射影空間のハウスドルフ性・コンパクト性~商位相空間

定義

Rn+1\{O}\mathbb{R}^{n+1} \backslash \{ O \} に次のように同値関係 \sim を定める。

x=(x0,,xn),y=(y0,,yn)x = (x_0 , \cdots , x_n) , y = (y_0 , \cdots , y_n) に対して すべての i に対して xi=cyi (c0)    xy\begin{aligned} &\text{すべての} \ i \ \text{に対して} \ x_i = c y_i \ (c \neq 0) \\ &\iff x \sim y \end{aligned}

この同値関係による商 (Rn+1\{O})/(\mathbb{R}^{n+1} \backslash \{ O \}) / \sim射影空間 RPn\mathbb{R} P^nと定義する。

この記事では射影空間の位相空間的性質を調べていきます。

位相空間論への第一歩~開集合・閉集合について

ここでの議論は多様体の議論でも関連してきます。

射影空間の位相構造

定理

射影空間はコンパクトかつハウスドルフな位相空間である。

商写像と商位相

定義

位相空間 XXXX 上の同値関係 \sim があるとする。

商集合 X=X/\overline{X} = X / \sim への自然な写像 x[x]x \mapsto [x]π\pi とする。これを商写像という。

ここで O={VXπ1(V) は X の開集合} \mathfrak{O} = \{ V \subset \overline{X} \mid \pi^{-1} (V) \ \text{は} \ X \ \text{の開集合} \} と定義すると,X\overline{X}O\mathfrak{O} を開集合系とする位相空間になる。これを商位相空間という。

また,このとき π\pi連続写像になる。

射影空間の場合

定理

射影空間は上記の方法によって商位相空間になる。

例として RP2\mathbb{R}P^2 の開集合の例を見てましょう。

U0={[x0:x1:x2]x00} U_0 = \{ [x_0 : x_1 : x_2] \mid x_0 \neq 0 \} と定義すると, π1(U0)={(x0,x1,x2)x00} \pi^{-1} (U_0) = \{ (x_0,x_1,x_2) \mid x_0 \neq 0 \} となり R3\mathbb{R}^3 の開集合である。

よって π1(U0)\pi^{-1} (U_0) は開集合になる。

SnS^n との関係

原理

RPn\mathbb{R}P^nRn+1\{O}\mathbb{R}^{n+1} \backslash \{ O \}SnS^n に取り換えて定義しても良い。

商位相空間の普遍性

上の原理の証明には,商位相空間に関する次の定理が必要になります。

商空間の普遍性

π:XX\pi : X \to \overline{X} を自然な商写像とする。YY を位相空間として,写像 f:XYf : \overline{X} \to Y を取る。

このとき,ff は連続     \iff fπf \circ \pi は連続 である。

使いやすい系

上の定理を使うことで,商位相空間から連続関数を簡単に作ることができます。

π:XX\pi : X \to \overline{X} を自然な商写像とする。

YY を位相空間として,連続関数 g:XYg : X \to Y が存在するとき,gg から連続関数 f:XYf : \overline{X} \to Y が得られる

原理の証明

定理

SnS^nnn 次元球面 Sn={xRn+1x2=1} S^n = \{ x \in \mathbb{R}^{n+1} \mid \| x \|^2 = 1 \} とする。

x2=x12++xn+12\| x \|^2 = {x_1}^2 + \cdots + {x_{n+1}}^2

SnS^n に対して xy    x=yx \sim' y \iff x = -y と同値関係を定義し,商空間 S/S / \sim' を定義する。

S/S/ \sim'RPn\mathbb{R}P^n は同相である。つまり,射影空間を考える際は,球面上で考えてもよい

証明

自然な写像を π:SnSn/\pi' : S^n \to S^n / \sim' とおく。

  1. Sn/S^n / \sim' から RPn\mathbb{R}P^n への写像
    包含写像 i:SnRn+1\{O}i : S^n \to \mathbb{R}^{n+1} \backslash \{ O \} を考えると,定理により i:Sn/Rn+1\{O}\overline{i} : S^n / \sim' \to \mathbb{R}^{n+1} \backslash \{ O \} が得られる。
    ここに π\pi を合成することで πi=Sn/RPn\pi \circ \overline{i} = S^n / \sim' \to \mathbb{R}P^n が得られる。

  2. RPn\mathbb{R}P^n から Sn/S^n / \sim' への写像
    f:Rn+1\{O}Snf : \mathbb{R}^{n+1} \backslash \{ O \} \to S^nf(x)=xxf (x) = \dfrac{x}{\| x \|} と定義するとこれは連続関数である。
    1 と同様にして πf:RPnSn/\pi' \circ \overline{f} : \mathbb{R}P^n \to S^n / \sim' を得る。

1,2 で得られた写像は互いに逆写像であるため,同相が得られた。

SnS^n を用いた RPn\mathbb{R}P^n の性質の証明

以下,商 SnRPnS^n \to \mathbb{R} P^nπ\pi で書くことにします。

コンパクト性

定理

射影空間はコンパクトである。

コンパクト・点列コンパクトの意味

証明

RPn=λΛUλ \mathbb{R} P^n = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda} と被覆を取る。

ここで Vλ=π1(Uλ)V_{\lambda} = \pi^{-1} (U_{\lambda}) とおく。これは被覆 Sn=λΛVλ S^n = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} V_{\lambda} を与える。

ここで SnS^n はコンパクトであったため,有限個の λn\lambda_n が得られて Sn=i=1nVλi=i=1nπ1(Uλi) S^n = \bigcup_{i=1}^n V_{\lambda_i} = \bigcup_{i=1}^n \pi^{-1} (U_{\lambda_i}) となる。

こうして RPn=i=1nUλi \mathbb{R}P^n = \bigcup_{i=1}^n U_{\lambda_i} を得る。

一般に位相空間 XX がコンパクトであれば,商位相空間 X/X/\sim もコンパクトであることを示すことができます。

ハウスドルフ性

定理

射影空間はハウスドルフである。

ハウスドルフ空間

証明

x1,x2RPnx_1,x_2 \in \mathbb{R}P^nx1x2x_1 \neq x_2 となるように取る。

π1(xi)={x~i,x~i} (i=1,2)\pi^{-1} (x_i) = \{ \tilde{x}_i , - \tilde{x}_i \} \ (i = 1,2) となるもので x~iSn\tilde{x}_i \in S^n が存在し,x~1±x~2\tilde{x}_1 \neq \pm \tilde{x}_2 を満たす。

SnS^n はハウスドルフであるため,±xi\pm x_i の開近傍 Ui±U_{i}^{\pm} があって,U1±U2±=U_1^{\pm} \cap U_2^{\pm} = \emptyset となる。(複号は任意)

ここで U1=U1+U1U_1 = U_1^+ \cup U_1^-U2=U2+U2U_2 = U_2^+ \cup U_2^- とおくと,U1U2=U_1 \cap U_2 = \emptyset である。

Vi=π(Ui)V_i = \pi (U_i) とすると,ViV_ixix_i の開近傍であって,V1V2=V_1 \cap V_2 = \emptyset となる。

こうしてハウスドルフ性が示された。

一般論

商位相空間がハウスドルフになる分かりやすい条件があります。

定理

位相空間 XX について,π:XX/\pi : X \to X/\sim は開写像であるとする。(開集合 UU に対して π(U)\pi (U) は開)

このとき,次は同値である。

  1. Δ={(x1,x2)x1x2}\Delta = \{ (x_1 , x_2) \mid x_1 \sim x_2 \}X×XX \times X の閉集合である。
  2. X/X/\sim はハウスドルフ空間である。
証明

121 \Longrightarrow 2

2点 x1,x2X/\overline{x_1} , \overline{x_2} \in X / \sim を取る。x1x2\overline{x_1} \neq \overline{x_2} とする。このとき x1x2x_1 \nsim x_2 であるため,(x1,x2)Δc(x_1 , x_2) \in \Delta^cc{}^c は補集合)となる。

Δc\Delta^c は開集合になるため,ある開集合 UX×XU \subset X \times X であって (x1,x2)UΔc(x_1,x_2) \in U \subset \Delta^c というものが存在する。このとき U=U1×U2U = U_1 \times U_2U1,U2U_1 , U_2XX の開集合) と表される。

UiU_ixix_i の開近傍であり,π(U1)π(U2)=\pi (U_1) \cap \pi (U_2) = \emptyset となる。こうして X/X / \sim はハウスドルフであることがわかる。

212 \Longrightarrow 1

逆にたどればよい。

商位相はいろいろ条件を追加しなければ大変です。ハウスドルフ性がいい例です。