入試数学コンテスト第5回第6問解答解説

第6問[複素数・積分]

第6問

ζn=cos2πn+isin2πn\zeta_n = \cos \dfrac{2\pi}{n} + i \sin \dfrac{2\pi}{n} とおく。

(1) (xy)(xζny)(xζn2y)(xζnn1y)(x-y)(x- \zeta_n y)(x - \zeta_n^2 y) \cdots (x-\zeta_n^{n-1} y) を展開せよ。

(2) p=1+52p =\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}q=152q = \dfrac{1- \sqrt{5}}{2} とおく。 pζ2nq2pζ2n2q2pζ2nn1q2 |p - \zeta_{2n} q|^2 \cdot |p - \zeta_{2n}^2 q|^2 \cdots |p - \zeta_{2n}^{n-1} q|^2 p,qp,q で表せ。

(3) 0πlog(3+2cosx)  dx \int_0^{\pi} \log (3+2\cos x) \; dx を求めよ。

(4) 正の実数 a,ba,b に対し 01log(a+bcos2πx)  dx \int_0^1 \log (a+b \cos^2 \pi x) \; dx a,ba,b で表せ。

複素数と積分の応用問題です.

前半は 11nn 乗根 ζn\zeta_n を使った計算問題で,複素数平面の理解と 11nn 乗根についての知識を問う内容となっています.

後半は一見前半とは関係のない積分の問題ですが,実は区分求積法によって前半と結びついています.

(1)

まずは (1) です.nn が小さい場合で実験してみると (xy)(x+y)=x2y2(x-y)(x+y)=x^2-y^2 (xy)(xωy)(xω2y)=x3y3(x-y)\left(x-\omega y\right)\left(x-\omega^2 y\right)=x^3-y^3 (xy)(xiy)(x+y)(x+iy)=x4y4(x-y)(x-iy)(x+y)(x+iy)=x^4-y^4となり,答えはxnynx^n-y^nになるのではないかと予想できます.nn が小さい場合から結果を予想して数学的帰納法で示すというのはよくある手法ですが,試してみると帰納法の仮定をうまく使えないことがわかります.

そこで見方を逆転させて,xnynx^n-y^n を因数分解して(xy)(xζny)(xζn2y)(xζnn1y)(x-y)(x- \zeta_n y)(x - \zeta_n^2 y) \cdots (x-\zeta_n^{n-1} y)になることを示す,というやり方で考えてみましょう.次数の大きい多項式を因数分解する道具として因数定理があることを思い出しておきます.

第6問(1)

yy を定数とみると,y0y \neq 0 のとき x=y,ζny,ζn2y,,ζnn1yx=y, \zeta_n y, \zeta_n^2y, \dots,\zeta_n^{n-1}yxxnn 次方程式xnyn=0x^n-y^n=0の異なる nn 個の解である.よって因数定理を繰り返し使うことでxnyn=(xy)(xζny)(xζn2y)(xζnn1y)x^n-y^n=(x-y)(x- \zeta_n y)(x - \zeta_n^2 y) \cdots (x-\zeta_n^{n-1} y)と因数分解できる.これは y=0y=0 でも正しい.

第6問(1) 別ver.

0kn10 \leq k \leq n-1 となる整数 kk について ζnk\zeta_n^k は方程式tn1=0t^n-1=0の異なる nn 個の解である.よって因数定理によりtn1=(t1)(tζn)(tζn2)(tζnn1)t^n-1=(t-1)(t-\zeta_n)(t-\zeta_n^2)\cdots(t-\zeta_n^{n-1})と因数分解できる.(y0y\neq 0 のとき)この式に t=x/yt= x/y を代入すると(xy)n1=(xy1)(xyζn)(xyζn2)(xyζnn1)\left(\frac{x}{y} \right)^n-1=\left(\frac{x}{y}-1\right)\left(\frac{x}{y}-\zeta_n\right)\left(\frac{x}{y}-\zeta_n^2\right)\cdots\left(\frac{x}{y}-\zeta_n^{n-1}\right)となり,これに yny^n をかけることでxnyn=(xy)(xζny)(xζn2y)(xζnn1y)x^n-y^n=(x-y)(x- \zeta_n y)(x - \zeta_n^2 y) \cdots (x-\zeta_n^{n-1} y)となる(これは y=0y=0 でも正しい).

xnynx^n-y^n11nn 乗根を使って因数分解できる,という事実は覚えておくといいかもしれません.

(2)

(2) でポイントとなるのは ζn\zeta_n の次の性質です.(→1のn乗根の性質と複素数平面

  • 複素共役は ζnk=ζnk=ζnnk\overline{\zeta_n^k} = \zeta_n^{-k} = \zeta_n^{n-k} となる.
  • 1,ζn,ζn2,,ζnn11, \zeta_n, \zeta_n^2,\dots,\zeta_n^{n-1} は単位円周に内接する正 nn 角形の頂点である.

(1) の結果を使うことを考えると,1つ目の性質を使って pζ2nkq2=(pζ2nkq)(pζ2nkq)=(pζ2nkq)(pζ2n2nkq) \begin{aligned} |p - \zeta_{2n}^k q|^2&=(p-\zeta_{2n}^kq)\overline{(p-\zeta_{2n}^kq)}\\ &=(p-\zeta_{2n}^kq)(p-\zeta_{2n}^{2n-k}q) \end{aligned} と変形し,積pζ2nq2pζ2n2q2pζ2nn1q2|p - \zeta_{2n} q|^2 \cdot |p - \zeta_{2n}^2 q|^2 \cdots |p - \zeta_{2n}^{n-1} q|^2を (1) の式に近づけていくのが自然です.

第6問(2)

2n2n の場合の (1) の結果に x=p,y=qx=p,y=q を代入するとp2nq2n=(pq)(pζ2nq)(pζ2n2q)(pζ2n2n1q)p^{2n}-q^{2n}=(p-q)(p- \zeta_{2n} q)(p - \zeta_{2n}^2 q) \cdots (p-\zeta_{2n}^{2n-1} q)が成り立つ.1kn11 \leq k \leq n-1 について右辺の pζ2nkqp-\zeta_{2n}^kqpζ2n2nkqp-\zeta_{2n}^{2n-k}q をペアにして考えると,pζ2nkq=pζ2n2nkq\overline{p-\zeta_{2n}^kq}=p-\zeta_{2n}^{2n-k}qとなるから (pq)(pζ2nq)(pζ2n2q)(pζ2n2n1q)=(pq)(p+q){(pζ2nq)(pζ2n2n1q)}{(pζ2n2q)(pζ2n2n2q)}{(pζ2nn1q)(pζ2nn+1q)}=(p2q2)pζ2nq2pζ2n2q2pζ2nn1q2 \begin{aligned} &(p-q)(p- \zeta_{2n} q)(p - \zeta_{2n}^2 q) \cdots (p-\zeta_{2n}^{2n-1} q)\\ &=(p-q)(p+q) \cdot \left\{(p-\zeta_{2n} q)(p-\zeta_{2n}^{2n-1} q)\right\}\\ &\quad \left\{(p-\zeta_{2n}^2 q)(p-\zeta_{2n}^{2n-2} q)\right\}\cdot \cdots \cdot \left\{(p-\zeta_{2n}^{n-1} q)(p-\zeta_{2n}^{n+1} q)\right\}\\ &=(p^2-q^2)|p - \zeta_{2n} q|^2 \cdot |p - \zeta_{2n}^2 q|^2 \cdots |p - \zeta_{2n}^{n-1} q|^2 \end{aligned} となる.よって pζ2nq2pζ2n2q2pζ2nn1q2=p2nq2np2q2=15(p2nq2n) \begin{aligned} &|p - \zeta_{2n} q|^2 \cdot |p - \zeta_{2n}^2 q|^2 \cdots |p - \zeta_{2n}^{n-1} q|^2\\ &=\frac{p^{2n}-q^{2n}}{p^2-q^2}\\ &=\frac{1}{\sqrt{5}}(p^{2n}-q^{2n}) \end{aligned} である.

(3)

(3) は前半とは一見関係ないように見える積分です.しかし,このような問題では前の問題が誘導になっていることがほとんどなので,その前提で考察していきます.

前半が (3) の計算に使えるとすると,3+2cosx3+2\cos x に関係する量を前半の式から取り出せるはずです.そこで (2) の式を p=1+52p =\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}q=152q = \dfrac{1- \sqrt{5}}{2} を使って書いてみます.

絶対値を展開することでpζ2nkq2=p2+q22pqcoskπn=3+2coskπn \begin{aligned} |p - \zeta_{2n}^k q|^2&=p^2+q^2-2pq\cos \frac{k\pi}{n}\\ &=3+2\cos \frac{k\pi}{n} \end{aligned} となり,3+2cosx3+2\cos x に近い値が出てきます.すると (2) の式は(3+2cosπn)(3+2cos2πn)(3+2cos(n1)πn)\left(3+2\cos \frac{\pi}{n}\right)\left(3+2\cos \frac{2\pi}{n}\right)\cdots\left(3+2\cos \frac{(n-1)\pi}{n}\right)となります.ここで

  • 積分に log\log がついていること
  • log\log によって積が和になること
  • coskπn\cos \frac{k\pi}{n} という形

をみて区分求積法だと気づければ答えに辿り着くことができます.→区分求積法をわかりやすく【意味・例題・応用】

第6問(3)

p=1+52p =\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}q=152q = \dfrac{1- \sqrt{5}}{2}だから,p2+q2=3p^2+q^2=3pq=1pq=-1である.よって pζ2nkq2=p2+q22pqcoskπn=3+2coskπn \begin{aligned} |p - \zeta_{2n}^k q|^2&=p^2+q^2-2pq\cos \frac{k\pi}{n}\\ &=3+2\cos \frac{k\pi}{n} \end{aligned} となる.すると区分求積法により 0πlog(3+2cosx)  dx=01log(3+2cosπy)  πdy=πlimn1nk=1n1log(3+2coskπn)=πlimn1nlog((3+2cosπn)(3+2cos2πn)(3+2cos(n1)πn))=πlimn1nlog(pζ2nq2pζ2n2q2pζ2nn1q2)=πlimn1nlog(15(p2nq2n))=πlimn1n(2nlogp+log(1(q/p)2n)log5) \begin{aligned} &\int_0^{\pi} \log (3+2\cos x) \; dx\\ &=\int_0^1 \log (3+2\cos \pi y) \; \pi dy\\ &=\pi \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n-1}\log \left(3+2\cos \frac{k\pi}{n}\right)\\ &=\pi \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\log \Biggl(\left(3+2\cos \frac{\pi}{n}\right)\left(3+2\cos \frac{2\pi}{n}\right)\\ &\quad\cdots\left(3+2\cos \frac{(n-1)\pi}{n}\right)\Biggr)\\ &=\pi \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\log \left(|p - \zeta_{2n} q|^2 \cdot |p - \zeta_{2n}^2 q|^2 \cdots |p - \zeta_{2n}^{n-1} q|^2\right)\\ &=\pi \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\log \left(\frac{1}{\sqrt{5}}(p^{2n}-q^{2n})\right)\\ &=\pi \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\left(2n\log p+\log \left(1-\left(q/p\right)^{2n}\right)-\log \sqrt{5}\right)\\ \end{aligned} となる.q/p<1|q/p|< 1 に注意するとこの極限は2πlogp=2πlog1+522 \pi \log p=2 \pi \log \dfrac{1+\sqrt{5}}{2}と計算できる.以上より0πlog(3+2cosx)  dx=2πlog1+52\int_0^{\pi} \log (3+2\cos x) \; dx=2 \pi \log \dfrac{1+\sqrt{5}}{2}である.

(4)

最後の問題です.(3) と似ているため,(3) の解答を真似すれば解けそうです.(3) と同じ形にするためにまずは半角公式で cos2\cos^2cos\cos に直してみましょう.

第6問(4)

01log(a+bcos2πx)  dx=01log(a+b  cosπx+12)  dx=01log(a+b2+b2  cosπx)  dx \begin{aligned} &\int_0^1 \log (a+b \cos^2 \pi x) \; dx\\ &=\int_0^1 \log \left(a+b \;\frac{\cos \pi x + 1}{2}\right) \; dx\\ &=\int_0^1 \log \left(a+\frac{b}{2}+\frac{b}{2} \;\cos \pi x\right) \; dx \end{aligned} である.(下に続く)

(3) では a+b2,b2a+\frac{b}{2},\frac{b}{2} の部分が 3,23,2 になっていました.そこで,(3) の解答の前半が 3,23,2 ではなく a+b2,b2a+\frac{b}{2},\frac{b}{2} で通用するように (2) の p,qp,q を変更してやれば計算できることがわかります.具体的にはα2+β2=a+b2\alpha^2+\beta^2=a+\frac{b}{2}2αβ=b2-2\alpha\beta=\frac{b}{2}となるような α,β\alpha,\beta をとります.

第6問(4)続き

ここで実数 α,β\alpha,\betaα=a+a+b2\alpha = \frac{\sqrt{a}+\sqrt{a+b}}{2}β=aa+b2\beta = \frac{\sqrt{a}-\sqrt{a+b}}{2}とおくと

α2+β2=a+b2\alpha^2+\beta^2=a+\frac{b}{2}αβ=b4\alpha\beta=-\frac{b}{4} α>β|\alpha| > |\beta|を満たす.よって (3) と同様の計算で αζ2nkβ2=a+b2+b2  coskπn |\alpha - \zeta_{2n}^k \beta|^2 =a+\frac{b}{2}+\frac{b}{2} \;\cos \frac{k \pi}{n} が成り立つ.よって (3) と同様の区分求積法と極限計算により 01log(a+b2+b2  cosπy)  dy=2logα=2log(a+a+b2) \begin{aligned} &\int_0^1 \log \left(a+\frac{b}{2}+\frac{b}{2} \;\cos \pi y\right) \; dy\\ &=2\log {\alpha}\\ &=2\log \left(\frac{\sqrt{a}+\sqrt{a+b}}{2}\right) \end{aligned} となる.以上より 01log(a+bcos2πx)  dx=2log(a+a+b2) \begin{aligned} &\int_0^1 \log (a+b \cos^2 \pi x) \; dx\\ &=2\log \left(\frac{\sqrt{a}+\sqrt{a+b}}{2}\right) \end{aligned} である.

略解

(1)

xnynx^n-y^n

(2)

15(p2nq2n) \dfrac{1}{\sqrt{5}} (p^{2n} - q^{2n})

(3)

2πlog1+522 \pi \log \dfrac{1+\sqrt{5}}{2}

(4)

2log(a+a+b2) 2 \log \left( \dfrac{\sqrt{a}+\sqrt{a+b}}{2} \right)