第4問
O を複素数平面の原点とし,∣z−2∣=2 を満たす複素数平面上の図形を C とする。C 上に点 Pn(zn) を以下のように定める。
- z1=1+i
- ∠OPnPn+1=90∘ を満たす。
(1) z2 を求めよ。
(2) n≧2 とする。直線 OPn と C の交点のうち Pn ではない点を Qn とおく。線分の長さの積 OPn⋅OQn を求めよ。
(3) zn+1 を zn を用いて表せ。なお,解答する際は zn を z と入力をすること。
(4) zn の実部と虚部をそれぞれ xn と yn とする。このとき n→∞limxn,n→∞limyn を求めよ。
第4問は複素数の問題でした。
∠OPnPn+1=90∘ という条件から argznzn+1−zn=2π がわかります。偏角が 2π である複素数は純虚数ですね。ここで実数 kn を用いて znzn+1−zn=kni と表すことができると気付きましょう。
第4問 (1)
∠OPnPn+1=90∘ より argz1z2−z1=2π である。よって実数 k を用いて
z1z2−z1=ki
と表される。変形して
z2=(1+ik)z1=(1+ik)(1+i)=1−k+(k+1)i
を得る。これを ∣z−2∣=2 に代入すると ∣−(k+1)+(k+1)i∣=2 となる。
∣−(k+1)+(k+1)i∣=∣k+1∣⋅∣−1+i∣=2∣k+1∣ である。
ゆえに k+1=±1 である。k+1=1 のときは k=0 で z2=z1 であるため不適である。したがって k=−2 である。
こうして z2=3−i が得られる。
角の条件を数式的に捉えることは,複素数の問題を解く上でオーソドックスな手法です。一方でこの条件をそのまま幾何的に捉えてみることもできます。
第4問 (1) 別解
円 C の中心を C とおく。C(2) である。
arg1+i2−(1+i)=arg1+i1−i=arg2−2i=arg(−i)
より ∠OP1C=90∘ である。条件より OP1P2=90∘ であった。こうして P1,C,P2 は同一直線状にあることがわかる。
P1,P2 は円周上の点である一方で C は円の中心である。よって 2−z1=z2−2 である。こうして z2=4−z1=3−i である。
次の問題は幾何的に考えることで簡単に解くことができます。
第4問 (2)
円 C の中心を C とおく。C(2) である。
arg1+i2−(1+i)=arg1+i1−i=arg2−2i=arg(−i)
より ∠OP1C=90∘ である。すなわち P1C と OP1 は直交する。C は円の中心であったため,OP1 は円 C の接線であることが従う。
方べきの定理 より
OPn⋅OQn=OP1⋅OP1=∣1+i∣2=2
が得られる。
条件より O,Pn,Qn は同一直線であるため,Qn は zn 実数倍です。
これに加えて最初の条件 ∠OPnPn+1=90∘ を ∠QnPnPn+1=90∘ と解釈し直すことで答えへの道が開けます。
第4問 (3)
Qn を表す複素数を wn とおく。
O,Pn,Qn は同一直線状にあるため,実数 ln を用いて wn=lnzn と表される。
(2) より ∣zn∣⋅∣wn∣=2 である。こうして ln∣zn∣2=2 となり
wn=∣zn∣22zn
が得られる。
∠QnPnPn+1=90∘ であり,3点は同一円周上にある。円周角の定理より QnPn+1 は C の直径である。
こうして wn と zn+1 の中点は C すなわち 2 である。よって 2zn+1+wn=2 である。式を変形することで
zn+1=4−wn=4−∣zn∣22zn
が得られる。
この問題を数式的な処理で解いてみましょう。
第4問 (3) 別解
∠OPnPn+1=90∘ という条件から argznzn+1−zn=2π である。これより実数 kn を用いて
znzn+1−zn=kni
と表すことができる。zn+1 について解くことで
zn+1=(1+kni)zn
が得られる。
Pn+1 は円 C 上の点であるため
∣zn+1−2∣=2
となる。zn+1=(1+kni)zn を代入することで
∣(1+kni)zn−2∣=2
が得られる。
∣(1+kni)zn−2∣2={(1+kni)zn−2}{(1+kni)zn−2}=∣1+kni∣2∣zn∣2−2(1+kni)zn−2(1−kni)zn+4=∣zn∣2+kn2∣zn∣2−2zn−2zn+4−2kn(zn−zn)i=(∣zn∣2−2zn−2zn+4)+kn2∣zn∣2−2kn(zn−zn)i=∣zn−2∣2+kn2∣zn∣2−2kn(zn−zn)i=kn2∣zn∣2−2kn(zn−zn)i+2
これにより
∣(1+kni)zn−2∣2=22=2kn2∣zn∣2−2kn(zn−zn)i+2=2kn2∣zn∣2−2kn(zn−zn)i=0
が得られる。こうして
kn=0,∣zn∣22(zn−zn)i
となる。実際 zn−zn はzn は純虚数であるため,(zn−zn)i は実数となる。ゆえにこの2解は共に実数となる。
kn=0 は zn+1=zn を意味するため不適である。こうして kn=∣zn∣22(zn−zn)i であることが従う。
zn+1=(1+kni)zn に代入すると
zn+1=(1+kni)zn=(1−∣zn∣22(zn−zn))zn=zn−∣zn∣22(zn2−∣zn∣2)=zn+2−∣zn∣22zn2
が得られる。
結果は異なるものの,2つの結果は本質的に同じ意味を持ちます。またこれら両方とも自然な計算によって求められるため,両者とも正答としました。意欲がある人は片方をもう片方に変形してみてください。
最後の問題は zn の極限を求める問題だといえます。
まずは実験をしてみましょう。
z3=517+51iz4=2999−291iz5=169577+1691i
yn はどんどん小さくなっています。図を描くと次のようになります。
ここから zn は円の端 2+2 に収束すると予想できますね。
それでは (3) で求めた漸化式を実部・虚部に分解して計算をしましょう。
第4問 (4)
zn は実数 xn,yn により zn=xn+iyn と表される。
xn+1+iyn+1=zn+1=4−∣zn∣22zn=4−xn2+yn22(xn+iyn)=4−xn2+yn22xn−ixn2+yn22yn
であるため,
⎩⎨⎧xn+1=4−xn2+yn22xnyn+1=−xn2+yn22yn
となる。
数学的帰納法により n≧2 で ∣zn∣>3 を示す。
n=2 のとき ∣z2∣=∣1+3i∣=10>3 である。
n=m のときの成立を仮定する。∣zm∣>3 より ∣∣zm2∣∣<32<1 である。よって ∣∣zm+1+zm2∣∣≦∣zm+1∣+∣∣zm2∣∣<∣zm+1∣+1
であるため,∣zm+1∣+1>4 であり,∣zm+1∣>3 である。こうして示された。これより xn2+yn2=∣zn∣2>9 である。
∣yn+1∣=∣∣∣zn∣2yn∣∣=∣zn∣2∣yn∣<32∣yn∣
であることから,0<∣yn∣<(32)n が得られる。n→∞lim(32)n=0 とはさみうちの原理より n→∞limyn=0 である。
∣z2−2∣=2 であることから (xn−2)2+yn2=2 が成立する。
n≧2 とすると,
xn=4−xn−12+yn−122xn−1≧4−xn−12+yn−122(xn−12+yn−12)=2
である。よって n≧2 で xn=2+2−yn である。
ゆえに
n→∞limxn=n→∞lim(2+2−yn)=2+2
が得られる。
もちろん n→∞limxn を yn 同様にはさみうちの原理により計算することもできますが,yn→0 と円の方程式から計算するほうが簡単です。
(3) の別解で得られた漸化式から同様に計算することができます。
第4問 (4) 別解
zn は実数 xn,yn により zn=xn+iyn と表される。
xn+1+iyn+1=zn+1=zn+2−∣zn∣2zn2=xn+iyn+2−xn2+yn22(xn2−yn2)+4xnyni=xn+xn2+yn24yn2+i(yn−xn2+yn24xnyn)
であるため,
⎩⎨⎧xn+1=xn+xn2+yn24yn2yn+1=yn−xn2+yn24xnyn
となる。
yn+1=yn(1−xn2+yn24xn)
n≧2 のとき,前の解答に述べたとおり
2≦xn≦2+29≦xn2+yn2≦(2+2)2
である。ゆえに
1−4⋅92+2≦1−xn2+yn24xn≦1−4⋅(2+2)22
である。
ここで
1−4⋅(2+2)221−4⋅92+2=1−2(6−42)=82−11=91−942>91−98
となる。
また
342682722−9982−11∣82−11∣<34⋅1.42=48.28<49<98<42−1<942−91<∣∣91−942∣∣<97
より
0<∣∣1−xn2+yn24xn∣∣<97
である。
こうして
∣yn+1∣=∣∣1−xn2+yn24xn∣∣∣yn∣<97∣yn∣
となり
0<∣yn∣<(97)n−1
が従う。
n→∞lim(97)n−1=0
とはさみうちの原理より n→∞limyn=0 が従う。
前の解答同様に
n→∞limxn=n→∞lim(2+2−yn)=2+2
が得られる。
zn の極限を直接計算する方法もあります。
第4問 (4) 別解 2
∣zn+1−(2+2)∣=∣∣2−2−zn2∣∣=∣∣zn(2−2)zn−2∣∣=∣∣zn(2−2){zn−(2+2)}∣∣=∣∣zn(2−2)∣∣∣zn−(2+2)∣<32−2∣zn−(2+2)∣
である。こうして
0<∣zn−(2+2)∣<(32−2)n−1
である。
n→∞lim(32−2)n−1=0
と,はさみうちの原理から n→∞lim∣zn−(2+2)∣=0
が得られる。よって
n→∞limzn=2+2 である。
ゆえに
n→∞limxn=2+2n→∞limyn=0
となる。
こちらのほうが簡潔に済みますね。数列 {an} の収束先を α と予想し ∣an−α∣ が 0 に収束するという論法は非常に有用なので覚えておきましょう。
なお複素数列の収束については学習指導要領に明記されていないため,実部と虚部それぞれの収束として出題しました。
余談
zn をもう少しよく見てみましょう。
z1=1+iz2=3−iz3=517+51iz4=2999−291iz5=169577+1691i
整数論に親しく勘が良い人ならすぐにある共通点に気付くでしょう。
yn の分子が 1 である?いえ,それ以上のものが眠っています。
xn の分子と分母の差を順番に見ていきましょう。0,2,12,70,408 ですね。
12−2⋅02=132−2⋅22=1172−2⋅122=1992−2⋅702=15772−2⋅4082=1
このように X2−2Y2=1 の解なっています。これは ペル方程式 と呼ばれます。ペル方程式は整数論において重要な方程式となります。このような複素数の問題と結びつくのはおもしろいですね。
X2−2Y2=1 の解は (3+22)n−1=an+bn2 により得られる数の組 (an,bn) でつくされます。(なお,n−1 としてあるのは次に記す関係式の見栄えのためで,基本的には n とすることが多いです。)この数列を用いると,
⎩⎨⎧xn=an−bnanyn=an−bn(−1)n−1
となります。
帰納法により示してみましょう。
まず
(3+22)n=(3+22)(an+bn2)=(3an+4bn)+(2an+3bn)2
より
{an+1=3an+4bnbn+1=2an+3bn
となります。これにより
an+1−bn+1an+1=(3an+4bn)−(2an+3bn)3an+4bn=an+bn3an+4bn
となります。
一方
xn+1=4−xn2+yn22xn=4−(an−bn)2an2+(an−bn)212an−bnan=4−an−bn2anan2+1(an−bn)2=4−an2+12(an2−anbn)=an2+14an2+4−2an2+2anbn=an2+an2−2bn22an2+2anbn+4(an2−2bn2)=2an2−2bn26an2+2anbn−8bn2=2(an+bn)(an−bn)2(3an+4bn)(an−bn)=an+bn3an+4bn=an+1−bn+1an+1
と計算されます。
また
yn+1=−xn2+yn22yn=−an−bn2(−1)n−1an2+1(an−bn)2=an2+12(−1)n(an−bn)=2(an2−bn2)2(−1)n(an−bn)=an+bn(−1)n=an+1−bn+1(−1)n
と計算されます。
さて
anbn=21{(3+22)n−1+(3−22)n−1}=221{(3+22)n−1−(3−22)n−1}
となるので
n→∞limbnan=n→∞lim(3+22)n−1−(3−22)n−1(3+22)n−1+(3−22)n−12=n→∞lim1−(3+223−22)n−11+(3+223−22)n−12=2
となります。
また n→∞liman=∞ と合わせて
n→∞limxnn→∞limyn=n→∞liman−bnan=n→∞limbnan−1bnan=2−12=2+2=n→∞liman−bn(−1)n−1=n→∞liman(1−anbn)(−1)n−1=0
となります。