シュワルツシルト解

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Einsteinの重力場方程式の解の一つとして,Schwarzschild解と呼ばれる解を議論します。

Schwarzschildがおいた仮定

Schwarzschild解は,原点に1つの質点が置かれた場合の重力場方程式の解です。原点以外では真空と仮定します。このとき, Einsteinの重力場方程式は Gμν=0 G_{\mu\nu} = 0 となります。

ここで,gμνGμν=Rg_{\mu\nu} G^{\mu\nu} = -R より,Gμν=0G_{\mu\nu} = 0 であれば R=0R = 0。これにより, Gμν=0    Rμν=0 G_{\mu\nu} = 0 \iff R_{\mu\nu} = 0 となります。Einsteinの重力場方程式の解とは,Rμν=0R_{\mu\nu} = 0 を満たす計量テンソル gμνg_{\mu\nu} を見つけるということに他なりません。

Schwarzschildは,解を導出する際に以下のような条件を仮定しました。

  • 3次元において,原点に対して対称
  • 重力は時間とは無関係
  • 無限遠点では,計量テンソルはMinkowski計量に一致する

幸い宇宙にある巨大な天体は球形に凝集傾向があり,このような仮定をおいても 現実への応用がわりとできることが知られています。

Schwarzschild解の導出

では,実際に解を求めてみましょう。3次元空間において,原点対称であるから,極座標表示を用いて考えることにします。線素の表現を得ることを試みましょう。 ds2=c2dt2+dx2+dy2+dz2ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2dt,dr,dθ,dϕdt,dr,d\theta, d\phi で表されたものを代入していくので, 極座標表示した線素はこれらの 22 次式のみを含みます。

ここで,drdθ,dθdϕ,dϕdrdrd\theta, d\theta d\phi, d\phi dr を含む項に関しては消えることがすぐわかります。なぜなら,θθ\theta \to - \theta としたとき drdθdrdθdrd\theta \to -drd\theta であり,対称性からこの変化に対して線素の変化があってはならないので, drdθ(drdθ)=0 drd\theta - (- drd\theta) = 0 drdθ=0 \therefore drd\theta = 0 となるからです。その他もこれと同様です。さらに,dtdθ,dtdϕ,dtdrdtd\theta, dtd\phi, dtdr ついても,時間に重力は無関係なことから, tt を変化させて同様の議論をすれば これらを含む項に関しては消えることがわかります。

よって, ds2=Uc2dt2+Vdr2+Wr2dθ2+Xr2sin2θdϕ2 ds^2 = -Uc^2 dt^2 + Vdr^2 + Wr^2 d\theta^2 + Xr^2 \sin^2 \theta d\phi^2 という形で線素を表せるはずです。球対称であることから,U,V,W,XU,V,W,Xrr のみの関数です。

ここで,WXW \neq X であるとすると,θ\thetaϕ\phi の回転により線素が異なることになってしまうのでおかしいです。よって, ds2=Uc2dt2+Vdr2+Wr2(dθ2+sin2θdϕ2) ds^2 = -Uc^2 dt^2 + Vdr^2 + Wr^2 (d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2) となります。

いままで,rr の取り決めの制約はなかったので,簡単のため Wr2=r2Wr^2 = r^2 つまり W=1W = 1 となるような rr を 基準として系をとりなおすことにします。rr の尺度を変えただけであり,たんなる計算の簡略化のためです。

よって, ds2=Uc2dt2+Vdr2+r2(dθ2+sin2θdϕ2) ds^2 = -Uc^2 dt^2 + Vdr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2) で線素を表すことができます。これを ds2=e2νc2dt2+e2λdr2+r2(dθ2+sin2θdϕ2) ds^2 = -e^{2\nu} c^2 dt^2 + e^{2\lambda}dr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2) と表しても一般性を失わないのでこうおくことにします。

ここで,条件の3つめにより,rr \to \infty において,線素はMinkowski空間におけるものと同じになる必要があるので, e2ν,e2λ1 e^{2\nu}, e^{2\lambda} \to 1 となる必要があることを注意しておきましょう。

ここから,gμνg_\mu\nu について, g00=e2ν,g11=e2λ,g22=r2,g33=r2sin2θ g_{00} = -e^{2\nu}, g_{11} = e^{2\lambda}, g_{22} = r^2, g_{33} = r^2 \sin^2 \theta であり,これ以外は0を成分に持ちます。また,これより,gμνg^{\mu\nu} について, g00=e2ν,g11=e2λ,g22=r2,g33=r2sin2θ g^{00} = -e^{-2\nu}, g^{11} = e^{-2\lambda}, g^{22} = r^{-2}, g^{33} = r^{-2} \sin^{-2} \theta

Ricciテンソルを計算します。 Γνσμ=gμλΓλνσ=12gμλ(gλνxσ+gλσxνgνσxλ)\begin{aligned} \Gamma^\mu_{\nu\sigma} &= g^{\mu\lambda}\Gamma_{\lambda \nu \sigma}\\ &= \dfrac{1}{2}g^{\mu\lambda} \left(\dfrac{\partial{g_{\lambda\nu}}}{\partial{x^\sigma}} + \dfrac{\partial{g_{\lambda\sigma}}}{\partial{x^\nu}} - \dfrac{\partial{g_{\nu\sigma}}}{\partial{x^\lambda}}\right) \end{aligned} を利用します。rr による偏微分を,プライムをつけて表すことにすれば, Γ001=g1λΓλ00=g11Γ100=12g11(g10x0+g10x0g00x1)=νe2ν2λ\begin{aligned} \Gamma^1_{00} &= g^{1\lambda}\Gamma_{\lambda 00}\\ &= g^{11}\Gamma_{1 00}\\ &= \dfrac{1}{2}g^{11} \left(\dfrac{\partial{g_{10}}}{\partial{x^0}} + \dfrac{\partial{g_{10}}}{\partial{x^0}} - \dfrac{\partial{g_{00}}}{\partial{x^1}}\right)\\ &= \nu' \cdot e^{2\nu - 2\lambda} \end{aligned} Γ111=g11Γ111=12g11(g11x1)=λ\begin{aligned} \Gamma^1_{11} &= g^{11}\Gamma_{111}\\ &= \dfrac{1}{2}g^{11}\left(\dfrac{\partial{g_{11}}}{\partial{x^1}}\right)\\ &= \lambda' \end{aligned} などと計算していくと, Γ001=νe2ν2λΓ111=λΓ221=re2λΓ331=re2λsin2θΓ100=νΓ122=Γ133=r1Γ233=cosθsinθΓ332=sinθcosθ\begin{aligned} \Gamma^{1}_{00} &= \nu' e^{2\nu - 2\lambda}\\ \Gamma^{1}_{11} &= \lambda'\\ \Gamma^{1}_{22} &= -r e^{-2\lambda}\\ \Gamma^{1}_{33} &= -r e^{-2\lambda} \sin^2 \theta\\ \Gamma^{0}_{10} &= \nu'\\ \Gamma^{2}_{12} &= \Gamma^{3}_{13} = r^{-1}\\ \Gamma^{3}_{23} &= \dfrac{\cos \theta}{\sin \theta}\\ \Gamma^{2}_{33} &= -\sin \theta \cos \theta \end{aligned} これら以外の成分は0です。ただし,Christoffelの記号の下2つの添字については対称であることに留意してください。つまり, Γ100=Γ010 \Gamma^0_{10} = \Gamma^0_{01} 等が成立します。

さらにこれらを用いて,Ricciテンソル を計算すれば, R00=(νλν+ν2+2νr)e2ν2λR11=ν+λνν2+2νrR22=(1rν+rλ)e2λ+1R33=R22sin2θ\begin{aligned} R_{00} &= \left(\nu'' - \lambda' \nu' + \nu'^2 + \dfrac{2\nu'}{r}\right) e^{2\nu - 2\lambda}\\ R_{11} &= -\nu'' + \lambda' \nu' - \nu'^2 + \dfrac{2\nu'}{r}\\ R_{22} &= (-1 - r\nu' + r\lambda') e^{-2\lambda} + 1\\ R_{33} &= R_{22} \sin^2 \theta \end{aligned} となります。これら以外の成分は0です。

さて,Einsteinの重力場方程式により,Rμν=0R_{\mu\nu} = 0 が要求されます。 {R00=0R11=0 \begin{cases} R_{00} = 0\\ R_{11} = 0\\ \end{cases} {νλν+ν2+2νr=0ν+λνν2+2νr=0 \Longrightarrow \begin{cases} \nu'' - \lambda' \nu' + \nu'^2 + \dfrac{2\nu'}{r} = 0\\ -\nu'' + \lambda' \nu' - \nu'^2 + \dfrac{2\nu'}{r} = 0 \end{cases} λ+ν=0 \Longrightarrow \lambda' + \nu' = 0 (λ+ν)=0(1) \Longrightarrow (\lambda + \nu)' = 0 \tag{1} これより,λ+ν\lambda + \nu は定数です。ここで,式: e2ν,e2λ1 e^{2\nu}, e^{2\lambda} \to 1 より,rr \to \infty では,λ,ν0\lambda, \nu \to 0。 よって, λ+ν=0(2) \lambda + \nu = 0 \tag{2} さらに, R22=0 R_{22} = 0 より, (1rν+rλ)e2λ+1=0 (-1 - r\nu' + r\lambda')e^{-2\lambda} + 1 = 0 ここで,式 (1),(2)(1),(2) より, (1+2rν)e2ν=1(re2ν)=1re2ν=r2m(3)\begin{aligned} (1 + 2r\nu') e^{2\nu} &= 1\\ (re^{2\nu})' &= 1\\ re^{2\nu} &= r -2m \tag{3} \end{aligned} ここで,2m-2m は積分定数です。ここまでをまとめると, Rμν=0    {R00=0R11=0R22=0R33=0{re2ν=r2mλ+ν=0 R_{\mu\nu} = 0 \iff \begin{cases} R_{00} = 0\\ R_{11} = 0\\ R_{22} = 0\\ R_{33} = 0 \end{cases} \Rightarrow \begin{cases} re^{2\nu} = r -2m\\ \lambda + \nu = 0 \end{cases} ちなみに,逆に最右辺を仮定しても,Rμν=0R_{\mu\nu} = 0 を示すことができます。つまり,これらは全て同値であることを証明できます。

これらの式より,計量テンソルを求められます。式 (3)(3) により, g00=e2ν=(12mr) g_{00} = -e^{2\nu} = -\left(1 - \dfrac{2m}{r}\right) また, g11=e2λ=e2ν=(12mr)1 g_{11} = e^{2\lambda} = e^{-2\nu} = \left(1 - \dfrac{2m}{r}\right)^{-1} これらにより,Schwarzschild解ds2=(12mr)c2dt2+(12mr)1dr2+r2(dθ2+sin2θdϕ2) ds^2 = -\left(1 - \dfrac{2m}{r}\right)c^2 dt^2 + \left(1 - \dfrac{2m}{r}\right)^{-1} dr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2) を得ます。

Schwarzschild解の別の形

測地線方程式の節では,ある条件のもと, g00=12ϕc2 g_{00} = -1 - \dfrac{2\phi}{c^2} が成立することを導きました(当然ですが,ここでのϕ\phidϕd\phiϕ\phi とは異なります)。今考えている重力場が,定常な弱重力場であることすると,この式は成立します。このもとで, 12ϕc2=(12mr)m=rϕc2\begin{aligned} -1 - \dfrac{2\phi}{c^2} &= -\left(1 - \dfrac{2m}{r}\right)\\ \therefore m = - \dfrac{r\phi}{c^2} \end{aligned} ここで,原点に質量 MM があるとき, ϕ=GMr \phi = -\dfrac{GM}{r} より, m=GMc2 m = \dfrac{GM}{c^2} これを代入すれば,Schwarzschild解の別の形を導けます: ds2=(12GMc2r)c2dt2+(12GMc2r)1dr2+r2(dθ2+sin2θdϕ2) ds^2 = -\left(1 - \dfrac{2GM}{c^2r}\right)c^2 dt^2 + \left(1 - \dfrac{2GM}{c^2r}\right)^{-1} dr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2 \theta d\phi^2)

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