商ベクトル空間

この記事では,商ベクトル空間について紹介します。

定義

VV をベクトル空間,WWVV の部分ベクトル空間とする。

VV 上の二項関係 \simvv    vvWv \sim v'\iff v-v' \in W で定義すると,\sim は同値関係を成す。VV をこの同値関係で割った商集合はベクトル空間の構造を持つ。

これを商ベクトル空間といい,V/WV/W と書く。

実際にベクトル空間であること

商ベクトル空間が,本当にベクトル空間であることを証明します。

定理

商ベクトル空間 V/WV/W について

  • [v]+[v]=[v+v][v]+[v'] = [v+v']v,vVv,v' \in V
  • c[v]=[cv]c[v] = [cv]cRc \in \mathbb{R}vVv \in V

によって和とスカラー倍を定義すると,ベクトル空間の構造が入る。

※ 上では実ベクトル空間で考えているが,一般の体上のベクトル空間でも同じようにできる。

証明の概要

演算が well-defined であること,つまり代表元の取り方に寄らずに和が定まることを確認する。

v1v_1vvmod W\mathrm{mod} \ W で同値な元,v1v'_1vv'mod W\mathrm{mod} \ W で同値な元とする。

vv1,vv1Wv-v_1 , v' - v'_1 \in W より (v+v)(v1+v1)W(v+v')-(v_1+v'_1) \in W である。

よって [v]+[v]=[v+v]=[v1+v1]=[v1]+[v1]\begin{aligned} [v]+[v'] &= [v+v']\\ &= [v_1+v'_1]\\ &= [v_1] + [v'_1] \end{aligned} である。

スカラー倍も同様にできる。

また,ベクトル空間の公理を満たすことも確認できる。

well-defined とは?

V/WV/W の元はある vv によって [v][v] と表されます。しかし vv1Wv-v_1 \in W となる v1v_1 を取れば [v]=[v1][v] = [v_1] です。

このように V/WV/W の元を [Vの元][V\text{の元}] と表す方法は複数通りあります。どの表し方でも和・スカラー倍がOKであることを「well-defined」と呼んでいます。

例1

V=R4V = \mathbb{R}^4W=R2W = \mathbb{R}^2 とすると,V/WR2V/W \simeq \mathbb{R}^2 である。

一般に n>mn > m の場合において Rn/RmRnm\mathbb{R}^{n} / \mathbb{R}^m \simeq \mathbb{R}^{n-m} となる。

例2

V={fR[x]f は3次以下}W={fR[x]f は2次以下} V = \{ f \in \mathbb{R} [x] \mid f \ \text{は3次以下} \}\\ W = \{ f \in \mathbb{R} [x] \mid f \ \text{は2次以下} \} と定める。

V/W{[a3x3]a3R}R V/W \simeq \{ [a_3 x^3] \mid a_3 \in \mathbb{R} \} \simeq \mathbb{R}

となる。

次元定理

定理

VV は有限次元ベクトル空間,WWVV の部分ベクトル空間とする。このとき dimV/W=dimVdimW \dim V/W = \dim V - \dim W

証明

dimV=n\dim V = ndimW=m\dim W = m とする。(n>mn > m である。)

VV の基底を {v1,,vn}\{ v_1, \cdots , v_n \} とおく。特に {v1,,vm}\{ v_1 , \cdots , v_m \}WW の基底となるように取る。

このとき {[vm+1],,[vn]}\{ [v_{m+1}], \cdots , [v_n] \}V/WV/W の基底になることを示す。

  • 線型独立であること

実数 cm+1,,cnc_{m+1} , \cdots , c_ncm+1[vm+1]++cn[vn]=0 c_{m+1} [v_{m+1}] + \cdots + c_n [v_n] = 0 を満たすとする。

このとき [cm+1vm+1++cnvn]=0 [c_{m+1} v_{m+1} + \cdots + c_n v_n] = 0 より cm+1vm+1++cnvnW c_{m+1} v_{m+1} + \cdots + c_n v_n \in W である。

WW の基底は {v1,,vm}\{ v_1 , \cdots , v_m \} であるため cm+1vm+1++cnvn=0 c_{m+1} v_{m+1} + \cdots + c_n v_n = 0 である。{vm+1,,vn}\{ v_{m+1} , \cdots , v_n \} は線型独立であるため cm+1==cn=0c_{m+1} = \cdots = c_n = 0 であるため {[vm+1],,[vn]}\{ [v_{m+1}] , \cdots , [v_n] \} は線型独立である。

  • V/WV/W を貼ること

V/WV/W の元を任意に取る。これが vVv \in V により [v][v] と表されたとする。

v=a1v1++anvn v = a_1 v_1 + \cdots + a_n v_n と表されるとする。

[v1]=0,,[vm]=0[v_1] = 0 , \cdots , [v_m] = 0 であることに注意すると [v]=[a1v1++anvn]=a1[v1]++am[vm]+am+1[vm+1]++an[vn]=am+1[vm+1]++an[vn]\begin{aligned} [v] &= [a_1 v_1 + \cdots + a_n v_n]\\ &= a_1 [v_1] + \cdots + a_m [v_m] \\ &\quad + a_{m+1} [v_{m+1}] + \cdots + a_n [v_n]\\ &= a_{m+1} [v_{m+1}] + \cdots + a_n [v_n] \end{aligned} となるため,V/WV/W を貼ることが示された。

以上より V/WV/W の基底として {[vm+1],,[vn]}\{ [v_{m+1}] , \cdots, [v_n] \} を取ることができる。ゆえに dimV/W=nm=dimVdimW \dim V/W = n-m = \dim V - \dim W である。

直和との相性もよいです。これについてはまた今度……。