n変数の不等式証明のテクニック

数学オリンピックの不等式証明問題は 33 変数のものとn変数のものがほとんどです。

n変数の不等式証明

n変数の場合には3変数の場合に使える様々なテクニックが使えません。

この記事ではn変数の不等式を 「数列の積の和とみなす」ことによって証明するテクニックを紹介します。

数列の積の和とみなすことで,並べ替え不等式チェビシェフの不等式アーベルの総和公式などが使えます。

数オリの問題に挑戦

1975年の国際数学オリンピックブルガリア大会の第1問です。数オリの問題の中ではかなり簡単な問題です。

問題1

実数 xi,yi(i=1,2,,n)x_i,y_i (i=1,2,\cdots,n)x1x2xnx_1\geq x_2\geq\cdots\geq x_n かつ,y1y2yny_1\geq y_2\geq\cdots\geq y_n を満たすとする。

y1,y2,,yny_1,y_2,\cdots,y_n の任意の置換(並べ替え)z1,z2,,znz_1,z_2,\cdots,z_n に対して以下の不等式が成立することを証明せよ。

i=1n(xiyi)2i=1n(xizi)2 \sum_{i=1}^n(x_i-y_i)^2\leq\sum_{i=1}^n(x_i-z_i)^2

方針

とりあえず展開してみると「数列の積の和」が出現します。並べ替え不等式で一発です。

解答

i=1nyi2=i=1nzi2\displaystyle\sum_{i=1}^ny_i^2=\sum_{i=1}^nz_i^2 に注意して展開すると示すべき不等式は以下のようになる。

i=1nxiyii=1nxizi \sum_{i=1}^nx_iy_i\geq\sum_{i=1}^nx_iz_i

これは並べ替え不等式そのもの。

数オリの問題に挑戦part2

1978年国際数学オリンピックルーマニア大会の第5問です。

問題2

ana_n は全ての項が自然数で全て異なる数列とする。このとき以下の不等式を証明せよ。

k=1nakk2k=1n1k \sum_{k=1}^n\dfrac{a_k}{k^2}\geq\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k}

方針1

左辺を数列の積の和と見ます。右辺は定数なので左辺の最小値を評価してやればよいわけです。1k2\dfrac{1}{k^2} は減少数列なので,左辺は aka_k が増加数列のときに値が小さくなります。

解答1

nn を固定して左辺がどのようなときに最小になるか考える。並べ替え不等式より,aka_k が増加数列のときだけを考えればよい。(そうでないときは並べ替えによって値をより小さくできる)よって,左辺が最小になるのは a1=1,a2=2,,an=na_1=1,a_2=2,\cdots,a_n=n のときで,そのときの値は右辺と一致する。

アーベルの総和公式を用いた別解も紹介しておきます。

方針2

アーベルの総和公式は「数列の積の和」を評価するのに使えます。 AkA_k の評価以外は全て等式変形で証明できます。

解答2

i=1kai=Ak\displaystyle\sum_{i=1}^ka_i=A_k とおくと,Akk(k+1)2A_k \geq \dfrac{k(k+1)}{2} であり,アーベルの総和公式より,

k=1nakk2=Ann2k=1n1Ak(1(k+1)21k2)1n2n(n+1)2+k=1n1k(k+1)22k+1k2(k+1)2=12(1+1n+k=1n1(1k+1k+1))=k=1n1k\begin{aligned} \sum_{k=1}^n\dfrac{a_k}{k^2} &= \dfrac{A_{n}}{n^2}-\sum_{k=1}^{n-1} A_k \left(\dfrac{1}{(k+1)^2}-\dfrac{1}{k^2}\right)\\ &\geq \dfrac{1}{n^2} \dfrac{n(n+1)}{2}+\sum_{k=1}^{n-1}\dfrac{k(k+1)}{2}\dfrac{2k+1}{k^2(k+1)^2}\\ &=\dfrac{1}{2} \left( 1+\dfrac{1}{n} + \sum_{k=1}^{n-1} \left(\dfrac{1}{k}+\dfrac{1}{k+1} \right)\right) =\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k} \end{aligned}

である。

n変数の不等式だからといって必ずしも難問とは限りません。

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