第5問
正の整数 n に対し,n 以下で n と互いに素であるような正の整数の総和を S(n) とする。
例えば,S(1)=1,S(5)=1+2+3+4=10,S(6)=1+5=6 である。
以下の問いに答えよ。
(1) S(1024) を求めよ。
(2) m=20212021 とするとき,m2S(m) の値を求めよ。
(3) S(n) が偶数となるような 100 以下の正整数 n の総和を求めよ。
第5問は整数の問題です。
まずは簡単な2のべき乗のケースを考えます。2のべき乗と互いに素な整数は,その整数以下の奇数になります。
第5問(1)
1024=210 であるから,求めるものは 1024 以下の奇数の正整数の総和である。したがって
S(1024)=k=1∑512(2k−1)=512⋅513−512=262144
が得られる。
解
262144
次は2つの素数の積の場合を計算します。補集合のアイデアをうまく活用します。
2021 と互いに素である整数は,43 でも 47 割り切れない整数になります。そのため 2021 以下の整数で 43 か 47 で割り切れる整数の集合を持ってきて,これの補集合を考えればよいのです。
20212021 以下の整数のうち 43 で割り切れるもの全体の集合を P,47 で割り切れるもの全体の集合を Q としましょう。
このとき 2021 と互いに素ではない整数の集合は,P∪Q です。したがって P∪Q の要素をすべて足した数を,1 から 20212021 まで足した数から引けば求める数がわかりますね。
P∪Q の要素をすべて足した数は P の要素をすべて足した数と Q の要素をすべて足した数から,重複である P∩Q の要素をすべて足した数を引けば得られます。
第5問(2)
p=43,q=47,n=2021 おく。m=(pq)n 以下の正整数全体の集合を U,m 以下の正整数のうち p で割り切れるもの全体の集合を P,m 以下の正整数のうち q で割り切れるもの全体の集合を Q とする。また,整数の集合 X に対し,X の要素の総和を s(X) とする。このとき
S(m)=s(U)−s(P)−s(Q)+s(P∩Q)=k=1∑pnqnk−pk=1∑pn−1qnk−qk=1∑pnqn−1k+pqk=1∑pn−1qn−1k=21pnqn(pnqn+1)−2ppn−1qn(pn−1qn+1)−2qpnqn−1(pn−1qn+1)+2pqpn−1qn−1(pn−1qn−1+1)=21pnqn(pn−pn−1)(qn−qn−1)=21m2(1−p1)(1−q1)
よって
m2S(m)=21⋅4342⋅4746=2021966
が得られる。
解
2021966
実はより一般的に S(n) を計算することができる公式を得ることができます。
(2) の答えをよく見てみましょう。分母は 2021 になっていますね。分子を見てみましょう。966=21932=242⋅46 となっています。これらを踏まえると (2) の答えが 21⋅(1−431)⋅(1−471) であることに気付くのではないでしょうか。
ここでオイラーのファイ関数 ϕ(n) を用いると S(n)=2nϕ(n) となるのではないかと予想できます。そしてこれは実際に正しいのです。
オイラーのファイ関数に馴染みがない人は オイラーのファイ関数のイメージ をチェックしてください。
第5問(1)(2) 別解
n,k(k<n) が互いに素のとき,互除法より n,n−k もまた互いに素である。よって
2S(n)=21≤k≤ngcd(k,n)=1∑k=1≤k≤ngcd(k,n)=1∑k+1≤k≤ngcd(k,n)=1∑(n−k)=1≤k≤ngcd(k,n)=1∑n=nϕ(n)
より S(n)=2nϕ(n) を得る。
(1)
S(1024)=21024ϕ(1024)=512⋅1024⋅(1−21)=262144
(2)
S(m)=2mϕ(m)=2m2⋅(1−431)⋅(1−471)
より
m2S(m)=2021966
(3) は別解で述べた「公式」を用いて計算をします。細かい場合分けをキチンとやることが必要になります。
第5問(3)
n の素因数分解を n=p1a1p2a2⋯pkak (p1<p2⋯<pk)
とする。このとき
S(n)=2n(p1a1−p1a1−1)(p2a2−p2a2−1)⋯(pkak−pkak−1)
である。
S(n) が偶数となるための必要十分条件は,上式の右辺の分子を 4 で割り切れることである。
- n=2 のとき S(2)=1 より奇数である。
- n が 4 以上の 2 べきのとき n は 4 で割り切れるから S(n) は偶数である。
- n が 2 べきでない偶数のとき n はある奇素数 pi をもつ。このとき n(piai−piai−1) は 4 の倍数であるため S(n) は偶数である。
- n が二つ以上の異なる奇素数 pi,pj を持つとき (piai−piai−1)(pjaj−pjaj−1) は 4 の倍数であるため S(n) は偶数である。
- n が p≡3(mod4) なる素数 p と正整数 k を用いて n=pk となるとき,pk−pk−1=pk−1(p−1) は2でちょうど1回割り切れる。S(n) の分子 p2k−1(p−1) は4の倍数にならないため,S(n) は奇数になることが分かる。
- n が p≡1(mod4) なる素数 p と正整数 k を用いて n=pk となるとき,pk−pk−1=pk−1(p−1) は4の倍数になるため,S(n) は偶数になることが分かる。
- n=1 のとき S(1)=1 より奇数である。
したがって S(n) が奇数になる 100 以下の正整数 n は 1,2,3,7,9,11,19,23,27,31,43,47,49,59,67,71,79,81,83 なので,求める答えは k=1∑100k からこれらの総和を引いた 4338 である。
オイラーのファイ関数の他にも整数論で重要な関数は多くあります。例えば下の記事で紹介されているメビウス関数などがあります。
メビウスの反転公式の証明と応用
また4で割って1余る素数と3余る素数で場合分けをしました。問題とは関係ないですが,4で割った余りで素数を分類することは,かなり大きな意義があります。
例えば
フェルマーの二平方和定理
という重要な定理があります。これは4で割って 1余る素数は,2つの平方数の和で表されることを主張しています。この定理は
ガウス整数
の集合で「素数」を考えるときにも関係してきます。興味のある人は勉強してみてください。