ハウスドルフ空間

定義

位相空間 XXハウスドルフ空間であるとは,任意の異なる2点 x,yXx,y \in X に対して,ある開近傍 xUx \in UyVy \in V であり UV=U \cap V = \emptyset となるものが存在することである。 ハウスドルフ空間

この記事では,位相空間論において重要なハウスドルフ空間を解説します。

ハウスドルフ空間の例

例を4つ紹介します。

Rn\mathbb{R}^n

Rn\mathbb{R}^n は(ユークリッド距離から定まる自然な位相について)ハウスドルフ空間です。

証明

x=(x1,,xn)x = (x_1, \cdots , x_n)y=(y1,,yn)y = (y_1, \cdots , y_n)Rn\mathbb{R}^n の異なる2点とする。

このときある ii に対して xiyix_i \neq y_i となる。

正の実数 ε\varepsilonε<12yixi\varepsilon < \dfrac{1}{2} |y_i - x_i| となるように取る。

U(x,ε)U(x,\varepsilon)xx の開近傍,U(y,ε)U(y,\varepsilon)yy の開近傍で,U(x,ε)U(y,ε)=U(x,\varepsilon) \cap U(y,\varepsilon) = \emptyset となる。

よって Rn\mathbb{R}^n はハウスドルフ空間である。

距離空間

Rn\mathbb{R}^n と同様に,一般の距離空間もハウスドルフ空間になることが分かります。

ハウスドルフ空間の部分空間

ハウスドルフ空間の部分空間はハウスドルフ空間になります。

部分空間

(X,O)(X,\mathfrak{O}) をハウスドルフ空間とし,YYXX の部分集合とする。 O={UYUO} \mathfrak{O} ' = \{ U \cap Y \mid U \subset \mathfrak{O} \} とすると (Y,O)(Y,\mathfrak{O}') は位相空間になるのだった。

y,yYy,y' \in Y を異なる2点とする。

y,yXy,y' \in X でもあるため,XX のハウスドルフ性から,開集合 U,UU,U' であって yUy \in UyUy' \in U'UU=U \cap U' = \emptyset となるものが存在する。

ここで UYU \cap YUYU' \cap Y とすると,これらは y,yy,y'YY における開近傍であり,共通部分は空になる。

よって YY はハウスドルフ空間である。

SnS^n

nn 次元球面 Sn={(x1,,xn+1)x12++xn+12=1} S^n = \{ (x_1 , \cdots , x_{n+1}) \mid {x_1}^2 + \cdots + {x_{n+1}}^2 = 1 \} Rn+1\mathbb{R}^{n+1} の部分空間としてハウスドルフになります。

ハウスドルフ空間の積空間

ハウスドルフ空間の積空間もまたハウスドルフ空間です。

積位相

(X,O)(X,\mathfrak{O})(Y,O)(Y,\mathfrak{O}') をハウスドルフ空間とする。

(x,y)(x,y)(x,y)(x',y')X×YX \times Y の異なる2点とする。

xxx \neq x' のときを考える。

このとき xx の開近傍 UUxx' の開近傍 UU' であって UU=U \cap U' = \emptyset となるものが存在する。

ここで yy の開近傍 VVyy' の開近傍 VV' を任意に取ると,U×VU \times VU×VU' \times V' はそれぞれ (x,y)(x,y)(x,y)(x',y') の開近傍であり,U×VU×V=U \times V \cap U' \times V' = \emptyset を満たす。

yyy \neq y' のときも同様に議論すると開近傍を取ることができる。

ハウスドルフではない例

例を3つ紹介します。

密着位相

集合 XX を考えます。密着位相とは,開集合系が {,X}\{ \emptyset , X \} となるものです。

任意の xXx \in X の開近傍は XX ただ1つであるため,どのように異なる2点を選んでも,それらの開近傍は共通部分を持ちます。

補有限位相

補有限位相の定義を思い出しましょう。

定義(補有限位相)

無限集合 XX に対して,有限集合全体を閉集合系とする位相構造を入れる。

これを補有限位相という。

補有限位相はハウスドルフではありません。

証明

補有限位相における開集合 OO は,OcO^c が有限となる XX の部分集合である。

x,yx,yXX の異なる2点とする。

xx の開近傍 UxU_xyy の開近傍 UyU_y を任意に取る。

UxUyU_x \cap U_y \neq \emptyset を示す。

(UxUy)c=UxcUyc(U_x \cap U_y)^{c} = {U_x}^c \cup {U_y}^c である。Uxc{U_x}^cUyc{U_y}^c は有限集合であるため (UxUy)c(U_x \cap U_y)^c は有限集合となる。

XX は無限集合であるため (UxUy)cX(U_x \cap U_y)^c \neq X である。つまり UxUyU_x \cap U_y \neq \emptyset である。

よって補有限位相はハウスドルフではない。

Rn\mathbb{R}^n

開集合系の定め方を変えると,Rn\mathbb{R}^n をハウスドルフ空間ではないようにできます。

簡単のために R2\mathbb{R}^2 で考えてみましょう。

ff を二変数の多項式とする。

D(f)={(x,y)f(x,y)0} D(f) = \{ (x,y) \mid f(x,y) \neq 0 \} と定義し, O={D(f)f は二変数多項式} \mathfrak{O} = \{ D(f) \mid f \ \text{は二変数多項式} \} を開集合系にする位相空間 (R2,O)(\mathbb{R}^2 , \mathfrak{O}) はハウスドルフではない。

そもそも O={D(f)f は二変数多項式} \mathfrak{O} = \{ D(f) \mid f \ \text{は二変数多項式} \} が開集合系を成すこと自体は確かめてみてください。

証明

(1,0)(1,0)(0,1)(0,1) の2点を分ける開集合がないことを確認する。

(1,0)(1,0) の開集合を D(f1)D(f_1)(0,1)(0,1) の開集合を D(f2)D(f_2) と取る。D(f1)D(f2)D(f_1) \cap D(f_2) \neq \emptyset を示す。

f1(x,0)f_1 (x,0)xx の多項式になる。nn 次であるとすると,その解は高々 nn 個である。

同じく xx の多項式 f2(x,0)f_2 (x,0)mm 次とすると,その解は高々 mm 個である。

よって,f1(x,0)=0f_1 (x,0) = 0f2(x,0)=0f_2 (x,0) = 0 のどちらかを満たす実数は有限個しかない。

一方,R\mathbb{R} 自体は無限集合であるため, {f1(x0,0)0f2(x0,0)0 \begin{cases} f_1 (x_0,0) \neq 0\\ f_2 (x_0,0) \neq 0 \end{cases} となる x0x_0 が存在する。

こうして x0D(f1)D(f2)x_0 \in D(f_1) \cap D(f_2) となり,(R2,O)(\mathbb{R}^2 , \mathfrak{O}) はハウスドルフ空間ではないことが分かる。

n=1n = 1 のとき,この位相は R\mathbb{R} における補有限位相となります。

ハウスドルフ空間にまつわる定理

最後にハウスドルフ空間にまつわる定理をいくつか紹介しましょう。

ハウスドルフ空間のコンパクト部分集合は閉集合

定理

ハウスドルフ空間のコンパクト部分集合は閉集合になる。

コンパクト・点列コンパクトの意味

証明

ハウスドルフ空間を XX,コンパクト部分集合を KK とおく。

KcK^c が開集合であることを示せばよい。

yKcy \in K^c を任意に取る。yy の開近傍で KcK^c に含まれるものの存在を示せばよい。

xKx \in K を任意に取る。XX はハウスドルフ空間であるため,xx の開近傍 UxU_xyy の開近傍 VxV_x であって UxVx=U_x \cap V_x = \emptyset となるものが取れる。

このように各 xKx \in K に対して UxU_xVxV_x が取れる。

特に KxKUx K \subset \bigcup_{x \in K} U_x となる。KK はコンパクトであるため,有限個の xiK (1in)x_i \in K \ (1 \leqq i \leqq n) があって, Ki=1nUxi K \subset \bigcup_{i=1}^n U_{x_i} となる。

よって i=1nVxiKc \bigcap_{i=1}^n V_{x_i} \subset K^c であって,さらに yi=1nVxi\displaystyle y \in \bigcap_{i=1}^n V_{x_i} となる。

つまり i=1nVxi\displaystyle \bigcap_{i=1}^n V_{x_i}yy の開近傍であって KcK^c に含まれることが分かり,KcK^c が開集合であることが分かった。

対角線集合は閉集合になる

定理

XX がハウスドルフ空間であるとする。

このとき ΔX={(x,x)xX} \Delta X = \{ (x,x) \mid x \in X \} X×XX \times X の閉集合である。

ΔX\Delta X対角線集合といいます。

証明

(x1,x2)(ΔX)c(x_1,x_2) \in (\Delta X)^c を取る。

x1xx_1 \neq xx2xx_2 \neq x であるため,x1x_1 の開近傍 U1U_1x2x_2 の開近傍 U2U_2 であって U1U2=U_1 \cap U_2 = \emptyset となるものがある。

このとき U1×U2U_1 \times U_2(x1,x2)(x_1 , x_2) の開近傍になる。

(y1,y2)U1×U2(y_1 , y_2) \in U_1 \times U_2 を任意に取る。ここで U1U2=U_1 \cap U_2 = \emptyset であったため,y1y2y_1 \neq y_2 になる。

ここから U1×U2(ΔX)cU_1 \times U_2 \subset (\Delta X)^c となる。こうして (ΔX)c(\Delta X)^c は開集合,つまり ΔX\Delta X は閉集合である。

ハウスドルフ空間は非常に扱いやすい対象です。