ガウス整数とその応用

更新日時 2021/03/07
ガウス整数の定義

整数 a,ba,b を用いて a+bia+bi と表される複素数をガウス整数(複素整数)と呼ぶ。

目次
  • 関連する用語

  • 素因数分解(既約元分解)

  • 応用

関連する用語

  • ガウス整数全体の集合を ガウス整数環と言います。

  • 「ふつうの」整数を 有理整数と言うこともあります。また,有理整数全体の集合を 有理整数環と言います。

  • ガウス整数における 倍数,約数の定義は有理整数の場合と同様です。つまり,ガウス整数 a,ba,b に対して a=bca=bc となるガウス整数 cc が存在するとき,aabb の倍数,bbaa の約数,と言います。

素因数分解(既約元分解)

ガウス整数環における「素数」をガウス素数と言います。つまり,(±1,±i\pm 1,\pm i と異なる)2つのガウス整数の積で表せないものです。ただし,11 を素数から除くのと同様に,±1,±i\pm 1,\pm i はガウス素数から除きます。

例えば 22 は有理整数の範囲ではこれ以上分解できませんが,ガウス整数では (1+i)(1i)(1+i)(1-i) と分解できるのでガウス素数ではありません。

ガウス整数環においても「ふつうの」整数の場合と同様に素因数分解の一意性が成立します。難しい言葉を使うと「ガウス整数環は一意分解整域」です。

ただし,1-1 または ±i\pm i 倍で移れるガウス素数は同じものとみなします。例えば 2=(1+i)(1i)=(1+i)(1i)2=(1+i)(1-i)=(-1+i)(-1-i) は同じ分解とみなします。

応用

ガウス整数の応用として,ピタゴラス数についての以下の定理を証明してみます(→ピタゴラス数の求め方とその証明)。

定理

a2+b2=c2a^2+b^2=c^2 を満たす正の整数の組の中で a,b,ca,b,c の最大公約数が1のものは,正の整数 m,nm,n を用いて a=m2n2,b=2mn,c=m2+n2a=m^2-n^2,b=2mn,c=m^2+n^2
(または b=m2n2,a=2mn,c=m2+n2b=m^2-n^2,a=2mn,c=m^2+n^2

という形で表せる。

証明

a2+b2=c2a^2+b^2=c^2

(a+bi)(abi)=c2(a+bi)(a-bi)=c^2

と変形できる。 (a+bi)(a+bi)(abi)(a-bi) は互いに素(→補足1)であり,それらの積が平方数なので,両方とも平方数(に ±1,±i\pm 1,\pm i のいずれかをかけたもの)である(→補足2)。

(a+bi)(a+bi) が平方数である場合を考える。このとき,整数 m,nm,n を用いて,

(a+bi)=(m+ni)2=m2n2+2mni(a+bi)=(m+ni)^2=m^2-n^2+2mni とおける。つまり,

a=m2n2,b=2mna=m^2-n^2,b=2mn

となる。さらに,c=m2+n2c=m^2+n^2 となる。

b>0b > 0 より m,nm,n は同符号。さらに (m+ni)2=(mni)2(m+ni)^2=(-m-ni)^2 より)m,nm,n は正の整数に取れる。

なお,(a+bi)(a+bi) が平方数 ×(1)\times (-1) のときは mmnn の役割が入れ替わるだけで同じ形の式が得られる。

(a+bi)(a+bi) が平方数 ×(±i)\times (\pm i) のときは aabb の役割が入れ替わる。

補足1

背理法で証明する。 (a+bi)(a+bi)(abi)(a-bi) がともに d(±1,±i)d\:(\neq \pm 1,\pm i) の倍数とすると,和と差を取ることにより,2a2a2bi2bidd の倍数であることが分かる。

aabb は互いに素なものを考えているので,d=2d=2 (または 2,±2i-2,\pm 2i

このとき,(a+bi)(abi)(a+bi)(a-bi)44 の倍数,つまり cc が偶数となる。これは矛盾(44 で割った余りを考えることにより cc は奇数であることが必要→平方剰余)。

補足2

ここでガウス整数における「素因数分解の一意性」を使っています。

「せいいき」で変換しても「整域」は出てきませんね。