第4問
実数 a<b<c に対し,3次関数 f(x) が次の条件を満たしている。
- 3次の係数は 1 である
- a<b<c に対して f(a)=a,f(b)=b,f(c)=c を満たす
(1) f(x) を a,b,c を用いて表せ。
以下 a,b,c は
ような範囲を動くとする。
(2) (b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b) の取りうる値の範囲を求めよ。
(3) k を正の定数とする。実数 s,t が s>0,t>0,s2+t2+st=k を満たしながら動くとき,st の取りうる値の範囲を求めよ。
(4) y=f(x) と y=x に囲まれた部分の面積を S とするとき,S の取りうる値の範囲を求めよ。
第4問は不等式をからめた微分積分の問題です。
(1) は与えられた条件を満たす三次関数を求める問題です。f(a)=a から f(a)−a=0 という式を思いつけば,f(x)−x が x=a,b,c で 0 になることがわかりますね。ここで因数定理を思い出しましょう。
第4問 (1)
g(x)=f(x)−x とおくと g(a)=f(a)−a=0 となる。同様に g(b)=0,g(c)=0 である。因数定理より g(x) は (x−a),(x−b),(x−c) で割り切れる。
また f(x) が3次の係数が 1 である三次関数であり,x は一次関数であるため,g(x) は3次の係数が 1 である三次関数である。
以上より f(x)−x=g(x)=(x−a)(x−b)(x−c) と表される。ゆえに
f(x)=(x−a)(x−b)(x−c)+x=x3−(a+b+c)x2+(ab+bc+ca+1)x−abc
となる。
(2) では,条件に f(x) が極値を持たないというものが追加されます。極値を持たないことは,導関数が常に 0 以上か,常に 0 以下のときです。
今回は f(x) が三次関数であるため,導関数は二次関数ですね。ということは導関数である二次関数を調べるとよさそうです。二次関数を調べるといえば判別式です。判別式を計算し,問題文に出てくる文字式と比べてみましょう。
第4問 (2)
s=b−a,t=c−b とする。
f′=3x2−2(a+b+c)+(ab+bc+ca+1) である。3つ目の条件より f(x) は極値を持たない。すなわち f′(x) が非負もしくは非正である。f′ の最高次の係数が正であることから非負であることが従う。
したがって f′ の判別式 D について,D/4=(a+b+c)2−3(ab+bc+ca+1)≦0 が成り立つ。
(a+b+c)2−3(ab+bc+ca)=a2+b2+c2+2ab+2bc+2ca−3(ab+bc+ca)=a2+b2+c2−ab−bc−ca
一方で
(b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b)=(b2−2ab+a2)+(b2−2bc+c2)+(bc−b2−ac+ab)=a2+b2+c2−ab−bc−ca
である。
こうして (b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b)=(a+b+c)2−3(ab+bc+ca) である。判別式から得られた不等式から (a+b+c)2−3(ab+bc+ca)≦3 である。
a<b<c より (b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b)>0 である。また a,c を b に近付けることで $(b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b) を 0 にいくらでも近付けることができる。
こうして 0<(b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b)≦3 である。
後半で「a<b<c より (b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b)>0」という不等式が出ました。これだけで解答の不等式を得ることもできますが,それでは不十分です。例えば x2+1 について x2>0,1>0 より x2+1>0 という不等式を得られますが,実際 x2+1 は 1 を最小値に取ります。よって x2+1 の取りうる値として x2+1>0 は「広すぎる」のです。
同じように (b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b)>0 が「広すぎる」可能性があります。今回は a→b,c→b とすることでどれだけでも 0 に近付けられるため,「広すぎる」ことはなかったのです。同様の議論は (3) でも行うことになります。
第4問 (3)
相加平均と相乗平均の大小より,s2+t2≧2st (等号成立は s=t のとき)である。両辺に 2st を加えて s2+t2+2st≧3st となる。s2+t2+2st=k を代入すると k≧3st,すなわち st≦31k が得られる。
また,s,t>0 より st>0 である。s を 0 に近付ける(このとき t は k に近付く)と st はいくらでも 0 に近付く。
よって 0<st≦3k である。
(1) を思い出すと y=f(x) と y=x によって囲まれる部分の面積は y=(x−a)(x−b)(x−c) を x 軸によって囲まれる部分の面積と等しいです。それではその「囲まれた部分」を計算しましょう。
しかし,ただ計算するだけでは,取りうる範囲を求める際,出てくる文字が多いですね。うまく文字を置き換えて計算を楽にしたいです。さて,(2) (3) を振り返ってみましょう。それぞれ (b−a)2+(c−b)2+(b−a)(c−b),s2+t2+st という式が現れていました。これらを見比べると b−a=s,c−b=t とおくと評価が楽にできそうです。
第4問 (4)
y=f(x) と y=x によって囲まれる部分の面積 S は s=b−a,t=c−b と置くと
S=∫ac∣(x−a)(x−b)(x−c)∣dx=121(s4+2ts3+2s3t+t4)
となる。(詳しい計算過程は下記 [面積を求める計算過程] を参照)
k=s2+t2+st とすると,S=121(k2−3(st)2) となる。
(3) から k2−31k2≦k2−3(st)2<k2 である。こうして 181k2≦S<121k2 が得られる。
(2) より k は 0<k≦3 を動くから,0<S<43 の範囲を動く。
面積を計算するとき,まず a,b,c で積分をして,うまく s,t を代入するという方法もできますが,やはり計算が煩わしいです。ここで放物線と直線で囲まれた面積を高速で求める1/6公式の記事で1/6公式を証明するときの計算を見ましょう。これに習い (x−b) を基準として計算をしてみましょう。
面積を求める計算過程
a<b<c に対して,s=b−a,t=c−b と置く。
∫(x−a)(x−b)(x−c)dx=∫{(x−b)+(b−a)}(x−b){(x−b)−(c−b)}dx=∫{(x−b)3+(s−t)(x−b)2−st(x−b)}dx=41(x−b)4+31(s−t)(x−b)3−21st(x−b)2+C
であるため
∫ab(x−a)(x−b)(x−c)dx=[41(x−b)4+31(s−t)(x−b)3−21st(x−b)2]ab=−41s4+31(s−t)s3+21s3t=121(s4+2s3t)−∫bc(x−a)(x−b)(x−c)dx=−[41(x−b)4+31(s−t)(x−b)3−21st(x−b)2]bc=−(41t4+31(s−t)t3−21st3)=121(t4+2st3)
となる。こうして y=f(x) と y=x によって囲まれる部分の面積 S は
S=∫ac∣(x−a)(x−b)(x−c)∣dx=∫ab(x−a)(x−b)(x−c)dx−∫bc(x−a)(x−b)(x−c)dx=121(s4+2ts3+2s3t+t4)
となる。
すっきりと計算できましたね。