直積(2つの集合の直積から無限個の場合まで)

(集合の)直積

2つの集合 AA,BB に対して「AABB から1つずつとってきたペアをすべて集めた集合」のことを AABB の直積集合といい,A×BA\times B と表す。つまり, A×B={(a,b)aA,bB}A\times B=\{(a,b)\mid a\in A,b\in B\} 直積集合

直積(direct product,Cartesian product) についてわかりやすく説明します。

直積の意味と簡単な例

AABB の直積集合とは「AABB から1つずつとってきたペアをすべて集めた集合」です。

A={1,2},B={3,4}A=\{1,2\},B=\{3,4\} のとき, A×B={(1,3),(1,4),(2,3),(2,4)}A\times B=\{(1,3),(1,4),(2,3),(2,4)\} B×A={(3,1),(3,2),(4,1),(4,2)}B\times A=\{(3,1),(3,2),(4,1),(4,2)\}

ここでいう「ペア」は順番を考慮します。つまり,A×BA\times B の各要素 (a,b)(a,b) は順序対です。例えば,(1,3)(3,1)(1,3)\neq (3,1) です。よって,一般に A×BB×AA\times B\neq B\times A です。

直積集合の要素数

A,BA,B は有限集合とします。直積集合の要素数は,要素数の積と等しいです: A×B=A×B|A\times B|=|A|\times |B| なぜなら,A×BA\times B の要素数について「AA の要素の選び方が A|A| 通り」でその各々に対して「BB の要素の選び方が B|B| 通り」であるためです。例えば,さきほどの例では 4=2×24=2\times 2 になっています。

直積集合のさらなる例

  • 3つ以上の集合の直積も同様に定義されます。例えば, A1={1,2},A2={3,4},A3={5,6}A_1=\{1,2\},A_2=\{3,4\},A_3=\{5,6\} のとき, A1×A2×A3A_1\times A_2\times A_3(1,3,5)(1,3,5)(1,3,6)(1,3,6) など合計 88 個の要素からなる集合です。

  • 同じ集合の直積を考えることもあります。AAAA の直積を A2A^2 と書くことがあります。例えば,A={1,2}A=\{1,2\} のとき A2={(1,1),(1,2),(2,1),(2,2)}A^2=\{(1,1),(1,2),(2,1),(2,2)\} です。

  • 無限集合の直積を考えることもあります。例えば実数全体の集合 R\mathbb{R} に対して,直積 R×R=R2\mathbb{R}\times\mathbb{R}=\mathbb{R}^2 を考えることは多いです(高校数学で習う座標平面を R2\mathbb{R}^2 と表すことがあります)。

無限個の直積

有限個の集合の直積 A1×A2××An=λ=1nAλA_1\times A_2\times \cdots \times A_n=\displaystyle\prod_{\lambda=1}^nA_{\lambda} はわかりやすいですが,無限個になると少し難しくなります。

有限集合とは限らない集合 Λ\Lambda で添字づけられた集合族 {Aλ}λΛ\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda} の直積集合を考えてみましょう。

一般的な直積の定義

集合族 {Aλ}λΛ\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda} に対して,それらすべての直積集合 λΛAλ\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} は以下で定義される: λΛAλ={f:ΛλΛAλ|f(λ)Aλ(λΛ)}\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}=\left\{f:\Lambda\to \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\:\middle|\: f(\lambda)\in A_{\lambda}\:(\lambda\in\Lambda)\right\}

いきなり「Λ\Lambda から λΛAλ\displaystyle\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} への写像 ff」が出てきてわかりにくいです。例を見ながら理解しましょう。

可算無限の例

可算無限個の直積は「数列」っぽいです。

例1

添字集合が Λ=N\Lambda=\mathbb{N}(正の整数全体の集合)で,Aλ={0,1}(λΛ)A_{\lambda}=\{0,1\}\:(\lambda\in\Lambda) の場合を考えます。無限個の集合の直積 A1×A2×A3×A_1\times A_2\times A_3\times \cdots を考えましょう。

これは,各項が 00 または 11 である数列全体の集合です。

直積の定義をもとに正確に表すと,以下のようになります: λNAλ={f:N{0,1}}\displaystyle\prod_{\lambda\in\mathbb{N}}A_{\lambda}=\{f:\mathbb{N}\to\{0,1\}\}

つまり「正の整数全体から {0,1}\{0,1\} への写像全体」です。

例2

Λ=N\Lambda=\mathbb{N}(正の整数全体の集合),Aλ={0,λ}(λΛ)A_{\lambda}=\{0,\lambda\}\:(\lambda\in\Lambda) に対して,無限個の集合の直積 A1×A2×A3×A_1\times A_2\times A_3\times \cdots を考えましょう。

これは,大雑把にいうと λ\lambda 番目の項が 00 または λ\lambda である数列全体の集合です。

正確には,以下で定義されます: λNAλ={f:N{0,1,...}f(λ){0,λ}(λΛ)}\displaystyle\prod_{\lambda\in\mathbb{N}}A_{\lambda}=\{f:\mathbb{N}\to\{0,1,...\}\mid f(\lambda)\in \{0,\lambda\}\:(\lambda\in\Lambda)\}

つまり「正の整数全体から 00 以上の整数全体への写像の中で,各 λ\lambda に対して f(λ){0,λ}f(\lambda)\in\{0,\lambda\} を満たすもの全体」です。

非可算無限の例

非加算無限の直積は「関数」っぽいです。

例3

Λ=R\Lambda=\mathbb{R}(実数全体の集合),Aλ={0,1}(λΛ)A_{\lambda}=\{0,1\}\:(\lambda\in\Lambda) に対して,集合の直積 λRAλ\displaystyle\prod_{\lambda\in\mathbb{R}}A_{\lambda} を考えましょう。

これは,値が 00 または 11 である実数上の関数全体の集合です: λRAλ={f:R{0,1}}\displaystyle\prod_{\lambda\in\mathbb{R}}A_{\lambda}=\{f:\mathbb{R}\to\{0,1\}\}

例1や例3のように,AλA_{\lambda}λ\lambda に依存しないとき,つまり同じ集合たちの直積集合を λNA=AN,λRA=AR\displaystyle\prod_{\lambda\in\mathbb{N}}A=A^{\mathbb{N}} ,\prod_{\lambda\in\mathbb{R}}A=A^{\mathbb{R}} などと書くことがあります。

群の直積

ここまでは集合の直積を考えました。これをもとに「の直積」「の直積」「位相空間の直積」などいろいろな対象の直積を考えることができます。

ここでは,例として群の直積を紹介します。

群とは,群の公理と呼ばれる条件を満たす集合(と演算のペア)のことです。→群の定義といろいろな具体例

群の直積

2つの群 (G,),(H,)(G,\circ),(H,\bullet) に対して,集合の直積 G×HG\times H に属する元 (g1,h1),(g2,h2)(g_1,h_1),(g_2,h_2) に対する演算 *(g1,h1)(g2,h2)=(g1g2,h1h2)(g_1,h_1)*(g_2,h_2)=(g_1\circ g_2,h_1 \bullet h_2) で定めると,(G×H,)(G\times H,*) は群となる。これを GGHH群の直積という。

52枚のトランプは,4種の絵柄の集合と13種の数の集合の直積集合です。