ルジャンドル多項式の性質と計算

ルジャンドル多項式

Pn(x)=12nn!dndxn(x21)n P_n (x) = \dfrac{1}{2^n n!} \dfrac{d^n}{dx^n} (x^2-1)^n と表される多項式系をルジャンドル多項式という。

直交多項式系の代表例であるルジャンドル多項式について,4つの同値な定義(性質)を紹介します。また,実際にルジャンドル多項式を計算してみます。

ルジャンドル多項式の定義(性質)

Pn(x)P_n(x)xx についての nn 次多項式とします。

P0(x)P_0(x)P1(x)P_1(x)P2(x)P_2(x)\cdots が以下の(同値な)4つの条件のいずれか(したがって全て)を満たすとき,ルジャンドル多項式と呼びます。

  1. 漸化式
    P0(x)=1P_0(x)=1P1(x)=xP_1(x)=x,かつ n1n\geq 1 に対して (n+1)Pn+1(x)=(2n+1)xPn(x)nPn1(x) (n+1)P_{n+1}(x)=(2n+1)xP_n(x)-nP_{n-1}(x)

  2. ロドリゲスの公式 Pn(x)=12nn!dndxn(x21)n P_n(x)= \dfrac{1}{2^n n!} \dfrac{d^n}{dx^n} (x^2-1)^n

  3. 母関数 112tx+t2=n=0tnPn(x) \dfrac{1}{\sqrt{1-2tx+t^2}}=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}t^n P_n(x) ただし 0<t<10 < t < 1 とする

  4. 直交性 11Pm(x)Pn(x)dx={22m+1(m=n)0(mn) \int_{-1}^1P_m(x)P_n(x)dx=\begin{cases}\dfrac{2}{2m+1}&(m=n)\\0&(m\neq n)\end{cases} かつ,最高次の係数が正となる多項式

具体的に計算すると P0(x)=1P_0(x)=1P1(x)=xP_1(x)=xP2(x)=32x212P_2(x)=\dfrac{3}{2}x^2-\dfrac{1}{2}P3(x)=52x332xP_3(x)=\dfrac{5}{2}x^3-\dfrac{3}{2}x となります(計算は後述)。

ルジャンドル多項式の計算

低次のルジャンドル多項式が

P0(x)=1P_0(x)=1P1(x)=xP_1(x)=xP2(x)=32x212P_2(x)=\dfrac{3}{2}x^2-\dfrac{1}{2}

になることを3通りの方法で確認してみましょう。漸化式・ロドリゲスの公式・直交性の理解が深まります。

「1.漸化式」による計算
  • P0(x)=1,P1(x)=xP_0(x)=1,P_1(x)=x は定義。

  • 漸化式で n=1n=1 とすると
    2P2(x)=3xP1(x)P0(x)=3x212P_2(x)=3xP_1(x)-P_0(x)=3x^2-1
    より P2(x)=32x212P_2(x)=\dfrac{3}{2}x^2-\dfrac{1}{2}

  • ちなみに漸化式で n=2n=2 とすると
    3P3(x)=5xP2(x)2P1(x)=152x392x3P_3(x)=5xP_2(x)-2P_1(x)=\dfrac{15}{2}x^3-\dfrac{9}{2}x
    より P3(x)=52x332xP_3(x)=\dfrac{5}{2}x^3-\dfrac{3}{2}x

「2.ロドリゲスの公式」による計算

P0(x)=11×1=1 P_0(x)=\dfrac{1}{1}\times 1=1

P1(x)=12(x21)=x P_1(x)=\dfrac{1}{2}(x^2-1)'=x

P2(x)=142!{(x21)2)}=18(x42x2+1)=12(3x21)\begin{aligned} P_2(x) &= \dfrac{1}{4\cdot 2!}\{(x^2-1)^2)\}''\\ &= \dfrac{1}{8} (x^4-2x^2+1)''\\ &= \dfrac{1}{2} (3x^2-1) \end{aligned}

「4.直交性」による計算の概略

P0(x)P_0(x) は0次多項式,つまり定数である。

11P02dx=2 \int_{-1}^1P_0^2dx=2 を満たす正の定数 P0P_0 を求めると,P0=1P_0=1 となる。

P1(x)=Ax+BP_1(x)=Ax+B とおく。

11(Ax+B)1dx=011(Ax+B)2dx=23 \int_{-1}^1(Ax+B)\cdot 1dx=0\\ \int_{-1}^1(Ax+B)^2dx=\dfrac{2}{3} を満たす A,BA,B を求める。一つ目の式から B=0B=0 が分かり,二つ目の式から A2=1A^2=1 が分かる。よって,P1(x)=xP_1(x)=x である。

P2(x)=Ax2+Bx+CP_2(x)=Ax^2+Bx+C とおく。

まず, 11P2(x)xdx=0 \int_{-1}^1P_2(x)\cdot xdx=0 から B=0B=0 が分かる。そして,11P2(x)1dx=0\displaystyle\int_{-1}^1P_2(x)\cdot 1dx=011P22(x)dx=25\displaystyle\int_{-1}^1P_2^2(x)dx=\dfrac{2}{5} から AACC が求まる。

なお,計算の途中で偶関数と奇関数の性質を用いると楽。

直交性と線型代数学に関連する話題

次は,ルジャンドル多項式の直交性についてもう少し詳しく見ていきましょう。

ロドリゲスの公式から直交性を証明

ロドリゲスの公式から直交性を証明してみましょう。

まず準備のための補題を2つ示します。

補題1

非負整数 m<nm < n に対して 11xmPn(x)dx=0 \int_{-1}^1 x^m P_n (x) dx = 0 である。

証明

帰納的に示す。

  1. m=0m=0 のとき 11Pn(x)dx=12nn!11dndxn(x21)n=[dn1dxn1(x21)n]11\begin{aligned} &\int_{-1}^1 P_n (x) dx\\ &= \dfrac{1}{2^n n!} \int_{-1}^1 \dfrac{d^n}{dx^n} (x^2 - 1)^n\\ &= \Big[ \dfrac{d^{n-1}}{dx^{n-1}} (x^2-1)^n \Big]_{-1}^1 \end{aligned} となる。didxi(x21)n\dfrac{d^i}{dx^i} (x^2-1)^n(x21)ni(x^2-1)^{n-i} で割り切れる(帰納的に示すことができる)ため,dn1dxn1(x21)n\dfrac{d^{n-1}}{dx^{n-1}} (x^2-1)^nx21x^2-1 で割り切れる。
    よって 11Pn(x)dx=[dn1dxn1(x21)n]11=0\begin{aligned} &\int_{-1}^1 P_n (x) dx\\ &= \Big[ \dfrac{d^{n-1}}{dx^{n-1}} (x^2-1)^n \Big]_{-1}^1\\ &= 0 \end{aligned} となる。

  2. m=k1m=k-1 で成立するとき 11xkPn(x)dx=12nn!11xkdndxn(x21)n=12nn![xkdn1dxn1(x21)n]1112nn!11kxk1Pn(x)dx\begin{aligned} &\int_{-1}^1 x^k P_n(x) dx\\ &= \dfrac{1}{2^n n!} \int_{-1}^1 x^k \dfrac{d^n}{dx^n} (x^2-1)^n\\ &= \dfrac{1}{2^n n!} \Big[ x^k \dfrac{d^{n-1}}{dx^{n-1}} (x^2-1)^n \Big]_{-1}^1\\ &\quad - \dfrac{1}{2^n n!} \int_{-1}^1 k x^{k-1} P_n (x) dx \end{aligned} 1項目は m=0m=0 のときと同様に 00 になることがわかる。2項目は帰納法の仮定より 00 になる。よって 11xkPn(x)dx=0 \int_{-1}^1 x^k P_n(x) dx = 0 となる。

補題2

Pn(x)P_n (x) の最高次係数(xnx^n の係数)は (2n)!2n(n!)2\dfrac{(2n)!}{2^n (n!)^2} である。

証明

(x21)n(x^2-1)^n の最高次は x2nx^{2n} である。

よって dndxn(x21)n\dfrac{d^n}{dx^n} (x^2-1)^n の最高次は (2n)(n+1)=(2n)!n!(2n) \cdots (n+1) = \dfrac{(2n)!}{n!} である。

こうして Pn(x)=12nn!dndxn(x21)nP_n (x) = \dfrac{1}{2^n n!} \dfrac{d^n}{dx^n} (x^2-1)^n の最高次係数は (2n)!2n(n!)2\dfrac{(2n)!}{2^n (n!)^2} である。

それでは本題に入りましょう。

定理

ロドリゲスの公式をルジャンドル多項式 Pn(x)P_n(x) の定義としたとき, 11Pm(x)Pn(x)dx={22m+1(m=n)0(mn) \int_{-1}^1P_m(x)P_n(x)dx=\begin{cases}\dfrac{2}{2m+1}&(m=n)\\0&(m\neq n)\end{cases}

証明
  • m<nm < n のとき,PmP_mmm 次の多項式である。前の補題1より 11Pm(x)Pn(x)dx=0 \int_{-1}^1 P_m (x) P_n (x) dx = 0 である。

  • m=nm = n のとき
    部分積分すると 11Pm(x)Pm(x)dx=12mm![Pm(x)dm1dxm1(x21)m]11{ddxPm(x)}dm1dxm1(x21)mdx\begin{aligned} &\int_{-1}^1 P_m (x) P_m (x) dx\\ &= \dfrac{1}{2^m m!} \Big[ P_m (x) \dfrac{d^{m-1}}{dx^{m-1}} (x^2-1)^m \Big]\\ &\quad - \int_{-1}^1 \left\{ \dfrac{d}{dx} P_m (x) \right\} \dfrac{d^{m-1}}{dx^{m-1}} (x^2-1)^m dx \end{aligned} 1項目は 00 となる。2項目を再び部分積分する 11{ddxPm(x)}dm1dxm1(x21)mdx=[ddxPm(x)dm2dxm2(x21)m]1111d2dx2Pm(x)dm2dxm2(x21)mdx\begin{aligned} &\int_{-1}^1 \left\{ \dfrac{d}{dx} P_m (x) \right\} \dfrac{d^{m-1}}{dx^{m-1}} (x^2-1)^m dx\\ &= \Big[ \dfrac{d}{dx} P_m (x) \dfrac{d^{m-2}}{dx^{m-2}} (x^2-1)^m \Big]_{-1}^1\\ &\quad -\int_{-1}^1 \dfrac{d^2}{dx^2} P_m (x) \dfrac{d^{m-2}}{dx^{m-2}} (x^2-1)^m dx \end{aligned} となる。これの1項目もまた 00 になる。同様の計算を繰り返すことで 11Pm(x)Pm(x)dx=(1)m2mm!11(x21)mdmdxmPm(x)dx\begin{aligned} &\int_{-1}^1 P_m (x) P_m (x) dx \\ &= \dfrac{(-1)^m}{2^m m!} \int_{-1}^1 (x^2-1)^m \dfrac{d^m}{dx^m} P_m (x) dx \end{aligned} を得る。
    PmP_mmm 次であることと,補題2より dmdxmPm(x)=(2m)!2mm!\dfrac{d^m}{dx^m} P_m (x) = \dfrac{(2m)!}{2^m m!} となるため, 11Pm(x)Pm(x)dx=(1)m(2m)!2m(m!)211(x21)m\begin{aligned} &\int_{-1}^1 P_m (x) P_m (x) dx \\ &= \dfrac{(-1)^m (2m)!}{2^m (m!)^2}\int_{-1}^1 (x^2-1)^m \end{aligned} ベータ関数の積分公式 より 11Pm(x)Pm(x)dx=(1)m(2m)!2m(m!)211(x21)m=(1)m(2m)!2m(m!)2×(1)m(m!)2(2m+1)!22m+1=22m+1\begin{aligned} &\int_{-1}^1 P_m (x) P_m (x) dx \\ &= \dfrac{(-1)^m (2m)!}{2^m (m!)^2} \int_{-1}^1 (x^2-1)^m\\ &= \dfrac{(-1)^m (2m)!}{2^m (m!)^2} \times \dfrac{(-1)^m (m!)^2}{(2m+1)!} 2^{2m+1} \\ &= \dfrac{2}{2m+1} \end{aligned} となる。

大学入試でも(直交性などという言葉は出てきませんが)このような計算をさせる問題はときどき出題されます!

より詳しく直交性について知りたい方は,直交多項式の意味と4つの有名な例三角関数の積の積分と直交性もどうぞ。

線型代数学に関連する話題

証明は省略しますが,以下の定理も知られています。

定理

任意の nn 次多項式 ffP0,P1,,PnP_0 , P_1, \cdots , P_n の線型和で表される。つまり,実数 a0,a1,,ana_0 , a_1 , \cdots ,a_n があり, f(x)=k=0nakPk(x) f(x) = \sum_{k=0}^n a_k P_k (x) と表される。

これらの定理を元に,線型代数を勉強した方向けにルジャンドル多項式の重要な性質を紹介します。

定理

{Pk}k=0,,n\{ P_k \}_{k=0,\cdots ,n}nn 次以下の多項式からなるベクトル空間の直交基底になる。

この記事のように,高校では絶対習わない内容であっても意欲のある高校生に理解できる記事は,マニアック分野に分類することがあります。