対称式の基本定理の証明

対称式の基本定理

対称式は基本対称式の多項式として表せる。その表し方は一通りである。

対称式,基本対称式

対称式の基本定理の例

二変数の場合:

x,yx,y についての基本対称式は e1=x+ye_1=x+ye2=xye_2=xy です。対称式の基本定理によると,「 x,yx,y についての対称式はどんなものでも,必ず e1e_1e2e_2 の多項式として表せる」ことが分かります。

例えば,

x2+y2=(x+y)22xy=e122e2x^2+y^2=(x+y)^2-2xy=e_1^2-2e_2

という感じです。 →2変数の対称式と基本対称式の4つの性質

三変数の場合:

x,y,zx,y,z についての対称式は e1=x+y+ze_1=x+y+ze2=xy+yz+zxe_2=xy+yz+zxe3=xyze_3=xyz の多項式として表せます。

高校数学では三変数の場合まで覚えておけば十分でしょう。

辞書式順序

対称式の基本定理の証明の準備です。二つの単項式について以下のような強さの関係(辞書式順序)を考えます。

  • x1x_1 の次数が大きい方が強い
  • x1x_1 の次数が同じなら x2x_2 の次数が大きい方が強い
  • それも同じなら x3x_3 の次数が大きい方が強い
  • 以下同様

例えば x13x22x3x_1^3x_2^2x_3 の方が x13x22x4x_1^3x_2^2x_4 よりも強いです。

対称式の基本定理の証明

nn 変数の対称式 f(x1,x2,,xn)f(x_1,x_2,\cdots,x_n) が基本対称式 e1=x1+x2++xn,e_1=x_1+x_2+\cdots +x_n,

,en=x1x2xn\cdots,e_n=x_1x_2\cdots x_n で表せることを証明します。

証明

kk 次の項のみの対称式 f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) が基本対称式で表せることを証明すればよい(一般の対称式は k\displaystyle\sum_{k}kk 次の項のみの対称式,と書ける)。

f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) の中で一番強い項を Ax1c1x2c2xncnAx_1^{c_1}x_2^{c_2}\cdots x_n^{c_n} とする。 ff は対称式なので c1c2cnc_1\geq c_2\geq \cdots \geq c_n である。

ここで,以下のようにうまく基本対称式をかけ合わせることで,一番強い項を作り出せる(→注)

Aencnen1cn1cne1c1c2Ae_n^{c_n}e_{n-1}^{c_{n-1}-c_n}\cdots e_1^{c_1-c_2}

そして,この式には x1c1x2c2xncnx_1^{c_1}x_2^{c_2}\cdots x_n^{c_n} よりも強い項は登場しない。

よって,f(x1,,xn)Aencnen1cn1cne1c1c2f(x_1,\cdots,x_n)-Ae_n^{c_n}e_{n-1}^{c_{n-1}-c_n}\cdots e_1^{c_1-c_2}f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) より一番強い項が真に弱い多項式である。

また,この操作で「 kk 次の項のみの対称式」という性質は保たれる。よって,この操作を繰り返すといつかは必ずゼロになる。

つまり,f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) から「基本対称式で表される多項式」を有限回引くことでゼロになるので,f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) は基本対称式で表せる。

注:例えば 3x5y3z3w23x^5y^3z^3w^2 を作り出すためには,

3e42e3e12=3(xyzw)2(xyz+xyw+xzw+yzw)(x+y+z+w)23e_4^2e_3e_1^2\\ =3(xyzw)^2(xyz+xyw+xzw+yzw)(x+y+z+w)^2

とすればOKです。

注2:「基本対称式で表せる」ことの証明ができてしまえば「その表し方が一通りである」ことの証明も同様にできます。具体的には, f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) の中で一番強い項を Ax1c1x2c2xncnAx_1^{c_1}x_2^{c_2}\cdots x_n^{c_n} とすると,f(x)f(x) を基本対称式の多項式で表すためには Aencnen1cn1cne1c1c2Ae_n^{c_n}e_{n-1}^{c_{n-1}-c_n}\cdots e_1^{c_1-c_2} を使う必要があることを証明します。

対称式の基本定理を知っている高校生は多いと思いますが,証明できる人はかなり少ないと思います。