階段型ポテンシャルの解

以下の記事で,箱型ポテンシャルや井戸型ポテンシャルについて,束縛状態となるような固有状態を求めてきました。

ここからは,階段型ポテンシャルを題材として,束縛状態でないような固有状態があることを見ていきます。

以下では1次元の場合について議論していきます。

階段型ポテンシャルとは

階段型ポテンシャルとは,以下のようなかたちをしたポテンシャルのことです。

stairpotential

式で表すと以下のようになります。

V(x)={0(x0)V0(>0)(x>0)(☆) \begin{aligned} V(x)= \begin{cases} 0 & (x \leq 0) \\ V_0 (>0) & (x > 0) \tag{☆} \end{cases} \end{aligned}

ポテンシャル V(x)V(x) は時刻 tt によらないので,変数分離法により,時間に依存しないシュレディンガー方程式を考えることができます。もとの1次元シュレディンガー方程式の波動関数を ψ\psi とすると,

{ψ=Cϕ(x)exp(iEt)(1)22m2x2ϕ+V(x)ϕ=Eϕ(2) \begin{aligned} \begin{cases} \psi = C \phi(x) \exp{\left(- \dfrac{i E t}{\hbar} \right )} \qquad (1)\\ - \dfrac{\hbar^2}{2m} \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} \phi + V(x) \phi = E \phi \qquad (2) \end{cases} \end{aligned}

が成り立ちます。ここに,CC は定数です。

(2)については,V(x)V(x) の表式により以下のように場合分けができます。

22m2x2ϕ={Eϕ(x0)(21)(EV0)ϕ(x>0)(22) \begin{aligned} -\dfrac{\hbar^2}{2m} \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} \phi = \begin{cases} E \phi & (x \leq 0) \qquad (2-1)\\ (E - V_0) \phi & (x > 0) \qquad (2-2) \end{cases} \end{aligned}

波動関数のエネルギー固有値 EEV0V_0 の大小についてさらに場合分けしていきます。

E>V0E > V_0 のとき

時間に依存しないシュレディンガー方程式を解く

E>V0(>0)E > V_0 (>0) のときを考えます。このとき,(2-1)・(2-2)は以下のように変形できます。

2x2ϕ={2mE2ϕ=k12ϕ(x0)(21)2m(EV0)2ϕ=k22ϕ(x>0)(22) \begin{aligned} \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} \phi = \begin{cases} - \dfrac{2mE}{\hbar^2} \phi = - k_{1}^2 \phi & (x \leq 0) \qquad (2-1)\\ - \dfrac{2m(E - V_0)}{\hbar^2} \phi = - k_{2}^2 \phi & (x > 0) \qquad (2-2) \end{cases} \end{aligned}

ここで,k1,k2k_{1}, k_{2} は正の定数であり,

k1=2mE2,k2=2m(EV0)2 k_{1} = \sqrt{\dfrac{2mE}{\hbar^2}} \, , \, k_{2} = \sqrt{\dfrac{2m(E-V_0)}{\hbar^2}}

を満たしています。

x0x \leq 0 での解は

ϕ0=A+exp(ik1x)+Aexp(ik1x)(3) \phi_{\leq 0} = A_+ \exp{(i k_{1} x)} + A_- \exp{(- i k_{1} x)} \tag{3}

同様に,x>0x > 0 での解は

ϕ>0=B+exp(ik2x)+Bexp(ik2x)(4) \phi_{> 0} = B_+ \exp{(i k_{2} x)} + B_- \exp{(- i k_{2} x)} \tag{4}

のように表されます。ここで,A+,A,B+,BA_+, A_-, B_+, B_- は境界条件などにより定まる定数です。

ここで,exp(ikx)\exp{(i k x)} のかたちの項は xx 軸正方向に進む波を,exp(ikx)\exp{(-i k x)} のかたちの項は xx 軸負方向に進む波を表していると考えることにします。

定数を求める

いま,(☆)のポテンシャルのもとに,x=x = - \infty から xx 軸正方向に粒子を入射することを考えます。x>0x > 0 では xx 軸負方向に進む波はないと考えられるので,

B=0(5) B_- = 0 \tag{5}

となります。

x=0x = 0 での波動関数の連続性を考えます。有限の井戸型ポテンシャルでの議論より

{ϕ0(0)=ϕ>0(0)(61)xϕ0x=0=xϕ>0x=0(62) \begin{aligned} \begin{cases} \phi_{\leq 0} (0) = \phi_{> 0} (0) \qquad (6-1)\\ \left. \dfrac{\partial}{\partial x}\phi_{\leq 0} \right|_{x = 0} = \left. \dfrac{\partial}{\partial x}\phi_{> 0} \right|_{x = 0} \qquad (6-2) \end{cases} \end{aligned}

それぞれに(3)・(4)を代入すると

{A++A=B+A+ik1Aik1=B+ik2 \begin{aligned} \begin{cases} A_+ + A_- = B_+ \\ A_+ i k_1 - A_- i k_1 = B_+ i k_2 \end{cases} \end{aligned}

{A++A=B+(61)A+k1Ak1=B+k2(62) \begin{aligned} \therefore \begin{cases} A_+ + A_- = B_+ \qquad (6-1')\\ A_+ k_1 - A_- k_1 = B_+ k_2 \qquad (6-2') \end{cases} \end{aligned}

A,B+A_-, B_+A+A_+ を用いて表しましょう。 (6-1’),(6-2’)から B+B_+ を消去すると

A+k1Ak1=(A++A)k2 A_+ k_1 - A_- k_1 = (A_+ + A_-) k_2

A=k1k2k1+k2A+ \therefore A_- = \dfrac{k_1 - k_2}{k_1 + k_2} A_+

これを(6-1’)に代入すると

B+=A++k1k2k1+k2A+=2k1k1+k2A+ \begin{aligned} B_+ &= A_+ + \dfrac{k_1 - k_2}{k_1 + k_2} A_+ \\ &= \dfrac{2 k_1}{k_1 + k_2} A_+ \end{aligned}

と表すことができます。

反射率・透過率

階段型ポテンシャルは,x=0x = 0 に有限の高さの壁があるとイメージすることができます。x=x = - \infty から粒子を入射したとき,x=0x = 0 でどれだけの粒子がその壁で反射され,またどれだけの粒子がその壁を透過するのか(古典力学では起こり得ないことだが…)を考えていきましょう。

確率(あるいは粒子)の流れ

ボルンの確率解釈(確率規則)で議論したように,以下の物理量 JJ を粒子の存在確率(あるいは粒子)の流れとして考えることができるのでした。

J=i2m(ϕxϕϕxϕ)=mIm(ϕxϕ) J = -i \dfrac{\hbar}{2m} \left(\phi* \dfrac{\partial}{\partial x}\phi - \phi \dfrac{\partial}{\partial x}\phi \right) = \dfrac{\hbar}{m} \mathrm{Im} \left(\phi^* \dfrac{\partial}{\partial x}\phi \right)

以下では簡単のため,この物理量 JJ のことを「粒子の流れ」と呼ぶことにします。xx 軸正方向に流れているとき,JJ の符号は正であるとします。

今回の場合について,具体的に入射率,反射率を計算してみましょう。

反射率

JJ の計算のために,ϕxϕ\phi^* \dfrac{\partial}{\partial x}\phi を計算しておきます。

x0x \leq 0 のとき,

ϕ0xϕ0=(A+exp(ik1x)+Aexp(ik1x))(A+ik1exp(ik1x)+A(ik1)exp(ik1x))=ik1(A+2A2)A+Aik1exp(2ik1x)+AA+ik1exp(2ik1x)=ik1(A+2A2)A+Aik1(cos(2k1x)isin(2k1x))+AA+ik1(cos(2k1x)+isin(2k1x)) =ik1(A+2A2)(A+AAA+)ik1cos(2k1x)(A+A+AA+)sin(2k1x)=ik1(A+2A2)+2Im(A+A)k1cos(2k1x)2Re(A+A)k1sin(2k1x) \begin{aligned} \phi^*_{\leq 0} \dfrac{\partial}{\partial x}\phi_{\leq 0} &= (A_+^* \exp{(-i k_{1} x)} + A_-^{*} \exp{(i k_{1} x)}) \\ & \quad \cdot (A_+ i k_1 \exp{(i k_{1} x)} + A_- (-i k_1)\exp{(- i k_{1} x)}) \\ &= ik_1 (|A_+|^2 - |A_-|^2) \\ & \quad - A_+^* A_- i k_1 \exp{(-2 i k_{1} x)} + A_-^* A_+ i k_1 \exp{(2 i k_{1} x)} \\ &= ik_1 (|A_+|^2 - |A_-|^2) \\ & \quad - A_+^* A_- i k_1 (\cos{(2 k_1 x)} - i \sin{(2 k_1 x)}) \\ & \quad + A_-^* A_+ i k_1 (\cos{(2 k_1 x)} + i \sin{(2 k_1 x)}) \\ &= ik_1 (|A_+|^2 - |A_-|^2) \\ &\quad - (A_+^* A_- - A_-^* A_+)i k_1 \cos{(2 k_1 x)} \\ & \quad - (A_+^* A_- + A_-^* A_+) \sin{(2 k_1 x)} \\ &= ik_1 (|A_+|^2 - |A_-|^2) \\ & \quad + 2 \mathrm{Im} (A_+^* A_-) k_1 \cos{(2 k_1 x)} \\ & \quad - 2 \mathrm{Re} (A_+^* A_-) k_1 \sin{(2 k_1 x)} \end{aligned}

これより,x0x \leq 0 での粒子の流れ J0J_{\leq 0}

J0=mIm(ϕ0xϕ0)=k1m(A+2A2)(7-1) J_{\leq 0} = \dfrac{\hbar}{m} \mathrm{Im} \left(\phi^*_{\leq 0} \dfrac{\partial}{\partial x}\phi_{\leq 0} \right) = \dfrac{\hbar k_1}{m} (|A_+|^2 - |A_-|^2) \tag{7-1}

と表されます。

ここで上記の議論より,x0x \leq 0 では,波動関数のうち A+A_+ に比例する項は xx 軸正方向に進む波(入射波)を,AA_- に比例する項は xx 軸負方向に進む波(反射波)を表しているのでした。したがって,入射/反射する粒子の流れをそれぞれ Jinc,JrefJ_{\text{inc}}, J_{\text{ref}} とすると,xx 軸正方向に流れているとき JJ の符号を正としたことに注意して

Jinc=k1mA+2,Jref=k1mA2(7-1’) J_{\text{inc}} = \dfrac{\hbar k_1}{m} |A_+|^2 \quad , \quad J_{\text{ref}} = - \dfrac{\hbar k_1}{m} |A_-|^2 \tag{7-1'}

J0=Jinc+Jref J_{\leq 0} = J_{\text{inc}} + J_{\text{ref}}

と表すことができます。したがって,反射率 PrefP_{\text{ref}}

Pref=反射する粒子の流れの量入射する粒子の流れの量=JrefJinc=A2A+2=(k1k2)2(k1+k2)2(8-1) \begin{aligned} P_{\text{ref}} &= \dfrac{\text{反射する粒子の流れの量}}{入射する粒子の流れの量} \\ &= \dfrac{|J_{\text{ref}}|}{|J_{\text{inc}}|} \\ &= \dfrac{|A_-|^2}{|A_+|^2} \\ &= \dfrac{(k_1 - k_2)^2}{(k_1 + k_2)^2} \tag{8-1} \end{aligned}

と求められます。

透過率

x>0x > 0 でも同様に,JJ を計算しておきます。

ϕ>0xϕ>0=B+exp(ik2x)B+ik2exp(ik2x)=iB+2k2 \begin{aligned} \phi^*_{> 0} \dfrac{\partial}{\partial x}\phi_{> 0} &= B_+^* \exp{(- i k_{2} x)} \cdot B_+ i k_2 \exp{(i k_{2} x)} \\ &= i |B_+|^2 k_2 \end{aligned}

透過する粒子の流れを JtraJ_{\text{tra}} とすると,x>0x >0 の領域を進行する波が透過波そのものなので,

J>0=Jtra=k2mB+2(7-2) J_{>0} = J_{\text{tra}} = \dfrac{\hbar k_2}{m} |B_+|^2 \tag{7-2}

となります。したがって透過率 PtraP_{\text{tra}}

Ptra=透過する粒子の流れの量入射する粒子の流れの量=JtraJinc=k2B+2k1A+2=k2k1B+2A+2=k2k14k12(k1+k2)=4k1k2(k1+k2)(8-2) \begin{aligned} P_{\text{tra}} &= \dfrac{\text{透過する粒子の流れの量}}{入射する粒子の流れの量} \\ &= \dfrac{|J_{\text{tra}}|}{|J_{\text{inc}}|} \\ &= \dfrac{k_2 |B_+|^2}{k_1 |A_+|^2} \\ &= \dfrac{k_2}{k_1} \dfrac{|B_+|^2}{|A_+|^2} \\ &= \dfrac{k_2}{k_1} \dfrac{4 k_1^2}{(k_1 + k_2)} \\ &= \dfrac{4 k_1 k_2 }{(k_1 + k_2)} \tag{8-2} \end{aligned}

(8-1)・(8-2)より

Pref+Ptra=1 P_{\text{ref}} + P_{\text{tra}} = 1

が成り立つ,すなわち粒子の流れについて確率が保存されていることに注意してください。

EV0E \leq V_0 のとき

引き続き,EV0E \leq V_0 の時の議論を進めていきます。箱型ポテンシャルのときの議論より,0<EV00 < E \leq V_0 として考えます。

解のかたちを求める

x0x \leq 0 のときは,解くべき(時間に依存しない)シュレディンガー方程式のかたちは変わらないので,解のかたちも(3)のまま変わりません。

x>0x > 0 のとき,シュレディンガー方程式は,(2-2)より

2x2=2m(EV0)2ϕ=2m(V0E)2ϕ=ρ2ϕ \begin{aligned} \dfrac{\partial^2}{\partial x^2} &= - \dfrac{2m (E-V_0)}{\hbar^2} \phi \\ &= \dfrac{2m(V_0 - E)}{\hbar^2} \phi \\ &= \rho^2 \phi \end{aligned}

ここで,ρ\rho は正の実数であり,

ρ2=k22k2=±iρ \rho^2 = - k_{2}^2 \, \therefore \, k_{2} = \pm i \rho

が成り立っています。(4),(5)より,x>0x > 0 での固有状態は

{ϕ=B+exp(ρx)(k2=iρ)(91)ϕ=B+exp(ρx)(k2=iρ)(92) \begin{aligned} \begin{cases} \phi = B_{+} \exp{(- \rho x)} & (k_{2} = i \rho) \qquad (9-1)\\ \phi = B_{+} \exp{( \rho x)} & (k_{2} =- i \rho) \qquad (9-2) \end{cases} \end{aligned}

ここで,(9-2)は,遠方にいくにつれて粒子の存在確率が大きくなるような解となっているため,考えないことにします。ゆえに,x>0x > 0 での固有状態として(9-1)を採用します。

反射率・透過率

E>V0E > V_0 のときと同様にして,反射率・透過率を求めていきます。

反射率

反射率を考えたい領域 x0x \leq 0 では,解のかたちは E>V0E > V_0 のときと変わっていないので,(8-1)に k2=iρk_2 = i \rho を代入して求めることができます。今回 k2k_2 が虚数であることに注意して

Pref=k1iρ2k1+iρ2=(k1iρ)(k1+iρ)(k1+iρ)(k1iρ)=1 \begin{aligned} P_{\text{ref}} &= \dfrac{|k_1 - i \rho|^2}{|k_1 + i \rho|^2} \\ &= \dfrac{(k_1 - i \rho)(k_1 + i \rho)}{(k_1 + i \rho)(k_1 - i \rho)} \\ &= 1 \end{aligned}

透過率

x>0x > 0 では解のかたちが変わっているので,この領域での粒子の流れ JJを求め直します。JJ

J=mIm(ϕxϕ) J = \dfrac{\hbar}{m} \mathrm{Im} \left(\phi^* \dfrac{\partial}{\partial x}\phi \right)

として求められるのでした。

いま,(9-1)より x>0x > 0ϕ\phi は実数となっています。したがって,ϕ,xϕ\phi^*, \dfrac{\partial}{\partial x}\phi も実数となるので,x>0x > 0 において

J=0 J = 0

となります。これより,

Ptra=0 P_{\text{tra}} = 0

となります。このときもやはり,

Pref+Ptra=1 P_{\text{ref}} + P_{\text{tra}} = 1

が成り立っています。

古典論との違い

古典論では,粒子の持つエネルギー EE がポテンシャルのエネルギー V0V_0 より小さいような範囲には,粒子は存在することができません。

しかし,量子力学では,EV0E \leq V_0 となるような x>0x > 0 でも,(9-1)のように 00 でない固有状態が存在します。つまり,量子力学では,粒子の持つエネルギーがポテンシャルより小さい領域でも,粒子は存在しうるということになります。

古典論との違いは非常に重要で,別記事にて解説予定のトンネル効果とも関連してきます。