引き続き,E<V0 で考えていきます。
ポテンシャル障壁に入射した粒子はどのような挙動を示すか考えていきます。古典力学では,自身のエネルギー E がポテンシャルの高さ V0 を下回る場合には,そのポテンシャルを乗り越えることはできませんでしたが,量子力学ではどうなるでしょうか。
透過率を求める
x<0,a<x での粒子の流れを計算していきます。
ボルンの確率解釈(確率規則),階段型ポテンシャルの解での議論より,x<0 での粒子の流れ Jx<0 は
Jx<0=mℏIm(ϕL∗ϕL′)
と求めることができるのでした。ここで
ϕL∗=A+∗e−ika+A−∗eika,ϕL′=ik(A+eika−A−eika)
∴ϕL∗ϕL′=(A+∗e−ika+A−∗eika)⋅ik(A+eika−A−eika)=ik(∣A+∣2−A+∗A−e−2ika+A−∗A+e2ika−∣A−∣2)=ik(∣A+∣2−∣A−∣2+2iIm(A+A−∗e2ika))=ik(∣A+∣2−∣A−∣2)−2kIm(A+A−∗e2ika)
ゆえに
Jx<0=mℏk(∣A+∣2−∣A−∣2)
x=−∞ から入射する粒子の流れ Jinc(−∞→0) は
Jinc(−∞→0)=mℏk∣A+∣2
と表すことができます。
同様にして,a<x の領域に透過していく粒子の流れ Jtra(a→∞) は
Jtra(a→∞)=mℏkIm(ϕR∗ϕR′)=mℏk∣C+∣2
と求めることができます。
したがって,x=−∞ から入射した粒子が a<x の領域に透過していく確率 Ptra は,(11)より
Ptra=∣Jinc(−∞→0)∣∣Jtra(a→∞)∣=∣A+∣2∣C+∣2=∣∣A+C+∣∣=∣∣(cosh(k′a)+i2kk′k′2−k2sinh(k′a))−1e−ika∣∣2=∣cosh(k′a)+i2kk′k′2−k2sinh(k′a)∣−2=[(cosh(k′a))2+(2kk′k′2−k2)(sinh(k′a))2]−1=[1+(1+4k′2k2k′4−2k′2k2+k4)(sinh(k′a))2]−1=[1+(2kk′k′2+k2)2(sinh(k′a))2]−1(13)
のように求めることができます。ただし,上の式変形において,第4行から第5行,第5行から第6行,第6行から第7行へは,それぞれ
∣eiθ∣=1(θ∈R)
∣a+ib∣2=a2+b2(a,b∈R)
(coshx)2−(sinhx)2=1(x∈R)
が成り立つことを用いています。これらについては,詳しくは
をご覧ください。
トンネル効果
(13)式より,
0<Ptra<1
が成り立っていることがわかります。これより,量子力学においては,粒子は自身のエネルギーより大きいポテンシャルをある一定の確率で透過することがわかります。このことをトンネル効果と呼びます。
Ptra を E と V0 で表してみましょう。シュレディンガー方程式を解く過程で
k=ℏ22mE,k′=ℏ22m(V0−E)
という関係が得られていました。
ここから
(2kk′)2=(2ℏ22mEℏ22m(V0−E))2=16ℏ4m2E(V0−E)
(k′2+k2)2=(ℏ22mE+ℏ22m(V0−E))2=(ℏ22mV0)2=4ℏ4m2V02
∴(2kk′k′2+k2)2=16ℏ4m2E(V0−E)4ℏ4m2V02=4E(V0−E)V02=[4V0E(1−V0E)]−1
が得られます。(13)より
Ptra=[1+(2kk′k′2+k2)2(sinh(k′a))2]−1=⎣⎡1+4V0E(1−V0E)(sinh(aℏ2mV0(1−V0E)))2⎦⎤−1
0<E<V0 より,V0E=λ とおくと,0<λ<1 であり,Ptra は
Ptra=⎣⎡1+4λ(1−λ)(sinh(aℏ2mV0(1−λ)))2⎦⎤−1
と表すことができます。
これをグラフに表すと下図のようになります。
【補足】確率の保存
x=0 で粒子が反射される確率 Pref を求めてみましょう。これまでの議論と同様に考えて,Pref は
Pref=∣∣A+A−∣∣2=∣∣cosh(k′a)+i2kk′k′2−k2sinh(k′a)−i2ikk′k′2+k2sinh(k′a)∣∣2=1+(2kk′k′2+k2)2(sinh(k′a))2(2ikk′k′2+k2)2(sinh(k′a))2
のように求められます。これと(13)より
Ptra+Pref=1
が成り立っていることがわかります。