タンジェントの加法定理とその拡張

タンジェントの加法定理

tan(α+β)=tanα+tanβ1tanαtanβ\tan (\alpha+\beta)=\dfrac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}

tan(αβ)=tanαtanβ1+tanαtanβ\tan (\alpha-\beta)=\dfrac{\tan\alpha-\tan\beta}{1+\tan\alpha\tan\beta}

(ただし,tan\tan の中身が全て π2\dfrac{\pi}{2} の奇数倍にならないものとする)

  • 前半は,タンジェントの加法定理に関する基礎的な説明です。
  • 後半は,nn 個の場合のタンジェントの加法定理(美しい!)です。

タンジェントの加法定理の使用例

例題

tan15\tan 15^{\circ} の値を求めよ。

解答

tan45=1\tan 45^{\circ}=1tan60=3\tan 60^{\circ}=\sqrt{3} であり,タンジェントの加法定理より,

tan15=tan(6045)=tan60tan451+tan60tan45=311+3=23\begin{aligned} \tan 15^{\circ} &=\tan (60^{\circ}-45^{\circ})\\ &=\dfrac{\tan 60^{\circ}-\tan 45^{\circ}}{1+\tan 60^{\circ}\tan 45^{\circ}}\\ &=\dfrac{\sqrt{3}-1}{1+\sqrt{3}}\\ &=2-\sqrt{3} \end{aligned}

タンジェントの加法定理は,二直線のなす角を求めるときにも活躍します。→二直線のなす角を求める2通りの方法と比較

タンジェントの加法定理の覚え方

tan(α+β)=tanα+tanβ1tanαtanβ\tan (\alpha+\beta)=\dfrac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}

tan(αβ)=tanαtanβ1+tanαtanβ\tan (\alpha-\beta)=\dfrac{\tan\alpha-\tan\beta}{1+\tan\alpha\tan\beta}

  • 「いちマイナスたんたんぶんのたんぷらすたん」などと頑張って覚えてください。

  • プラスの加法定理とマイナスの加法定理を混同しがちですが「分子の符号と同じ」と覚えるとよいでしょう(tan(α+β)\tan(\alpha+\beta) の右辺の分子にはプラス,tan(αβ)\tan(\alpha-\beta) の右辺の分子にはマイナス)。

タンジェントの加法定理の証明

サインの加法定理とコサインの加法定理を認めれば証明は簡単です。サイン,コサインの加法定理の証明も含めた詳しい解説は加法定理の証明(一般角に対する厳密な方法)を参照して下さい。

プラス側の証明

sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβcos(α+β)=cosαcosβsinαsinβ \sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta\\ \cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta

を認めれば,

tan(α+β)=sin(α+β)cos(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβcosαcosβsinαsinβ\begin{aligned} \tan(\alpha+\beta) &=\dfrac{\sin(\alpha+\beta)}{\cos(\alpha+\beta)}\\ &=\dfrac{\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta}{\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta} \end{aligned}

となり,分母分子を cosαcosβ\cos\alpha\cos\beta で割ると,上式は

sinαcosα+sinβcosβ1sinαsinβcosαcosβ=tanα+tanβ1tanαtanβ \dfrac{\frac{\sin\alpha}{\cos\alpha}+\frac{\sin\beta}{\cos\beta}}{1-\frac{\sin\alpha\sin\beta}{\cos\alpha\cos\beta}} =\dfrac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}

となる。

マイナス側の証明

プラス側と同じように証明することもできるが,プラス側の式において ββ\beta\to -\beta とすると,

tan(αβ)=tanα+tan(β)1tanαtan(β) \tan (\alpha-\beta)=\dfrac{\tan\alpha+\tan(-\beta)}{1-\tan\alpha\tan (-\beta)}

となり,これと tan(β)=tanβ\tan(-\beta)=-\tan\beta を使うことでも導出できる。

タンジェントの加法定理の拡張

高校数学で習うのは二つの角度の和,差についてのみですが,より一般に nn 個の角度の和についても美しい式が成立します。

タンジェントの加法定理(角度n個の場合)

tank=1nθk=e1e3+e5e0e2+e4\displaystyle\tan \sum_{k=1}^n\theta_k=\dfrac{e_1-e_3+e_5-\cdots}{e_0-e_2+e_4-\cdots}

ただし,eie_itanθ1,tanθ2,,tanθn\tan\theta_1,\:\tan\theta_2,\:\cdots,\:\tan\theta_nii 次の基本対称式であり,e0=1e_0=1i>ni > n のとき ei=0e_i=0 とする。

ただし,基本対称式とは「nn 個のものから ii 個選んでかけ合わせてできるもの(全部で nCi{}_n\mathrm{C}_i 通りある)を全て足しあわせたもの」です。

例えば,

  • n=2n=2 のとき, tan(θ1+θ2)=e1e0e2=tanθ1+tanθ21tanθ1tanθ2 \tan(\theta_1+\theta_2)=\dfrac{e_1}{e_0-e_2}=\dfrac{\tan\theta_1+\tan\theta_2}{1-\tan\theta_1\tan\theta_2} となり,普通の加法定理になります。

  • n=3n=3 のとき, tan(θ1+θ2+θ3)=e1e3e0e2=tanθ1+tanθ2+tanθ3tanθ1tanθ2tanθ31tanθ1tanθ2tanθ2tanθ3tanθ3tanθ1\begin{aligned} &\tan(\theta_1+\theta_2+\theta_3)\\ &=\dfrac{e_1-e_3}{e_0-e_2}\\ &=\dfrac{\tan\theta_1+\tan\theta_2+\tan\theta_3-\tan\theta_1\tan\theta_2\tan\theta_3}{1-\tan\theta_1\tan\theta_2-\tan\theta_2\tan\theta_3-\tan\theta_3\tan\theta_1} \end{aligned} となり,特に θ1+θ2+θ3=180\theta_1+\theta_2+\theta_3=180^{\circ} のときはタンジェントの美しい関係式で紹介した式: tanθ1+tanθ2+tanθ3=tanθ1tanθ2tanθ3 \tan\theta_1+\tan\theta_2+\tan\theta_3=\tan\theta_1\tan\theta_2\tan\theta_3 になります。

証明は nn に関する数学的帰納法でそれなりに簡単にできます。練習問題にどうぞ!

sinとcosについてはここまで美しい加法定理の拡張はなさそうです。