおもしろい証明を紹介します。

必要な知識は高校レベルの微積分だけです。トリッキーで難しいですが,ぜひ議論を追ってみてください。

証明

証明

π\pi が有理数であると仮定する。

このとき,互いに素な2整数 a,ba,b を用いて π=ab\pi = \dfrac{a}{b} と表せる。

ここで,正の整数 nn を1つ固定して f(x)=xn(abx)nn!=bnxn(πx)nn!\begin{aligned} f(x) &= \dfrac{x^n (a-bx)^n}{n!}\\ &= \dfrac{b^n x^n (\pi - x)^n}{n!} \end{aligned} とおく。また, F(x)=f(x)f(2)(x)+f(4)(x)+ F (x) = f (x) - f^{(2)} (x) + f^{(4)} (x) + \cdots とおく。ff2n2n 次の多項式であるため,FF は有限和であり最後の項は (1)nf(2n)(x)(-1)^nf^{(2n)}(x) である。

ステップ1. F(0),F(π)F(0),F(\pi) が整数であることを示す。

k=0,2,...,2nk=0,2,...,2n に対して,f(k)(0),f(k)(π)f^{(k)} (0) , f^{(k)} (\pi) が整数であることを示せばよい。二項定理で展開すると,

f(x)=t=0n(1)ntnCtn!atbntx2nt f(x) = \sum_{t=0}^{n} (-1)^{n-t} \dfrac{{}_{n} \mathrm{C}_{t}}{n!} a^t b^{n-t} x^{2n-t} である。

最小の次数は nn であるため,k<nk < n のとき f(k)(0)=0f^{(k)} (0) = 0 である。

knk \geqq n のときを考える。f(x)f(x)kk 次の項は t=2nkt=2n-k の部分,つまり (1)knnC2nkn!a2nkbknxk(-1)^{k-n}\dfrac{{}_{n}\mathrm{C}_{2n-k}}{n!}a^{2n-k}b^{k-n}x^k であるので, f(k)(0)=(1)knk!n!nC2nka2nkbkn f^{(k)} (0) = (-1)^{k-n} \dfrac{k!}{n!} {}_{n} \mathrm{C}_{2n-k} a^{2n-k}b^{k-n} は整数である。よって F(0)F(0) は整数。

また,f(πx)=f(x)f(\pi - x) = f(x) と合成関数の微分公式を用いると f(k)(π)=(1)kf(k)(0)f^{(k)} (\pi) = (-1)^k f^{(k)}(0) となり F(π)F(\pi) も整数。

ステップ2. FF'' の計算

F(x)=f(2)(x)f(4)(x)+f(6)(x)+=f(x)F(x)\begin{aligned} F'' (x) &= f^{(2)} (x) - f^{(4)} (x) + f^{(6)} (x) + \cdots\\ &= f(x) - F(x) \end{aligned}

である。

これより

ddx[F(x)sinxF(x)cosx]=F(x)sinx+F(x)cosxF(x)cosx+F(x)sinx=f(x)sinx\begin{aligned} &\dfrac{d}{dx} \left[ F' (x) \sin x - F(x) \cos x \right]\\ &= F'' (x) \sin x + F' (x) \cos x\\ &\quad\quad - F'(x) \cos x + F(x) \sin x\\ &= f(x) \sin x \end{aligned}

であるため

N=0πf(x)sinx  dx N = \int_0^{\pi} f(x) \sin x \; dx とおくと,

N=0πf(x)sinx  dx=[F(x)sinxF(x)cosx]0π=F(π)+F(0)\begin{aligned} N &= \int_0^{\pi} f(x) \sin x \; dx\\ &= \big[ F' (x) \sin x - F(x) \cos x \big]_0^{\pi}\\ &= F(\pi) + F(0) \end{aligned}

と計算される。F(0),F(π)F(0) , F(\pi) は整数であるため,NN も整数である。

ステップ3. 被積分関数の評価

二次関数を平方完成すると,

x(πx)=(xπ2)2+(π2)2(π2)2x (\pi - x) = - \left( x - \dfrac{\pi}{2} \right)^2 + \left( \dfrac{\pi}{2} \right)^2\leqq\left(\dfrac{\pi}{2}\right)^2 であるため,被積分関数について

f(x)sinx=bnn!xn(πx)nsinxbnn!(π2)2n\begin{aligned} &f(x) \sin x \\ &=\dfrac{b^n}{n!}x^n(\pi-x)^n\sin x\\ &\leqq \dfrac{b^n}{n!} \left( \dfrac{\pi}{2} \right)^{2n} \end{aligned}

が成立する。また,0<x<π0< x< \pi において f(x)sinx>0f(x) \sin x > 0 である。

よって,階乗は指数関数より強い(limnAnn!=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{A^n}{n!}=0 )ので nn を十分大きく取ることで積分区間内において 0<f(x)sinx<1π 0 < f(x) \sin x < \dfrac{1}{\pi} とできる。辺々を 00 から π\pi で積分することにより 0<N<1 0 < N < 1 を得る。ところで NN は整数であった。これは上の不等式と矛盾する。

よって π\pi は無理数である。

証明において

  1. NN が整数であること
  2. 0<N<10 < N < 1 であること

を示しました。この2つは矛盾を導く上でしばしば用いられます。

このテクニックは 入試数学コンテスト第4回第6問解答解説 でも登場します。ぜひ読んでみてください。

一般化

同じ手法で π2\pi^2ee のべき乗が無理数であることも証明できます。

関数 ff の設定

証明の道具として先ほどの ff に手を加えます。

補題

正の整数 nn を固定する。

f(x)=xn(1x)nn! f(x) = \dfrac{x^n (1-x)^n}{n!} とおく。このとき次が成り立つ。

  1. 0<x<10 < x < 10<f(x)<1n!(12)2n<1n!0 < f(x) < \dfrac{1}{n!} \left(\dfrac{1}{2}\right)^{2n} < \dfrac{1}{n!} である。
  2. 各正整数 kkf(k)(0)f^{(k)} (0)f(k)(1)f^{(k)} (1) は整数である。

証明は π\pi の無理数性の証明のときと同様なので省略します。

π2\pi^2 の無理数性

証明

π2\pi^2 を有理数と仮定する。

このとき,互いに素な2整数 a,ba,b があって π2=ab\pi^2 = \dfrac{a}{b} と表せる。

F(x)=bn(π2nf(x)π2n2f(2)(x)+π2n4f(4)(x)) F(x) = b^n \left( \pi^{2n} f(x) -\pi^{2n-2} f^{(2)} (x) + \pi^{2n-4} f^{(4)} (x) - \cdots \right) と定める。

ステップ1. F(0)F(0)F(1)F(1) は整数である。

k=0,2,...,2nk=0,2,...,2n に対して,補題より f(k)(0)f^{(k)} (0)f(k)(1)f^{(k)} (1) は整数である。また πkbn=ak/2bk/2bn=\pi^kb^n=\dfrac{a^{k/2}}{b^{k/2}}b^n= πkbn=ak/2bnk/2\pi^{k} b^{n} = a^{k/2} b^{n-k/2} は整数である。よって F(0)F(0)F(1)F(1) は整数である。

ステップ2. F(x)F''(x) の計算

F(x)=bn(π2nf(2)(x)π2n2f(4)(x)+π2n4f(6)(x))=π2n+2bnf(x)π2bn(π2nf(x)π2n2f(2)(x)+π2n4f(4)(x))=π2n+2bnf(x)π2F(x)\begin{aligned} &F'' (x)\\ &= b^{n} \left( \pi^{2n} f^{(2)} (x) -\pi^{2n-2} f^{(4)} (x) + \pi^{2n-4} f^{(6)} (x) - \cdots \right)\\ &= \pi^{2n+2} b^{n} f(x)\\ &\quad\quad - \pi^2 b^{n} \left( \pi^{2n} f(x) -\pi^{2n-2} f^{(2)} (x) + \pi^{2n-4} f^{(4)} (x) - \cdots \right)\\ &= \pi^{2n+2} b^{n} f(x) - \pi^2 F(x) \end{aligned} より ddx[F(x)sinπxπF(x)cosπx]=F(x)sinπx+πF(x)cosπxπF(x)cosπx+π2F(x)sinπx=π2n+2bnf(x)sinπx\begin{aligned} &\dfrac{d}{dx} \left[ F' (x) \sin \pi x - \pi F(x) \cos \pi x \right]\\ &= F'' (x) \sin \pi x + \pi F' (x) \cos \pi x\\ &\quad\quad - \pi F'(x) \cos \pi x + \pi^2 F(x) \sin \pi x\\ &= \pi^{2n+2} b^{n} f(x) \sin \pi x \end{aligned}

ステップ3. 上記の計算より矛盾を導く。

ここで N=π01anf(x)sinπx  dx N = \pi \int_0^1 a^{n} f(x) \sin \pi x \; dx とおくと,an=bnπ2na^n=b^n\pi^{2n} より N=1π01bnπ2n+2f(x)sinπx  dx=[1πF(x)sinπxF(x)cosπx]01=F(0)+F(1)\begin{aligned} N &= \dfrac{1}{\pi} \int_0^1 b^{n}\pi^{2n+2} f(x) \sin \pi x \; dx\\ &= \left[ \dfrac{1}{\pi} F' (x) \sin \pi x - F(x) \cos \pi x \right]_0^1\\ &= F(0) + F(1) \end{aligned} と計算されるため,NN は整数である。これは nn に寄らない。

ここで補題より積分区間内で f(x)<1n!f(x) < \dfrac{1}{n!} であった。よって積分区間内で 0<anf(x)sinπx<ann! 0 < a^{n} f(x) \sin \pi x < \dfrac{a^{n}}{n!} である。

nn を十分大きくとることで 0<ann!π<10 < \dfrac{a^{n}}{n!} \pi < 1 とでき,このとき 0<N<10 < N < 1 である。

これは NN が整数であることと矛盾する。

以上より π2\pi^2 は無理数である。

ee の有理数乗」も無理数

ee の有理数乗が無理数であることを示します。

  1. 00 以外の整数 rr に対して ere^r が無理数であること。これは以下で証明します。
  2. 00 以外の任意の有理数 pq\dfrac{p}{q} に対して epqe^{\frac{p}{q}} が無理数であること。これは1を認めれば簡単です。もし epqe^{\frac{p}{q}} が有理数であると仮定すると,(ep/q)q=ep(e^{p/q})^q = e^p も有理数となり1に矛盾するからです。
1の証明

00 でない整数 rr に対して ere^r が有理数であると仮定する。

このとき,互いに素な2整数 a,ba,b があって er=abe^r = \dfrac{a}{b} とおくことができる。

F(x)=r2nf(x)r2n1f(x)+r2n2f(x) F(x) = r^{2n} f(x) - r^{2n-1} f'(x) + r^{2n-2} f''(x) - \cdots とおく。

F(x)=r2nf(x)r2n1f(2)(x)+r2n2f(3)(x)=r2n+1f(x)r(r2nf(x)r2n1f(x)+r2n2f(x))=r2n+1f(x)rF(x)\begin{aligned} &F'(x)\\ &= r^{2n} f' (x) - r^{2n-1} f^{(2)} (x) + r^{2n-2} f^{(3)} (x) - \cdots\\ &= r^{2n+1} f(x) - r \left( r^{2n} f(x) - r^{2n-1} f'(x) + r^{2n-2} f''(x) - \cdots \right) \\ &= r^{2n+1} f(x) - rF(x) \end{aligned} より ddx[erxF(x)]=rerxF(x)+erxF(x)=rerxF(x)+r2n+1erxf(x)rerxF(x)=r2n+1erxf(x)\begin{aligned} &\dfrac{d}{dx} \big[ e^{rx} F(x) \big]\\ &= r e^{rx} F(x) + e^{rx} F'(x)\\ &= r e^{rx} F(x) + r^{2n+1} e^{rx} f(x) - r e^{rx} F(x)\\ &= r^{2n+1} e^{rx} f(x) \end{aligned} が成立する。

ここで N=b01r2n+1erxf(x)  dx N = b \int_0^1 r^{2n+1} e^{rx} f(x) \; dx とおくと, N=b01r2n+1erxf(x)  dx=b[erxF(x)]01=aF(1)bF(0)\begin{aligned} N &= b \int_0^1 r^{2n+1} e^{rx} f(x) \; dx\\ &= b \big[ e^{rx} F(x) \big]_0^1\\ &= a F(1) - b F(0) \end{aligned} となりこれは整数である。

積分区間内で 0<f(x)<1n!0 < f(x) < \dfrac{1}{n!} であるため 0<br2n+1erxf(x)<br2n+1ern!=ar2n+1n!\begin{aligned} 0 < b r^{2n+1} e^{rx} f(x) &< \dfrac{b r^{2n+1} e^r}{n!}\\ &= \dfrac{ar^{2n+1}}{n!} \end{aligned} である。

nn を十分大きくとることで 0<ar2n+1n!<10 < \dfrac{ar^{2n+1}}{n!} < 1 とできる。このとき 0<N<10 < N < 1 である。

これは NN が整数であることと矛盾する。

以上より ere^r は無理数である。

π\pi の証明はニーベン,π2\pi^2 の証明は岩本義和,ere^r の証明はエルミートによるものです。