線型性は「和」と「スカラー倍」に分割して証明をします。
和
証明
⟨x,z⟩+⟨y,z⟩=41(∥x+z∥2+∥y+z∥2−∥x−z∥2−∥y−z∥2)=81(∥x+y+2z∥2+∥x−y∥2−∥x+y−2z∥2−∥x−y∥2)=81(∥x+y+2z∥2−∥x+y−2z∥2)=21⟨x+y,2z⟩
y=0 を代入することで ⟨x,z⟩=21⟨x,2z⟩ となる。
この x を x+y に戻すことで
⟨x+y,z⟩=⟨x,z⟩+⟨y,z⟩
を得る。
スカラー倍の準備
補題
極限と内積は入れ替えることができる。
つまり,x=n→∞limxn であれば
⟨x,y⟩=n→∞lim⟨xn,y⟩
が成り立つ。
証明
an=⟨xn,y⟩,a=⟨x,y⟩ とする。
和で分かれることは証明したため
∣a−an∣=∣⟨x−xn,y⟩∣=41∣∣∥x−xn+y∥2−∥x−xn−y∥2∣∣=41∣∥x−xn+y∥−∥x−xn−y∥∣×(∥x−xn+y∥+∥x−xn−y∥)
ここで三角不等式から
∥x−xn+y∥≦∥2(x−xn)∥+∥−(x−xn)+y∥
より
∥x−xn+y∥−∥x−xn−y∥≦2∥x−xn∥
となる。
こうして
∣a−an∣≦21∥x−xn∥(∥x−xn+y∥+∥x−xn−y∥)
となる。
n→∞ で ∥x−xn∥→0 であるため,∣a−an∣→0 である。
こうして証明された。
不等式評価を元に 0 に収束することを確認する方法は頻繁の手法です。
スカラー倍の証明
証明
和についての線型性を用いることで,任意の整数 n について
⟨nx,y⟩=n⟨x,y⟩
となる。
また,任意の整数 m について
⟨x,y⟩=m⟨mx,y⟩
となるため,これら2つを合わせると,任意の有理数 r に対して
⟨rx,y⟩=r⟨x,y⟩
となる。
さて,実数 a を任意に取ると,ある有理数列 {an} があって a=n→∞liman となる。
前の補題を用いると
⟨ax,y⟩=n→∞lim⟨anx,y⟩=n→∞liman⟨x,y⟩=a⟨x,y⟩
を得る。
この証明のように「有理数で成立することを確認して極限操作で実数での成立を確認する」方法は,大学数学においてしばしば用いられます。