証明
π が有理数であると仮定する。
このとき,互いに素な2整数 a,b を用いて π=ba と表せる。
ここで,正の整数 n を1つ固定して
f(x)=n!xn(a−bx)n=n!bnxn(π−x)n
とおく。また,
F(x)=f(x)−f(2)(x)+f(4)(x)+⋯
とおく。f は 2n 次の多項式であるため,F は有限和であり最後の項は (−1)nf(2n)(x) である。
ステップ1. F(0),F(π) が整数であることを示す。
各 k=0,2,...,2n に対して,f(k)(0),f(k)(π) が整数であることを示せばよい。二項定理で展開すると,
f(x)=t=0∑n(−1)n−tn!nCtatbn−tx2n−t
である。
最小の次数は n であるため,k<n のとき f(k)(0)=0 である。
k≧n のときを考える。f(x) の k 次の項は t=2n−k の部分,つまり (−1)k−nn!nC2n−ka2n−kbk−nxk であるので,
f(k)(0)=(−1)k−nn!k!nC2n−ka2n−kbk−n
は整数である。よって F(0) は整数。
また,f(π−x)=f(x) と合成関数の微分公式を用いると f(k)(π)=(−1)kf(k)(0) となり F(π) も整数。
ステップ2. F′′ の計算
F′′(x)=f(2)(x)−f(4)(x)+f(6)(x)+⋯=f(x)−F(x)
である。
これより
dxd[F′(x)sinx−F(x)cosx]=F′′(x)sinx+F′(x)cosx−F′(x)cosx+F(x)sinx=f(x)sinx
であるため
N=∫0πf(x)sinxdx
とおくと,
N=∫0πf(x)sinxdx=[F′(x)sinx−F(x)cosx]0π=F(π)+F(0)
と計算される。F(0),F(π) は整数であるため,N も整数である。
ステップ3. 被積分関数の評価
二次関数を平方完成すると,
x(π−x)=−(x−2π)2+(2π)2≦(2π)2 であるため,被積分関数について
f(x)sinx=n!bnxn(π−x)nsinx≦n!bn(2π)2n
が成立する。また,0<x<π において f(x)sinx>0 である。
よって,階乗は指数関数より強い(n→∞limn!An=0 )ので n を十分大きく取ることで積分区間内において
0<f(x)sinx<π1
とできる。辺々を 0 から π で積分することにより
0<N<1
を得る。ところで N は整数であった。これは上の不等式と矛盾する。
よって π は無理数である。