第3問
時刻 0 で点 P が xy 平面上 (0,0) にある。点 P は 1 秒ごとに次のルールに従って移動する。
点 P が (a,b) にあるとき,
- 確率 p で (a+1,b) に移動する。
- 確率 q で (a+1,b+1) に移動する。
- 確率 1−p−q で (a,b+1) に移動する。
なお,p,q,1−p−q は非負実数である。
整数 k,l に対して,時刻 n に点 P が (k,l) にある確率を Pn(k,l) とおく。
今,an,bn を次のように定める。
an=k=0∑nl=0∑n(k×Pn(k,l))bn=k=0∑nl=0∑n(l×Pn(k,l))
(1) P2(1,0),P2(1,1),P2(1,2) を求めよ。
(2) 0≤i≤n なる整数 i について
k=0∑nPn(i,k) を求めよ。
(3) 実数 x,y についてi=0∑ninCixiyn−iを ∑ を使わない形で表せ。
(4)
an,bn を求めよ。
第3問は点が動くタイプの問題です。移動は x 軸方向に1動く,y 軸方向に1動く,x 軸方向と y 軸方向それぞれに1動く,の3種類です。
第3問 (1)
2回の移動で座標が (1,0),(1,1),(1,2) になる移動がどの種類の移動を組み合わせたものか考える。
x 軸方向に1動く移動を A,y 軸方向に1動く移動を B,x 軸方向と y 軸方向それぞれに1動く移動を C と置く。1回目の移動が A,2回目の移動が B であるときこれを AB と書くことにすると2回の移動は AA,AB,AC,BA,BB,BC,CA,CB,CC の9種類である。
このうち2回目の移動後の座標が (1,0) になるものは存在しない。2回目の移動後の座標が (1,1) になるものは AB,BA,2回目の移動後の座標が (1,2) になるものは BC,CB である。それぞれの確率を求めて足したものが求めるものとなる。
AB(BA) になる確率は p(1−p−q),BC(CB) になる確率は q(1−p−q) であるから
P2(1,0)=0,
P2(1,1)=2p(1−p−q),
P2(1,2)=2q(1−p−q)
となる。
(2)は n 回目の移動後の x 座標が i である確率を求める問題です。移動後の x 座標の変化だけ見れば良いのでそのことに注目して計算をします。
第3問 (2)
(1)の解答中に定義した A,B,C の呼称を引き続き用いる。
x 座標が 1 増える移動は A,C,x 座標が増えない移動は B でそれぞれ確率は p+q,1−p−q である。
n 回の移動で i 回は A,C のいずれか,n−i 回は B であることが n 回の移動後の x 座標が i であることの必要十分条件である。したがって求める確率は n 回の移動で i 回は A,C のいずれか,n−i 回は B である確率である。
これは (1−p−q)n−i(p+q)inCi である。
(3) は確率の問題ではなく,恒等式の問題です。与えられた式に二項係数 nCr が含まれているので (x+y)n の形に帰着させることを目標に式変形をします。添え字を良く見ると ∑i=0nnCixiyn−i の i 番目の項に i を掛けたものが与式であることが分かるので i を登場させる方法を考えます。dxdxi=ixi−1 というお馴染みの微分の式を用いて i を与えるというのが (3) の方針です。
第3問 (3)
任意の実数 x,y に対して (x+y)n=∑i=0nnCixiyn−i である。この式を x で微分すると,左辺は
n(x+y)n−1
となり,右辺は
i=1∑nniCixi−1yn−i
となる。この式に x を掛けると
i=1∑ninCixiyn−i=x(x+y)n
を得る。i=0 の項は 0 であるから
i=1∑ninCixiyn−i=i=0∑ninCixiyn−iとなる。以上の計算から
i=0∑ninCixiyn−i=nx(x+y)n−1
となる。
(4)は n 回目の移動後の点 P の座標の期待値を求める問題です。(2),(3)で求めた式を用いて an,bn を計算するというのが一つ目の解答の方針です。
第3問 (4)
an について計算を行う。
an=k=0∑nl=0∑n(k×Pn(k,l))=k=0∑nk×(l=0∑nPn(k,l))
であり,(2)の結果から
an=k=0∑nk×(1−p−q)n−k(p+q)knCk
である。これを計算すればよいが,これは(3)で導出した式
i=0∑ninCixiyn−i=x(x+y)n
に x=p+q,y=1−p−q を代入した形である。したがって,
an=n(p+q)
である。
bn については同様の計算を p を 1−p−q に,1−p−q を p に置き換えたものに対して行えばよい。したがって
bn=n(1−p)
である。
実は(4)だけであればより簡単に求めることができます。各回の移動は互いに独立であるので,移動 n 回目移動後の座標の期待値は移動 1 回の座標の変化の期待値の n 倍となります。このことを用いた解答が次のようになります。
第3問 (4) 別解
移動 1 回の座標の変化の期待値を求める。
確率 p で x 座標が +1,確率 1−p−q で y 座標が +1,確率 q で x 座標,y 座標が +1 するため座標の変化の期待値は
(p,0)+(0,1−p−q)+(q,q)=(p+q,1−p) である。したがって求める期待値は
n×(p+q,1−p) である。
(2),(3)の式を用いるかと思いきや,このように(4)単体だけで簡単に解くことができます。実際の入試問題でも最後の問題だけよく見たらすぐに答えが出せることがあるので,問題を最後まで見ることは大事です。