時間に依存しないシュレディンガー方程式を解く
E>V0(>0) のときを考えます。このとき,(2-1)・(2-2)は以下のように変形できます。
∂x2∂2ϕ=⎩⎨⎧−ℏ22mEϕ=−k12ϕ−ℏ22m(E−V0)ϕ=−k22ϕ(x≤0)(2−1)(x>0)(2−2)
ここで,k1,k2 は正の定数であり,
k1=ℏ22mE,k2=ℏ22m(E−V0)
を満たしています。
x≤0 での解は
ϕ≤0=A+exp(ik1x)+A−exp(−ik1x)(3)
同様に,x>0 での解は
ϕ>0=B+exp(ik2x)+B−exp(−ik2x)(4)
のように表されます。ここで,A+,A−,B+,B− は境界条件などにより定まる定数です。
ここで,exp(ikx) のかたちの項は x 軸正方向に進む波を,exp(−ikx) のかたちの項は x 軸負方向に進む波を表していると考えることにします。
定数を求める
いま,(☆)のポテンシャルのもとに,x=−∞ から x 軸正方向に粒子を入射することを考えます。x>0 では x 軸負方向に進む波はないと考えられるので,
B−=0(5)
となります。
x=0 での波動関数の連続性を考えます。有限の井戸型ポテンシャルでの議論より
⎩⎨⎧ϕ≤0(0)=ϕ>0(0)(6−1)∂x∂ϕ≤0∣∣x=0=∂x∂ϕ>0∣∣x=0(6−2)
それぞれに(3)・(4)を代入すると
{A++A−=B+A+ik1−A−ik1=B+ik2
∴{A++A−=B+(6−1′)A+k1−A−k1=B+k2(6−2′)
A−,B+ を A+ を用いて表しましょう。
(6-1’),(6-2’)から B+ を消去すると
A+k1−A−k1=(A++A−)k2
∴A−=k1+k2k1−k2A+
これを(6-1’)に代入すると
B+=A++k1+k2k1−k2A+=k1+k22k1A+
と表すことができます。
反射率・透過率
階段型ポテンシャルは,x=0 に有限の高さの壁があるとイメージすることができます。x=−∞ から粒子を入射したとき,x=0 でどれだけの粒子がその壁で反射され,またどれだけの粒子がその壁を透過するのか(古典力学では起こり得ないことだが…)を考えていきましょう。
確率(あるいは粒子)の流れ
ボルンの確率解釈(確率規則)で議論したように,以下の物理量 J を粒子の存在確率(あるいは粒子)の流れとして考えることができるのでした。
J=−i2mℏ(ϕ∗∂x∂ϕ−ϕ∂x∂ϕ)=mℏIm(ϕ∗∂x∂ϕ)
以下では簡単のため,この物理量 J のことを「粒子の流れ」と呼ぶことにします。x 軸正方向に流れているとき,J の符号は正であるとします。
今回の場合について,具体的に入射率,反射率を計算してみましょう。
反射率
J の計算のために,ϕ∗∂x∂ϕ を計算しておきます。
x≤0 のとき,
ϕ≤0∗∂x∂ϕ≤0=(A+∗exp(−ik1x)+A−∗exp(ik1x))⋅(A+ik1exp(ik1x)+A−(−ik1)exp(−ik1x))=ik1(∣A+∣2−∣A−∣2)−A+∗A−ik1exp(−2ik1x)+A−∗A+ik1exp(2ik1x)=ik1(∣A+∣2−∣A−∣2)−A+∗A−ik1(cos(2k1x)−isin(2k1x))+A−∗A+ik1(cos(2k1x)+isin(2k1x)) =ik1(∣A+∣2−∣A−∣2)−(A+∗A−−A−∗A+)ik1cos(2k1x)−(A+∗A−+A−∗A+)sin(2k1x)=ik1(∣A+∣2−∣A−∣2)+2Im(A+∗A−)k1cos(2k1x)−2Re(A+∗A−)k1sin(2k1x)
これより,x≤0 での粒子の流れ J≤0 は
J≤0=mℏIm(ϕ≤0∗∂x∂ϕ≤0)=mℏk1(∣A+∣2−∣A−∣2)(7-1)
と表されます。
ここで上記の議論より,x≤0 では,波動関数のうち A+ に比例する項は x 軸正方向に進む波(入射波)を,A− に比例する項は x 軸負方向に進む波(反射波)を表しているのでした。したがって,入射/反射する粒子の流れをそれぞれ Jinc,Jref とすると,x 軸正方向に流れているとき J の符号を正としたことに注意して
Jinc=mℏk1∣A+∣2,Jref=−mℏk1∣A−∣2(7-1’)
J≤0=Jinc+Jref
と表すことができます。したがって,反射率 Prefは
Pref=入射する粒子の流れの量反射する粒子の流れの量=∣Jinc∣∣Jref∣=∣A+∣2∣A−∣2=(k1+k2)2(k1−k2)2(8-1)
と求められます。
透過率
x>0 でも同様に,J を計算しておきます。
ϕ>0∗∂x∂ϕ>0=B+∗exp(−ik2x)⋅B+ik2exp(ik2x)=i∣B+∣2k2
透過する粒子の流れを Jtra とすると,x>0 の領域を進行する波が透過波そのものなので,
J>0=Jtra=mℏk2∣B+∣2(7-2)
となります。したがって透過率 Ptra は
Ptra=入射する粒子の流れの量透過する粒子の流れの量=∣Jinc∣∣Jtra∣=k1∣A+∣2k2∣B+∣2=k1k2∣A+∣2∣B+∣2=k1k2(k1+k2)4k12=(k1+k2)4k1k2(8-2)
(8-1)・(8-2)より
Pref+Ptra=1
が成り立つ,すなわち粒子の流れについて確率が保存されていることに注意してください。