円周率が無理数であることの証明
円周率 は無理数である。
この記事では,円周率が無理数である非常に美しい証明を紹介します。
必要な知識は高校レベルの微積分だけです。少々トリッキーで難しいですが,ぜひ議論を追ってみてください。
証明
一般化
証明
が有理数であると仮定する。
このとき,互いに素な2整数 を用いて と表せる。
ここで,正の整数 を1つ固定して とおく。また, とおく。 は 次の多項式であるため, は有限和である。
ステップ1. が整数であることを示す。
各 に対して, が整数であることを示せばよい。二項定理で展開すると,
である。
最小の次数は であるため, のとき である。
のときを考える。 の 次の項は の部分,つまり であるので, は整数である。よって は整数。
また, と合成関数の微分公式を用いると となり も整数。
ステップ2. の計算
である。
これより
であるため
とおくと,
と計算される。 は整数であるため, も整数である。
ステップ3. 被積分関数の評価
二次関数を平方完成すると,
であるため,被積分関数について
が成立する。また, において である。
よって を十分大きく取ることで積分区間内において とできる。辺々を から で積分することにより を得る。ところで は整数であった。これは上の不等式と矛盾する。
よって は無理数である。
証明において
- が整数であること
- であること
を示しました。この2つは矛盾を導く上でしばしば用いられます。
このテクニックは 入試数学コンテスト第4回第6問解答解説 でも登場します。ぜひ読んでみてください。
一般化
同じ手法で や のべき乗が無理数であることも証明できます。
関数 の設定
証明の道具として先ほどの に手を加えます。
正の整数 を固定する。
とおく。このとき次が成り立つ。
- で である。
- 各正整数 で , は整数である。
証明は の無理数性の証明のときと同様なので省略します。
の無理数性
を有理数と仮定する。
このとき,互いに素な2整数 があって と表せる。
と定める。
ステップ1. , は整数である。
補題より , は整数である。また は整数である。よって , は整数である。
ステップ2. の計算
より
ステップ3. 上記の計算より矛盾を導く。
ここで とおくと, と計算されるため, は整数である。これは に寄らない。
ここで補題より積分区間内で であった。よって積分区間内で である。
を十分大きくとることで とでき,このとき である。
これは が整数であることと矛盾する。
以上より は無理数である。
「 の有理数乗」も無理数
の有理数乗が無理数であることを示します。
- 整数 に対して が無理数であること。これは以下で証明します。
- 任意の有理数 に対して が無理数であること。これは1を認めれば簡単です。もし が有理数であると仮定すると, も有理数となり1に矛盾するからです。
整数 に対して が有理数であると仮定する。
このとき,互いに素な2整数 があって とおくことができる。
とおく。
より が成立する。
ここで とおくと, となりこれは整数である。
積分区間内で であるため である。
を十分大きくとることで とできる。このとき である。
これは が整数であることと矛盾する。
以上より は無理数である。
の証明はニーベン, の証明は岩本義和, の証明はエルミートによるものです。