一般に,∫dxρ(x,t) は t の関数となります。ところが,これは全空間に粒子が存在する確率なので,時刻によらず常に1(あるいは何らかの正の実数)で一定であってほしいです。ここでは全確率が保存する条件について議論します。
まず,シュレディンガー方程式より以下が成り立ちます。以下では波動関数 ψ は規格化されているものとします。
iℏ∂t∂ψ(x,t)=(−2mℏ2∂x2∂2+V(x,t))ψ(x,t)=−2mℏ2∂x2∂2ψ(x,t)+V(x,t)ψ(x,t)(1)
一方,(1)式の両辺の複素共役を取ると,以下の式が成り立ちます。
−iℏ∂t∂ψ∗(x,t)=−2mℏ2∂x2∂2ψ∗(x,t)+V∗(x,t)ψ∗(x,t)(2)
(1)×ψ∗−(2)×ψ より
iℏ(ψ∗∂t∂ψ+ψ∂t∂ψ∗)=−2mℏ2(ψ∗∂x2∂2ψ−ψ∂x2∂2ψ∗(x,t))+(V−V∗)ψ∗ψ(3)
ここで,積の微分則(詳しくは積の微分公式とその証明の味わい)より
∂x∂(ψ∗∂x∂ψ−ψ∂x∂ψ∗)=∂x∂ψ∗⋅∂x∂ψ+ψ∗∂x2∂2ψ−∂x∂ψ⋅∂x∂ψ∗−ψ∂x2∂2ψ∗=(ψ∗∂x2∂2ψ−ψ∂x2∂2ψ∗(x,t))
が成り立ちます。これより,(3)式は以下のように書き換えられます。
iℏ(ψ∗∂t∂ψ+ψ∂t∂ψ∗)=−2mℏ2∂x∂(ψ∗∂x∂ψ−ψ∂x∂ψ∗)+(V−V∗)ψ∗ψ(4)
いま,物理量 J を
J≡−i2mℏ∂x∂(ψ∗∂x∂ψ−ψ∂x∂ψ∗)(a)
を定義します。J は粒子の存在確率の流れを表しています(後ほど補足します)。また
∂t∂ρ=∂t∂(ψ∗ψ)=ψ∗∂t∂ψ+ψ∂t∂ψ∗
が成り立つことより,(4)式は整理すると
∂t∂ρ=−∂x∂J+iℏ1(V−V∗)ρ(5)
と表すことができます。これより t と x は独立であるため
∂t∂∫dxρ=∫dx∂t∂ρ=∫dx(−∂x∂J+iℏ1(V−V∗)ρ)=−∫dx∂x∂J+iℏ1∫dx(V−V∗)ρ=−[x→∞limJ(x)−x→−∞limJ(x)]+iℏ1∫dx(V−V∗)ρ(6)
ここでは十分性のみ議論することにします。以下の2つの条件が満たされるとき,(6)式が0になることがわかります。
- x→∞limJ(x)=0 かつ x→−∞limJ(x)=0 が成り立つとき
物理的には,無限遠で粒子の存在確率の流れが存在しない,すなわち粒子が存在しないことを意味します。
- V−V∗=0 つまり V が実数であるとき
ここまでの議論の結果をまとめてみましょう。
全確率が保存する条件
-
x→∞limJ(x)=0 かつ x→−∞limJ(x)=0 が成り立つ(無限遠で粒子が存在しない)
-
ポテンシャル V が実数である
という2つの条件が成り立つとき,全空間での粒子の存在確率 ∫dxρ が時刻 t について保存する。
【補足】 J が確率の流れを表すことについて
物理量 J を (a) 式のように定義します。(5)式において,V が実数であることを用いると,
∂t∂ρ+∂x∂J=0
が成り立ちます。この関係式(連続の公式とも呼ばれます)は流体力学にも登場します。流体力学ではこの関係式は,外部の吸い込みや湧き出しがないとき,密度 ρ で流れ J の流体の量は保存されるということを表しています。
これに則って量子力学で連続の公式を解釈すると,上記の 1. と 2. の条件が成り立つとき,(確率)密度 ρ,(確率の)流れ J の確率は保存されると解釈することができます。これにより,(a)式で表される物理量 J は確率の流れを表すと考えることができます。
ボルンの確率解釈に至った詳しい経緯については,別記事にて解説予定です。