位相空間論への第一歩~近傍系について

近傍

XX を位相空間とする。XX の部分集合 VV近傍 であるとは,xxVV の内部にあること,つまり xVx \in V^{\circ} であることである。

xx の近傍全体の集合を xx の近傍系 という。

位相空間とは,点と点の近さが定められている集合といえます。近傍とは,その点に十分近い点の集合です。この記事では位相空間論の重要概念である近傍・近傍系を解説します。

位相空間に関連する記事については

をご覧ください。

モチベーション

ε\varepsilon-δ\delta 論法について思い出しましょう。

関数 ffx=ax = a で連続であるとは,任意の ε\varepsilon に対して,ある δ\delta があり,f1(U(f(a),ε))U(a,δ)f^{-1} (U(f(a) , \varepsilon)) \subset U(a , \delta) を満たすことである。

U(a,r)U(a,r) とは aa 中心の半径 rr の球

関数の連続性とは,その点を含む開近傍によって記述されます。

開集合系を定義したように「近傍系」を定義しましょう。

近傍

XX を位相空間とする。XX の部分集合 VV近傍 であるとは,xxVV の内部にあること,つまり xVx \in V^{\circ} であることである。

xx の近傍全体の集合を xx の近傍系 という。

近傍の例

R\mathbb{R}

位相空間 R\mathbb{R} を考えます。(開集合は通常の意味での開集合とします。)

  • [0,2][0,2]11 の近傍です。
  • [0,1][0,1]11 の近傍ではありません。
  • Q\mathbb{Q}11 の近傍ではありません。(Q\mathbb{Q} の内部は空集合)

R2\mathbb{R}^2

位相空間 R2\mathbb{R}^2 を考えます。

  • (a,b)R(a,b) \in \mathbb{R} に対して U((a,b),ε)={(x,y)(xa)2+(yb)2<ε} U((a,b),\varepsilon) = \{ (x,y) \mid \sqrt{(x-a)^2 + (y-b)^2} <\varepsilon \} と定義すると,これは近傍です。

  • (2,4)(2,4) に対して {(x,y)y=x2} \{ (x,y) \mid y = x^2 \} は近傍ではありません。(これもまた内部が空集合です)

近傍系の特徴付け

近傍系は次のような性質を持ちます。

近傍系の特徴付け

xx の近傍系を V(x)\mathscr{V} (x) と書くと次が成立する。

  1. xx の近傍は xx を含む:
    UV(x)xUU \in \mathscr{V} (x) \Rightarrow x \in U
  2. 近傍 VV を含む UU も近傍になる:
    UXU \subset XVV(x)V \in \mathscr{V} (x) について VUUV(x)V \subset U \Rightarrow U \in \mathscr{V} (x)
  3. 近傍の共通部分もまた近傍:
    U1,,UnV(x)i=1nUiV(x)U_1 , \cdots , U_n \in \mathscr{V} (x) \Rightarrow \displaystyle \bigcap_{i=1}^n U_i \in \mathscr{V} (x)
  4. UUxx の近傍であれば,任意の yUy \in U に対して yy の近傍 VV があって,VVxx の開近傍にもなる:
    UV(x)U \in \mathscr{V} (x)yUy \in U に対して,ある VV(y)V \in \mathscr{V} (y) があって VV(x)V \in \mathscr{V} (x) となる。

逆に,一般に集合 XX の部分集合系 V(x)\mathscr{V} (x) が上の 1~4 を満たすとき V(x)\mathscr{V} (x) を近傍系といいます。

近傍系から位相空間が定まる

ここまでは開集合から近傍系を定めました。

ここで距離空間の開集合の定義を思い出すと,近傍を用いて定義されていたことがわかります。

ここから近傍系から開集合を定めることができるのではないかと分かりますね。

定理

集合 XX は位相空間であるかどうか分かっていないものとする。

XX の各元 xx に近傍系 V(x)\mathscr{V} (x) が定義されているとき,その近傍系から XX の開集合系が自然に定まる。

よって,近傍系の定義された集合は位相空間になる。

位相空間論への第一歩~開集合・閉集合について例2で距離空間から開集合系を定めました。それに習って開集合を定めてみましょう。

証明

XX の部分集合 UU が次の条件

()(\ast):任意の xUx \in U に対して,ある VV(x)V \in \mathscr{V} (x) があり,VUV \subset U となる

を満たすとき,UU は開集合であると定義する。

XX の開集合を全て集めた部分集合族を O\mathfrak{O} とすると, O\mathfrak{O} が実際に開集合の公理を満たすを確認する。

  1. XX\emptyset が開集合であること

XX が開集合であることは明らか。

\emptyset には元が含まれないため,自動的に条件 ()(\ast) が満たされる。よって開集合になる。(注:前提が偽であれば,命題は真であることを思い出そう)

  1. U1U_1U2U_2 が開集合のとき,U1U2U_1 \cap U_2 も開集合であること

xU1U2x \in U_1 \cap U_2 を任意に取る。

条件 ()(\ast) から,ある V1,V2V(x)V_1,V_2 \in \mathscr{V} (x) があって,それぞれ V1U1V_1 \subset U_1V2U2V_2 \subset U_2 となる。

ここで V=V1V2V = V_1 \cap V_2 とすると,これもまた xx の近傍になり,VU1U2V \subset U_1 \cap U_2 となる。よって U1U2U_1 \cap U_2 も開集合である。

  1. {Uλ}λΛ\{ U_{\lambda} \}_{\lambda \in \Lambda} が開集合であるとき,λΛUλ\displaystyle \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda} は開集合であること

xλΛUλx \in \displaystyle \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda} を任意に取る。

このとき,ある μ\mu について xUμx \in U_{\mu} となる。

ここで条件 ()(\ast) より,ある VV(x)V \in \mathscr{V} (x) があり VUμV \subset U_{\mu} である。

特に VUmuλΛUλV \subset U_{_mu} \subset \displaystyle \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda} であるため λΛUλ\displaystyle \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda} は開集合である。

今後の展望

今回の議論により,位相空間を調べるためには近傍の様子を確かめればよいことが分かります。

次回は近傍を用いて定義される特殊な位相空間を調べてみましょう。

不気味な近傍を持った位相空間を作ることもできます。