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原始ピタゴラス数の木

更新日時 2021/03/07

定理:

すべての原始ピタゴラス数は,(345)\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix} に対して,3つの行列 A,B,CA,B,C のどれかをかける操作を何度か繰り返すことで作れる。ただし,

A=(122212223)A=\begin{pmatrix}1&-2&2\\2&-1&2\\2&-2&3\end{pmatrix}

B=(122212223)B=\begin{pmatrix}1&2&2\\2&1&2\\2&2&3\end{pmatrix}C=(122212223)C=\begin{pmatrix}-1&2&2\\-2&1&2\\-2&2&3\end{pmatrix}

ピタゴラス数に関する非常におもしろい定理です。この定理の主張と証明を詳しく解説します。

目次
  • 定理の主張について

  • 原始ピタゴラス数の木

  • 主張2の証明

  • 主張1と主張3の証明

  • ※補足

  • 余談

定理の主張について

a2+b2=c2a^2+b^2=c^2 を満たす正の整数の組 (a,b,c)(a,b,c) のことをピタゴラス数と言います。その中で,a,b,ca,b,c の最大公約数が 11 であるものを原始ピタゴラス数と言います。→ピタゴラス数の求め方とその証明

例えば,32+42=523^2+4^2=5^2 なので,(3,4,5)(3,4,5) は原始ピタゴラス数ですが,実は,すべての原始ピタゴラス数が (3,4,5)(3,4,5) から(3種類の行列をかけることで)作り出せるというのが冒頭の定理です。

例えば,(5,12,13)(5,12,13) という原始ピタゴラス数は,

A(345)=(122212223)(345)=(51213)A\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&-2&2\\2&-1&2\\2&-2&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}5\\12\\13\end{pmatrix}

のように (3,4,5)(3,4,5) から作り出せます。

他にも,(65,72,97)(65,72,97) という原始ピタゴラス数は,

BC(345)=(657297)BC\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}65\\72\\97\end{pmatrix}

のように (3,4,5)(3,4,5) から作り出せます。

原始ピタゴラス数の木

ピタゴラス数の木

(3,4,5)(3,4,5) からはじめて,図のような木を書いてみます。赤い矢印が AA ,紫の矢印が BB ,緑の矢印が CC に対応します。

冒頭の定理は,上記の木に対して,

主張1.すべての原始ピタゴラス数が現れる

ですが,実は以下の主張も成立します。

主張2.原始ピタゴラス数以外のものは現れない

主張3.同じ原始ピタゴラス数が2度現れることはない

つまり,木をどんどん長くしていけば「余分なもの無しですべての原始ピタゴラス数をちょうど1回ずつ生成できる」というわけです。

※このページでは,原始ピタゴラス数と言ったときに第一成分が奇数で,第二成分が偶数であるもののみ考えます。例えば,(20,21,29)(20,21,29) は図に現れませんが,(21,20,29)(21,20,29) が現れます。

以下では,主張1~主張3を証明します。

主張2の証明

まずは「原始ピタゴラス数以外のものは現れない」ことを証明します。

証明

原始ピタゴラス数 (abc)\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix} に対して,A(abc)A\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}B(abc)B\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}C(abc)C\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix} も原始ピタゴラス数になることを示せばよい。

まず,

A(abc)=(a2b+2c2ab+2c2a2b+3c)=(pqr)A\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a-2b+2c\\2a-b+2c\\2a-2b+3c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}

とおくと,p2+q2=r2p^2+q^2=r^2 となることが簡単な計算でわかる。

また,c>a,bc>a,b に注意すると,p,q,r>0p,q,r>0 であることもわかる。よって,(p,q,r)(p,q,r) はピタゴラス数である。

次に,(p,q,r)(p,q,r) が原始ピタゴラス数でないと仮定する。つまり,p,q,rp,q,r がいずれも d(2)d\:(\geq 2) の倍数であると仮定する。すると,A1=(122212223)A^{-1}=\begin{pmatrix}1&2&-2\\-2&-1&2\\-2&-2&3\end{pmatrix} であり各成分が整数なので,

(abc)=A1(pqr)\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}=A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} の各成分も dd の倍数になり,(a,b,c)(a,b,c) が原始ピタゴラス数であることに矛盾。よって,(p,q,r)(p,q,r) は原始ピタゴラス数である。

B(abc)B\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}C(abc)C\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix} についても同様である。ちなみに,

B1=(122212223)B^{-1}=\begin{pmatrix}1&2&-2\\2&1&-2\\-2&-2&3\end{pmatrix}C1=(122212223)C^{-1}=\begin{pmatrix}-1&-2&2\\2&1&-2\\-2&-2&3\end{pmatrix}

となる。

なお,A,B,CA,B,C をかける操作(およびその逆変換)において「第一成分が奇数で,第二成分が偶数」という性質が保たれることもわかります。

主張1と主張3の証明

数学的帰納法を使って「すべての原始ピタゴラス数が,ちょうど1通りの方法で生成できる」ことを証明します。

証明

まず,cc が最小の場合,つまり c=5c=5 の場合について確認する。

c=5c=5 の場合の原始ピタゴラス数は (3,4,5)(3,4,5) のみである。

また,原始ピタゴラス数に A,B,CA,B,C のいずれかをかけると第三成分は大きくなるので,(3,4,5)(3,4,5) が2回以上現れることはない。

次に「 cr1c\leq r-1 であるすべての原始ピタゴラス数 (a,b,c)(a,b,c) が,ちょうど1通りの方法で生成できる」が正しいと仮定して,c=rc=r の場合でも正しいことを証明する。つまり,(p,q,r)(p,q,r) という原始ピタゴラス数があれば,それがちょうど1通りの方法で生成できることを証明する。

さて,A1(pqr)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}B1(pqr)B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}C1(pqr)C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} という3つのベクトルを考えると,各成分が正であるものが1つだけ存在する(→※補足)

それが,A1(pqr)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} であるとする(他の場合も同様)。

このとき,B1(pqr)B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}C1(pqr)C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} はいずれかの成分が 00 以下なので,主張2により (3,4,5)(3,4,5) から生成することはできない。よって,(p,q,r)(p,q,r) の生成方法と,A1(pqr)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} の生成方法は1対1に対応する。

また,このとき主張2の証明と同様にして,A1(pqr)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} が原始ピタゴラスであることがわかる。さらに,三角不等式より第三成分は rr より小さいこともわかる。よって,帰納法の仮定により,A1(pqr)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} は,(3,4,5)(3,4,5) からちょうど1通りの方法で生成できる。

よって,(p,q,r)(p,q,r)(3,4,5)(3,4,5) からちょうど1通りの方法で生成できる。

※補足

最後に,A1(pqr)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}B1(pqr)B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}C1(pqr)C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} という3つのベクトルを考えると,各成分が正であるものが1つだけ存在することを証明します。

証明

(p,q,r)(p,q,r) が原始ピタゴラス数であるとき,ある正の整数 m,nm,n を用いて,

p=m2n2,q=2mn,r=m2+n2p=m^2-n^2,q=2mn,r=m^2+n^2 と表すことができます。→ピタゴラス数の求め方とその証明

よって,各成分を m,nm,n を用いて表すと,

A1(pqr)=(122212223)(m2n22mnm2+n2)=(m2+4mn3n22mn+4n2m24mn+5n2)=((mn)(3nm)2n(m2n)(m2n)2+n2)A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&-2\\-2&-1&2\\-2&-2&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}m^2-n^2\\2mn\\m^2+n^2\end{pmatrix}\\ =\begin{pmatrix}-m^2+4mn-3n^2\\-2mn+4n^2\\m^2-4mn+5n^2\end{pmatrix}\\ =\begin{pmatrix}(m-n)(3n-m)\\-2n(m-2n)\\(m-2n)^2+n^2\end{pmatrix}

B1(pqr)=((mn)(3nm)2n(m2n)(m2n)2+n2)B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}(m-n)(3n-m)\\2n(m-2n)\\(m-2n)^2+n^2\end{pmatrix}

C1(pqr)=((mn)(m3n)2n(m2n)(m2n)2+n2)C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}(m-n)(m-3n)\\2n(m-2n)\\(m-2n)^2+n^2\end{pmatrix}

よって,m<2nm<2n2n<m<3n2n<m<3n3n<m3n<m のいずれかが成立することに注意すると,各成分が正であるものが1つだけ存在することがわかる。

m=2nm=2n である原始ピタゴラス数は (3,4,5)(3,4,5) だけであり,m=3nm=3n の場合は原始ピタゴラス数にならない)

余談

各成分が整数で,行列式が 11 または 1-1 である行列を単模行列(たんもぎょうれつ,ユニモジュラ行列)と言います。 A,B,CA,B,C は単模行列のおもしろい例です!

参考文献:Trees of Primitive Pythagorean Triples(全43ページのPDF)

「もれなく重複なく」出てくるのがおもしろいです。ちなみに「もれなく重複なく」をかっこつけて「MECE(ミーシー)」と言うのはあまり好きではありません。

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